どうやらドSの先輩に狙われているようです

おみなしづき

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先輩は我慢ができない

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 朝起きたら世界がキラキラと輝いて見えた。
 好きな人と両思いになっただけで世界が違って見えるって本当なんだ。

 いつもより念入りに鏡を見て、いつもより少し早めに家を出た。
 電車が来る時間は変わらないのに、足早に駅に向かった。

 電車に乗り込んで先輩が乗る駅に近付くだけで胸の鼓動が早くなった。

 あ、先輩が乗る駅だ。

 電車のドアが開いて、電車に乗ってきた先輩をすぐに見つけた。
 嬉しそうに笑って俺の所まで来てくれた。
 先輩がキラキラして見える……。

「トモくんおはよう」
「お、おはようございます……」

 先輩と話しただけで、胸がドキドキする。
 目を合わせるのが恥ずかしくて視線を逸らした。

「トーモくん、会った瞬間にそんなかわいい態度されるとこの場でキスしそう」

 発言がもう先輩だよね……。
 恥ずかしいのを我慢して先輩と目を合わせる。

「や、やめて下さいね……」
「…………」
「先輩?」
「あ、いや、ごめん……」

 今度は先輩が俺から視線を逸らした。
 先輩が謝るとか怖い……何?

「トモくん、今日一緒に帰れる?」
「はい」

 その後の先輩は普通に会話をして学校へ行った。

     ◆◇◆

 昼食を食べている時も、目が合うと逸らされる。
 なんでなのかと不思議だ。

 もしかして、昨日のは俺の見た夢?
 願望が現実みたいな夢を見せていたって事か?

 そう思うと寂しくなって、あまり先輩を見ないように心掛ける。

「蒼斗、なんでトモの事そんなに見てるの?」

 圭介先輩がそんな質問をした。
 俺の事見てたの? 目が合うと視線逸らすのに?

 思わず先輩を見るとまた視線を逸らされた。でも、視線が合うって事は見てくれてたって事かもしれない。ちょっと嬉しい。

「トモ、そんな悲しそうな顔しないで。な?」
「圭介先輩?」

 特に悲しそうな顔をしたわけではないのに、圭介先輩は俺の頭をナデナデする。

 すると、蒼斗先輩がこちらに来て、圭介先輩の手を振り払った。
 お弁当を食べている途中なのに、腰に腕を回してきて背後からガッチリ抱き締められた。

「おい。勝手に触るな。俺のだ」

 俺の……そんな風に言われたのも初めてで胸がキュンッと鳴る。

「あ、蒼斗先輩……」

 恥ずかしい……。
 さっきまで視線すら合わせてくれなかったのにどうしたんだろう。

 圭介先輩はニヤニヤする。

「やっぱりね。だから蒼斗は浮かれてたんだね」

 浮かれてた?

「トモの事、ジーッと見てニヤけるのやめたら?」
「うるせぇ……」

 背後にいる先輩を振り返れば、圭介先輩に揶揄われてほんのりと顔を赤くした。
 かわいすぎる……。

「トモ、良かったな」

 和也がそう言ってくれてデヘヘと照れる。
 友達からの祝福は素直に嬉しい。

「──おい」
「「ああ、はいはい」」

 先輩の『おい』は、もう『二人きりにしろ』の合図だ。
 圭介先輩と和也は、手慣れたように片付けをすると屋上から出て行った。
 今度は覗いてないよな?

