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入学前
夫人にも制裁を
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その日の夕食時に一緒にテーブルを囲んでいたのは、父である伯爵と夫人と弟だ。
今まで部屋で一人で食べていた食事を、家族一緒に食べれるようになったのは最近の事だった。
「ディノ。あなた侍女を勝手に辞めさせたそうね」
──きた。
夫人の為に人殺しでも何でもしてくれる、お気に入りの侍女がいなくなって怒っているらしい。
夫人の方から声を掛けなければ、俺の方から言うつもりだった。
「はい。毒入りの紅茶を三日間も飲まされそうになったので仕方なく……飲んだフリをするのも大変でした」
悲しそうに瞳を伏せて見せる。
その言葉に全員の食事の手が止まる。
「それは本当なのか?」
「はい。母様に頼まれたそうですが……今でも信じられません」
伯爵の問いかけに下を向いたまま答えれば、夫人の顔が引きつった。
すると、アンジェが怒り出した。
「母様! そんな事をなさったのですか!?」
「ち、違うわ! ディノの言いがかりよ!」
伯爵は厳しい視線を俺に向ける。
「ディノ……その発言は、カネシャの名誉に関わる」
こんなのは想定内だ。
「聞きますか?」
「「「え?」」」
テーブルの上に、紙に書いた魔法陣を出してその上に手を乗せた。
この魔法陣は、昼間エッラの声を拾うように仕込んでおいた。
魔法陣に魔力を通すのは苦手だ。集中しないと上手くできない。
しばらくすると、魔法陣から声が聞こえてくる。
『も、申し訳ございません! 全てお分かりだったのですね!』
『全て奥様に頼まれたのです! 私はクビにすると脅されただけです!』
『そんな事をしたら死んでしまいます……!』
これを聞いて震える夫人に笑ってしまいそうだ。
手のひらを離すと同時に声も消えた。
「父様、これが今日のその侍女とのやり取りです」
「これは……魔法なのか?」
「はい。マベル様が開発した離れていても会話ができるという通信機はご存知でしょう? それの応用になります」
マベルじゃなくて俺が作った魔道具だけどな。
「すごいな……」
「兄様はすごいんです!」
感心する伯爵と自分の事のように胸を張るアンジェに向かって微笑む。
これはちょっとしたパフォーマンスだ。
「カネシャ……今後の事を考えなくてはならないな」
伯爵は俺を信じたようだ。
今度は夫人に厳しい視線を向けてくれた。
「僕……怖くて寝れません……」
追い討ちとばかりに怯えているように見せれば、伯爵のカネシャを見つめる瞳が更に険しくなった。
すると、アンジェが椅子から立ち上がって、俺に向かって頭を下げた。
「兄様、すみません! 僕が謝りますから! 母様、兄様が死んだら僕も死にます! 僕が伯爵家を継ぐ事はありません! わかりましたか!?」
この発言は予想外だ。
夫人への脅しだとしても、そんな風に言われるなんて思ってもいなかった。弟──可愛い。
アンジェに拒否された事で、夫人が真っ白に燃え尽きた。
砂になって飛んで行きそうだ。
「母様! わかったのですか!?」
アンジェの剣幕に力なく頷いた夫人にほくそ笑む。
本当はもっと追い詰めて家から追い出そうと思っていたけれど、弟がかなりいい子だった。弟に免じて許してやろう。
これで、夫人も大人しくなるといい。
本当のところは、伯爵家なんてアンジェに押し付けたい。
俺は魔法使いとして魔道具の研究ができればいい。
そう思っているけれど、夫人が気に入らないので本当の気持ちは夫人には言わないでおく。
後で伯爵とアンジェにだけこっそり話をすればいい。
「ところで、ディノ。お前、魔法が使えるのか?」
伯爵が問いかけてきた。
パフォーマンスの効果だ。夫人の事よりも、こっちが本命と言っていい。
「はい。体調が良くなったお陰で、魔力がうまく使えるようになりました」
「すごいじゃないか! ならば、王立魔法学院に行く気はあるか?」
