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入学前
弟は可愛い
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「兄様? 体調はどうですか?」
そう言いながら部屋のドアをそっと開けたのはアンジェだ。
カネシャによく似た茶色の髪と、父親譲りの翠の瞳が心配そうに俺を見つめる。
第一印象は悪くない。
「調子はいいよ。こちらにおいで」
「はい!」
嬉しそうにニコニコしながらベッドの横にある椅子に座る。
今日は何があったとか、どんな勉強をしたとか、たくさんお喋りをするのを頷きながら聞いてやる。
すると、ふと視線を下に向けた。
「兄様と話せるようになるなんて……僕は嬉しいです」
「体調が悪くて、なかなか相手をしてあげられなくてごめんね」
「いいえ! ずっと話したかったんです。母様は、兄様は病気だから近付いちゃダメだって言うし……兄様も部屋の中に入れてくれなかったから……こうやって話せるようになって嬉しいです」
15歳なのに、えへへっと笑う顔はまだ幼い子供みたいだ。
正直に言おう──可愛い……。ディノの弟はこんなに可愛いじゃないか!
夫人のように俺の事を邪魔者扱いするのなら、ボロボロにしてポイッと捨ててやろうと思っていたのに、予想外に可愛い。弟ってこんな感じなんだ。
家族のいなかった俺にはとても新鮮だった。
「アンジェは、こういう時にどうされると嬉しい?」
「え?」
キョトンとしてからマジマジと見つめられた。
弟がいた事がないから扱いがわからない。
「僕は今、アンジェが可愛いと思ったよ。何か喜ぶ事をしてあげたいのだけれど、アンジェはどうされたい?」
もじもじとしながら、上目遣いで見つめられれば、更に可愛いと思う。
「そ、それなら……あ、頭を撫でて下さい……」
なるほど。ペットのように撫でてやればいいんだな。
そっと手を伸ばせば、アンジェが頭を寄せてくる。
その頭を優しく撫でてやれば、目を細めて気持ちよさそうに笑う。
「僕は今の兄様が好きです……」
「そう──なら良かった」
アンジェは俺に懐いてくれたみたいだ。
俺も弟とはこんなにも可愛いものなのかと嬉しく思う。
「兄様、体調が良い日には庭に出てみませんか?」
「そうだね。アンジェが手を引いてくれるなら歩けるような気がするよ」
「はい! その時は、一緒に行きましょうね!」
ニコニコ笑うアンジェにニコニコと笑顔を返した。
◆◇◆
体内の悪い所は治せたけれど、体力がないのはどうしようもない。
多めの食事を用意してもらい、部屋の中で筋トレの毎日だ。
部屋を歩き回れるようになれば、今度は屋敷の中を歩き回るようにした。
使用人達はすれ違えば誰もが挨拶をしてくれるけれど、笑顔で喜ぶ人と夫人の顔色を窺って気まずそうにする人と半々だった。
夫人の機嫌を損ねるのが怖いのだろう。
まぁ、それもわかっているので笑顔でやり過ごす。
こんな中で暮らしてきたディノを可哀想に思う。
「兄様!」
廊下でアンジェが俺を見つけて駆け寄ってきた。
「体調はいいのですか!?」
「いいよ」
「でしたら、庭に行きましょう! 庭の花が咲きそうなんです!」
「ふふっ。連れてって」
「はい!」
嬉しそうなアンジェに手を引かれて庭にでる。
太陽の眩しい光を感じ、心地良い風と地面の土を踏みしめる感触を懐かしいと思う。
ディノになってから初めて外に出た。
心が弾むのは誤魔化せない。
めいいっぱい空気を肺に吸い込んで深呼吸する。
空気が美味しいと感じるのは初めてだ。
「兄様! 見て下さい! ほら、このブルーローズがもう少しで咲きそうでしょう!」
アンジェの指差した方に視線を向ければ、蕾のブルーローズがあった。
「早く咲かないかな? 兄様と見たいです」
アンジェの嬉しそうな顔を見てほんわかする。
そこでふと思い立つ。
「アンジェ。これからする事はみんなには内緒だよ。約束できる?」
「兄様と約束……はい! 約束します! みんなに内緒ですね」
「この花……良く見ていてね」
手のひらを蕾に向けて、集中させるのは魔力。
魔力を直接与えて成長を促す。これは無属性魔法だ。
少しすると、蕾だった花が開いていく。
久しぶりに回復魔法以外の魔法を使ったけれど上手くいった。
アンジェは、ゆっくりと花開いたブルーローズに目をパチクリさせた後、その花と同じように満開の笑みで笑った。
「兄様! すごい! 花が咲きました! 魔法みたいです!」
「魔法だよ。今回だけ、特別」
内緒という風に人差し指を口元に当ててウインクすれば、アンジェは頬を赤く染めて頷く。
「兄様は……このブルーローズのように美しい人です……」
こんなに美しい花に例えてくれるとは嬉しい。
「僕もアンジェと花を見たかったからね。アンジェは僕の大事な弟だよ」
嬉しい時は頭を撫でればいいんだよな。
そっと頭を撫でてやれば、アンジェも嬉しそうに笑ってくれた。
そう言いながら部屋のドアをそっと開けたのはアンジェだ。
カネシャによく似た茶色の髪と、父親譲りの翠の瞳が心配そうに俺を見つめる。
第一印象は悪くない。
「調子はいいよ。こちらにおいで」
「はい!」
嬉しそうにニコニコしながらベッドの横にある椅子に座る。
今日は何があったとか、どんな勉強をしたとか、たくさんお喋りをするのを頷きながら聞いてやる。
すると、ふと視線を下に向けた。
「兄様と話せるようになるなんて……僕は嬉しいです」
「体調が悪くて、なかなか相手をしてあげられなくてごめんね」
「いいえ! ずっと話したかったんです。母様は、兄様は病気だから近付いちゃダメだって言うし……兄様も部屋の中に入れてくれなかったから……こうやって話せるようになって嬉しいです」
15歳なのに、えへへっと笑う顔はまだ幼い子供みたいだ。
正直に言おう──可愛い……。ディノの弟はこんなに可愛いじゃないか!