「先輩……お弁当食べられませんよ……」

 みんなはパンだからいつも食べるのが早い。

「トモくんのお弁当、ちょっと頂戴」

 クルリと回転させられて、座ったまま正面で向かい合う。
 口を開けた先輩にドキドキしながら卵焼きを差し出した。先輩は、そのままパクリと食べて、モグモグと咀嚼する。

「うん。うまいな。いい嫁さんになれる」

 そんな事を言われて顔が熱い。

「──……先輩が……もらってくれるんですか……?」

 なんて冗談ですと続けようとしたのに、ガバッとキスされて言えなかった。
 今日のキスは卵焼きの味だ。

     ◆◇◆

 放課後、圭介先輩が教室に来て、蒼斗先輩の鞄を渡された。

「蒼斗さ、保健室のベッドで寝てるから行ってあげて」
「え⁉︎ す、すぐ行きます」

 あの先輩が具合悪くなったなんて信じられない。

「トモが一緒に帰ってあげて」
「は、はい!」

 挨拶もそこそこに教室を出た。

 慌てて着いた保健室のベッドはカーテンが閉められていた。
 具合悪くて寝ているなら邪魔しない方がいいかな?
 でも『一緒に帰ってあげて』って圭介先輩が言っていた。
 そっとカーテンを開けて中に入り、パイプ椅子に鞄を置いた。

「蒼斗先輩……?」

 寝ているのか確認しようと、先輩を覗き込んだ。

「寝てますか……?」
「──寝てねぇよ」

 パッと目が開いて、グイッと引っ張られてしまう。
 ドサリとベッドに先輩と寝るような格好になる。

「先輩? 具合は?」
「悪くない」
「え? でも、圭介先輩が──」

 具合悪いとは一言も言ってないな……。
『嘘はついてないよ』そう言いながらニコッとする圭介先輩が目に浮かんだ。
 ホッと安心した。

「心配したじゃないですか。どうしてベッドにいるんですか?」
「それはな──こうする為だ」

 覆い被さられて、唇を塞がれた。
 お昼の続きみたいで、すぐに体が熱くなっていく。

 散々口内を舐め回されて、ふにゃふにゃになってしまった。
 ギューッと抱きつかれて、甘えられているみたいだ。
 ポンポンと背中を叩く。

「先輩? どうしたんですか?」
「──我慢しようと思ってたんだ……休みの前の日に約束があるから……」

 チュッチュッと顔中にキスされる。

「でも、お前……ずっとかわいいんだもん……もう限界……我慢できない……」

 先輩の手が俺の服を脱がそうと動く。
 求められる事は嬉しい。あとは俺の覚悟次第……。

「先輩……俺のこと……途中で捨てたりしないで下さいね……」

 先輩はきっとたくさんの経験がある。
 他の人に比べたら……俺のことなんて嫌になるかも……。
 途中で捨てられたら立ち直れない……。

「俺の方がお前に捨てられないか心配だって言ったら……信じる?」

 自信のなさそうな先輩に驚く。
 また知らない先輩を見た気がする。
 熱っぽく見つめられたらたまらなかった。
 俺が先輩を捨てるなんてあり得ない。

「先輩、それなら──」

 保健室のドアが急に開いて、ビクッとする。

「八木澤くん、迎えは来た?」

 保険医の先生だった……。

「は、はい! 迎えなら俺が来ました!」

 思わず返事をしてしまって、先輩に睨まれる。

「それじゃ、戸締りするから気を付けて帰るんだよ」
「は、はい」

 慌てて先輩を起こして、少し乱れた制服を直す。
 仏頂面の先輩を引きずるように保健室を出て、一緒に駅に向かう。

「なんだよ……」

 まだ機嫌が悪いらしい。
 機嫌が悪いと言うよりは、いじけている。

 唇を尖らせてる所がまたかわいいんだよ……。
 内心撫でくりまわしたい気持ちになっていた。

「でも、先輩。約束の日って明日ですよ?」
「我慢できなかったんだよ!」

 ムキになる姿もかわいい……。

「トモくんは、俺に触れたいとか思わないのか?」

 いじけたままかわいい質問しないで。

「そんなの……触れたいですよ」

 今現在、撫でくりまわしたいんだって。

「俺も我慢しますから、先輩も我慢して下さいね」

 先輩は、何も言わずにそこにあった道端の石ころをコツンと蹴った。
 さっきからかわいいしかない。
 先輩は、俺のことをかわいいって言うけれど、俺にとっては先輩が誰よりもかわいいと思った。
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