「はい。行かせて頂ければ嬉しいです」
これは、とんとん拍子に行きそうだ。
今まで部屋で一人で食べていた食事を、家族一緒に食べれるようになったのは最近の事だった。
「ディノ。あなた侍女を勝手に辞めさせたそうね」
──きた。
夫人の為に人殺しでも何でもしてくれる、お気に入りの侍女がいなくなって怒っているらしい。
夫人の方から声を掛けなければ、俺の方から言うつもりだった。
「はい。毒入りの紅茶を三日間も飲まされそうになったので仕方なく……飲んだフリをするのも大変でした」
悲しそうに瞳を伏せて見せる。
その言葉に全員の食事の手が止まる。
「それは本当なのか?」
「はい。母様に頼まれたそうですが……今でも信じられません」
伯爵の問いかけに下を向いたまま答えれば、夫人の顔が引きつった。
すると、アンジェが怒り出した。
「母様! そんな事をなさったのですか!?」
「ち、違うわ! ディノの言いがかりよ!」
伯爵は厳しい視線を俺に向ける。
「ディノ……その発言は、カネシャの名誉に関わる」
こんなのは想定内だ。
「聞きますか?」
「「「え?」」」
テーブルの上に、紙に書いた魔法陣を出してその上に手を乗せた。
この魔法陣は、昼間エッラの声を拾うように仕込んでおいた。
魔法陣に魔力を通すのは苦手だ。集中しないと上手くできない。
しばらくすると、魔法陣から声が聞こえてくる。
『も、申し訳ございません! 全てお分かりだったのですね!』
『全て奥様に頼まれたのです! 私はクビにすると脅されただけです!』
『そんな事をしたら死んでしまいます……!』
これを聞いて震える夫人に笑ってしまいそうだ。
手のひらを離すと同時に声も消えた。
「父様、これが今日のその侍女とのやり取りです」
「これは……魔法なのか?」
「はい。マベル様が開発した離れていても会話ができるという通信機はご存知でしょう? それの応用になります」
マベルじゃなくて俺が作った魔道具だけどな。
「すごいな……」
「兄様はすごいんです!」
感心する伯爵と自分の事のように胸を張るアンジェに向かって微笑む。
これはちょっとしたパフォーマンスだ。
「カネシャ……今後の事を考えなくてはならないな」
伯爵は俺を信じたようだ。
今度は夫人に厳しい視線を向けてくれた。
「僕……怖くて寝れません……」
追い討ちとばかりに怯えているように見せれば、伯爵のカネシャを見つめる瞳が更に険しくなった。
すると、アンジェが椅子から立ち上がって、俺に向かって頭を下げた。
「兄様、すみません! 僕が謝りますから! 母様、兄様が死んだら僕も死にます! 僕が伯爵家を継ぐ事はありません! わかりましたか!?」
この発言は予想外だ。
夫人への脅しだとしても、そんな風に言われるなんて思ってもいなかった。弟──可愛い。
アンジェに拒否された事で、夫人が真っ白に燃え尽きた。
砂になって飛んで行きそうだ。
「母様! わかったのですか!?」
アンジェの剣幕に力なく頷いた夫人にほくそ笑む。
本当はもっと追い詰めて家から追い出そうと思っていたけれど、弟がかなりいい子だった。弟に免じて許してやろう。
これで、夫人も大人しくなるといい。
本当のところは、伯爵家なんてアンジェに押し付けたい。
俺は魔法使いとして魔道具の研究ができればいい。
そう思っているけれど、夫人が気に入らないので本当の気持ちは夫人には言わないでおく。
後で伯爵とアンジェにだけこっそり話をすればいい。
「ところで、ディノ。お前、魔法が使えるのか?」
伯爵が問いかけてきた。
パフォーマンスの効果だ。夫人の事よりも、こっちが本命と言っていい。
「はい。体調が良くなったお陰で、魔力がうまく使えるようになりました」
「すごいじゃないか! ならば、王立魔法学院に行く気はあるか?」
「はい。行かせて頂ければ嬉しいです」
これは、とんとん拍子に行きそうだ。
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