夫人のように俺の事を邪魔者扱いするのなら、ボロボロにしてポイッと捨ててやろうと思っていたのに、予想外に可愛い。弟ってこんな感じなんだ。
家族のいなかった俺にはとても新鮮だった。
「アンジェは、こういう時にどうされると嬉しい?」
「え?」
キョトンとしてからマジマジと見つめられた。
弟がいた事がないから扱いがわからない。
「僕は今、アンジェが可愛いと思ったよ。何か喜ぶ事をしてあげたいのだけれど、アンジェはどうされたい?」
もじもじとしながら、上目遣いで見つめられれば、更に可愛いと思う。
「そ、それなら……あ、頭を撫でて下さい……」
なるほど。ペットのように撫でてやればいいんだな。
そっと手を伸ばせば、アンジェが頭を寄せてくる。
その頭を優しく撫でてやれば、目を細めて気持ちよさそうに笑う。
「僕は今の兄様が好きです……」
「そう──なら良かった」
アンジェは俺に懐いてくれたみたいだ。
俺も弟とはこんなにも可愛いものなのかと嬉しく思う。
「兄様、体調が良い日には庭に出てみませんか?」
「そうだね。アンジェが手を引いてくれるなら歩けるような気がするよ」
「はい! その時は、一緒に行きましょうね!」
ニコニコ笑うアンジェにニコニコと笑顔を返した。
◆◇◆
体内の悪い所は治せたけれど、体力がないのはどうしようもない。
多めの食事を用意してもらい、部屋の中で筋トレの毎日だ。
部屋を歩き回れるようになれば、今度は屋敷の中を歩き回るようにした。
使用人達はすれ違えば誰もが挨拶をしてくれるけれど、笑顔で喜ぶ人と夫人の顔色を窺って気まずそうにする人と半々だった。
夫人の機嫌を損ねるのが怖いのだろう。
まぁ、それもわかっているので笑顔でやり過ごす。
こんな中で暮らしてきたディノを可哀想に思う。
「兄様!」
廊下でアンジェが俺を見つけて駆け寄ってきた。
「体調はいいのですか!?」
「いいよ」
「でしたら、庭に行きましょう! 庭の花が咲きそうなんです!」
「ふふっ。連れてって」
「はい!」
嬉しそうなアンジェに手を引かれて庭にでる。
太陽の眩しい光を感じ、心地良い風と地面の土を踏みしめる感触を懐かしいと思う。
ディノになってから初めて外に出た。
心が弾むのは誤魔化せない。
めいいっぱい空気を肺に吸い込んで深呼吸する。
空気が美味しいと感じるのは初めてだ。
「兄様! 見て下さい! ほら、このブルーローズがもう少しで咲きそうでしょう!」
アンジェの指差した方に視線を向ければ、蕾のブルーローズがあった。
「早く咲かないかな? 兄様と見たいです」
アンジェの嬉しそうな顔を見てほんわかする。
そこでふと思い立つ。
「アンジェ。これからする事はみんなには内緒だよ。約束できる?」
「兄様と約束……はい! 約束します! みんなに内緒ですね」
「この花……良く見ていてね」
手のひらを蕾に向けて、集中させるのは魔力。
魔力を直接与えて成長を促す。これは無属性魔法だ。
少しすると、蕾だった花が開いていく。
久しぶりに回復魔法以外の魔法を使ったけれど上手くいった。
アンジェは、ゆっくりと花開いたブルーローズに目をパチクリさせた後、その花と同じように満開の笑みで笑った。
「兄様! すごい! 花が咲きました! 魔法みたいです!」
「魔法だよ。今回だけ、特別」
内緒という風に人差し指を口元に当ててウインクすれば、アンジェは頬を赤く染めて頷く。
「兄様は……このブルーローズのように美しい人です……」
こんなに美しい花に例えてくれるとは嬉しい。
「僕もアンジェと花を見たかったからね。アンジェは僕の大事な弟だよ」
嬉しい時は頭を撫でればいいんだよな。
そっと頭を撫でてやれば、アンジェも嬉しそうに笑ってくれた。
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