どうやらドSの先輩に狙われているようです

おみなしづき

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拒否権がありません

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 次の日に早起きして満員とまでいかない電車に乗った。
 ドアを背に預けながら、ふぅと息を吐く。

 あの痴漢もいなければ、八木澤先輩も──え?

 さっき電車に乗ってきた人が俺に気付いてこちらに来る。幻を見たのかと思って目をゴシゴシと擦る。

 本物だった……。

「先輩……」
「ははっ。偶然だな。トモくん」

 驚愕の一言だ。

「何で同じ電車に……」
「俺はいつもこの時間に乗ってるんだ。昨日はたまたま寝坊しただけ」

 遠い目をしていれば、クスクスと笑われた。

「トモくん、明日からこの時間に待ち合わせな」
「え……」
「痴漢から守ってあげるから」

 あんたが痴漢だろうと言いたい。

「居なかったらさ、トモくんの教室行って、クラスメイトの前で噛み付いてやろうか?」
「そんな……」

 鬼だ。鬼がいた。
 あ、違う。この人吸血鬼だ……。

「俺はそっちでも興奮する」

 ニヤリと笑った顔に背筋が寒くなる。

「またぁ。そうやって怯えられると……そそる……」

 そっと指で頬を撫でられて熱っぽく囁かれる。
 ビクッと震えてしまって、先輩の思うツボだ。
 先輩の思い通りになるもんかと虚勢を張る。

「満員電車じゃないんですから……痴漢になんか遭いませんよ」
「トモくんは隙だらけだからな」

 俺が悪いと言われているみたいで少しムッとする。

「隙なんかありません」

 すると、昨日の痕をつけられた肩をガシッと掴まれた。

「忘れた?」
「嘘です。ごめんなさい」

 俺は虚勢を張るより自分の身が可愛い。

     ◆◇◆

 教室の出入り口まで付いてこられた。

「お昼、今日こそ一緒に食べるからな」
「は、はぁ……」

 どうしてそんなにも俺に拘るのか不思議だ。

「そうだな……俺のクラスにおいで」
「なんで俺が迎えに行かなきゃいけないんですか⁉︎」
「迎えに来てもいなかった。ペナルティーだ。文句ある?」

 見下ろす視線がグサグサと刺さる気がする。
 視線で殺される。

「ありま──せん……」

 拒否権もありません。

「トモくんが来るまで待っててあげるよ。来ないとトモくんのせいで俺は昼飯抜きになる。そうなったら腹ペコでトモくんの事を食べに来ちゃうかも」

 冗談に聞こえない脅しですね。

「わ、わかりましたよ……」

 了承すれば、先輩は上機嫌で二年のクラスに行った。

 自分の席に座って机に突っ伏す。
 学校に来るだけで疲れた。

「トモ、さっきの八木澤先輩だよな? 一緒に学校きたのか?」
「色々あってさ……」

 これも全部あの痴漢のせいだ……。
 俺はあの痴漢を恨む。

     ◆◇◆

 お昼、お弁当を持って仕方なぁく先輩のクラスに足を運ぶ。
 学校の校舎は、一階が一年生、二階が二年生、三階が三年生だ。

 進める足が鉛をつけられたように重い。
 やっとの事で階段を上って廊下を歩けば、二年生にジロジロ見られる。

「あいつ睨んだ?」

 睨んでません!
 目を合わせたらダメだ。

 なんて考えていたら、ほら……途中で悪いっぽい先輩に囲まれた……。
 いつの間にか壁に追い詰められている。
 ジロジロ見られて居心地が悪い。

「お前さ、一年だろ?」
「は、はい……」
「何しに来たわけ?」
「いや、あ、あの……」

 怖くて言葉に詰まる。

「俺らと遊ぶ?」
「いや……えっと……」

 どういう意味だ? パシリにされるとかか……?

 詰め寄られて泣きそうになる。
 すると八木澤先輩が割って入ってきてくれた。
 先輩の顔を見てホッと安心してしまう。

「それ、俺のだ。勝手に囲むなよ」

 先輩……! と、ちょっと感謝したけれど、そもそもあんたが来いって言ったからだと思い直す。

「なんだ。蒼斗に用だったわけね」
「そう。いじめていいの俺だけね」
「悪かったなぁ、一年」
「あ、いえ……、こ、こちらこそ……」

 先輩にグイッと腕を引かれて歩き出す。

「あ、先輩……あ、ありが──」
「だから、隙だらけだって言ったんだ」

 一応お礼を言おうと思ったのに、なんでちょっと怒ってるんだ?
 ズンズンと歩かれる。

「一人にするとろくな事ないな」

 何で俺が怒られてるわけ?
 納得いかない。

「先輩が来いって言ったんじゃないですか!」

 あ……思わず……。
 こちらを振り向いた先輩に、目を細めて見つめられた。

「いい度胸じゃん」

 嫌な予感しかしない……。
 すると、ニッコリ笑う。

「トイレと保健室、どっちがいい?」
「へ?」
「だから、トイレと保健室はどっちがいいかって選ばせてやってんだけど?」

 ど、どういう意味なんだろう?
 ご飯食べる所?
 トイレはないでしょ。

「ほ、保健室?」
「選んだのはトモくんだからな」

 先輩が楽しそうに笑う。

 人は、二択を与えられると選んでしまうのはどうしてなんでしょうか……?
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