春の奇跡

おみなしづき

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 付き合って数ヶ月経った。交際は順調だったと思う。
 俺も健全な男子高校生で、キスの続きを想像しないわけじゃない。

 雰囲気がいい時はある。キスも何度もした。
 男同士でする勉強もした。
 桜司の体を想像しただけで、何度も一人でした。
 想像じゃなく、本物に触りたい。
 興味があるからというだけじゃない。桜司は何を思っているのか見えない事が多い。どこか一歩引いているような桜司にもっと近付きたいと思った。
 その手段が体を繋げるという単純な思考だ。

 進級して高校二年になった春、クラス替えもなくて桜司とも相変わらずだった。
 そんな中で、もうすぐ自分の誕生日になる。
 できれば、桜司のプレゼント……キスより先をお願いしてみようか……なんて考えている自分がいる。

 あれ? そういえば、桜司も春生まれだって言ってたんだよな。

 下校中に桜司に問いかけた。

「桜司、お前の誕生日っていつ?」
「えっと……その……来週の……金曜日……」
「え!? マジで!? 俺もその日が誕生日なんだ!」

 こんな偶然ってあるのか!? 奇跡みたいだ。
 恋人と誕生日が同じだなんて浮かれるに決まっている。

「なぁ! その日、一緒にお祝いしよう!」

 去年勝手に約束した気になっていた。その約束が叶う。
 そんな俺に対して、桜司は呆然と驚いているように見えた。

「桜司?」
「あ……ご、ごめん……その日は……ダメなんだ……」

 桜司の戸惑う声に少し不思議に思う。困っているかのようだった。

「なんで?」
「先約があって……だから……ごめん……」

 ものすごく暗い顔だ。
 なんというか……拒絶? 桜司から拒絶されている気がする。

 不安は時々感じていた。
 桜司は、俺に対しても穏やかに笑って、一歩引いているような気がしていた。
 心の底から笑うという事をしない桜司が気になっていた。
 俺は桜司にとって他の奴らと同じなんじゃないかって不安を感じていた……。
 だから俺は、桜司にもっと近付きたかった。特別になりたかったんだと思う。

「……なら……少しだけでも会えないか?」

 本人の顔を見て『おめでとう』と言うぐらいの時間は欲しい。

「ごめん!」
「あ! おい!? 桜司!?」

 急に走り出した桜司に手を伸ばしても届かなかった。
 桜司はそのまま走って行ってしまった。
 ポツンと残された俺は、引き止めようとした手のやり場に困ってギュッと握る。

「わけわかんねぇ……」

 追いかけるべきか?
 でも、俺が何か気に触るような事を言ったのかもしれない。
 俺も桜司も落ち着いて話すべきだ。無理に問い詰めるべきじゃない。

 それにしても、誕生日に先約って……一体何があるのだろう……。
 キス以上進まない俺達……桜司がそうしていたのだとしたら、近付くなんて事ができるわけがなかったんだ。

 俺の知っている限り、桜司が一緒にいたのは俺だけだ。本命がいるのはあり得ないと思う。そう信じたい。
 どちらにせよ、話してみなきゃどうにもならない。

 その日の夜、連絡をしてみても返事はなかった。電話に出てくれる気配もない。
 そして、掛け直してくれる事もなかった──。
 いつもより早めに来た教室に桜司はいた。
 こうなったら、直接話すしかない。

「桜司、ちょっと話さないか?」

 挨拶もそこそこに切り出したけれど、首を横に振られた。

「ごめん。これから職員室に行かなきゃだから……」
「そっか……来るまで待ってるな……」

 何事もなかったかのように笑え。
 俺が気にしていたら、桜司から話してくれなくなる気がする。

 すぐに教室からいなくなった桜司の背中を目で追った。

 避けられている? いや、偶然だ。

 けれど、桜司は先生が来る時間まで教室に戻って来なかった。

 お昼の時も声を掛ける前に桜司は教室から出て行ってしまった。
 放課後に声を掛けようとしたのにもういなかった。
 そうなると、偶然なんかじゃないようだ。
 俺はどうやら避けられてしまっているみたいだった。

     ◆◇◆

 連絡しても無視される。
 学校でも話してもらえない。
 そのうちに連絡も声を掛けようとする事もやめた。
 桜司から声を掛けてくれるのを待つ事にした。

 片思いをしていた時のように、机に突っ伏して桜司を盗み見る。
 桜司が何を考えているのかわからない。
 でも、相変わらず姿勢は良くて桜司が綺麗に見えた。
 俺は、やっぱり桜司が好きだ……いくら避けられようと、高鳴る胸がそう訴えてくる。
 桜司が俺を避けても、また片思いからやり直せばいい。
 話だけでもできたらいいのに……俺はずっと待っていた。
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