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逃げたいです
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授業前の休み時間に、一階にある自分の教室から窓の外を見ていた。
「何見てんの? 二年? これから体育か?」
矢内和也が声を掛けてきた。
同じクラスの友人だ。
「やっぱりあれ……二年生なんだ……」
「誰か探してんの?」
「別に」
あの後、駅に着いて猛ダッシュで逃げた。
人生で一番早く走れたような気がする。
学校のトイレで、鏡に写った自分の首を見た。
チラリとシャツの隙間から見える歯形が気分を重くした。
絆創膏を貼ったけれど恥ずかしい。でも、歯形を見られるよりマシだ。
「あ、あの人……八木澤先輩かな?」
「え⁉︎」
思わず和也の指差した方向に視線をやる。確かに先輩がいた。
「和也知ってんの⁉︎」
思わず食い気味に反応してしまった。
「知ってるよ。入学したての俺ら一年でだって噂になる人だぞ。すごいイケメンでモテるみたいだ。ただ、癖のある人だって話だよな」
「その情報、もっと早く欲しかった……」
俺、あの人に噛まれたんだぞ!
とにかくもう関わり合いたくない。
「あ、ほら、こっち見た」
一瞬目が合った気がして、思わず背中を向けて窓の下に隠れてしまった。
和也は俺を不思議そうに見たけれど、すぐに窓の外に視線を戻す。
「和也……あの人……何してる?」
「まだこっち見てる」
「まじで? あの人いなくなったら教えて……」
「無理だな」
「な、なんでだよ?」
「だって、こっち来たもん」
「はぁ⁉︎ なんで⁉︎」
言うと同時に、上から頭をガシッと掴まれた。
そっと見上げれば、笑顔の先輩が俺の頭を鷲掴みしていた。
窓閉めときゃ良かった。
「トモくん、先に行っちゃうなんて酷いなぁ」
笑顔なのに指に強めに力を込められてちょっと痛い……。
この人に名前を名乗ってしまったのは間違いだった。
「あ……ははははっ……に、日直だったのを思い出しまして……」
「じゃあ、なんで今隠れたんだ?」
「か、隠れたなんて……ま、まさか……そんな事しませんよ……。け、消しゴム落としちゃって……」
俺の目がジャブジャブと勢いよく泳いでいる。
「だったら、俺の誘いを断ったりしないよな? トモくん、お昼は俺と食べよう」
「え⁉︎ と、友達と教室で食べているので無理です!」
この人とお昼食べたら何をされるのかわからない。
「友達って彼?」
「はい。和也って言うんです」
「ども」
ペコリとお辞儀をした和也を見て、先輩が目を細めたような気がする。
「ふぅん……お昼、トモくんの事借りるけどいいよな?」
和也にダメって言ってと目で訴える。
「はい」
笑顔で返事するな!
ダメって言ってくれ!
先輩は、鷲掴みにしていた俺の頭を離すとポンポンと叩いた。
「立ったら?」
「は、はい……」
逆らってはいけない何かが先輩にはある。
のっそりと立ち上がると、ガシッと俺の肩を掴んで背後から俺の耳元に顔を近付けて囁いた。
「迎えに来てあげるから……待ってろよ」
待ってろよ──低い声で耳元にそっと囁かれた言葉が頭に響く。
嫌ですと言いたいのに言えない。
先輩を見つめれば、フッと微笑んでから校庭へ戻っていった。
血の気が引いて、胸はバクバクだ。
よし……全力で逃げよう。
「何見てんの? 二年? これから体育か?」
矢内和也が声を掛けてきた。
同じクラスの友人だ。
「やっぱりあれ……二年生なんだ……」
「誰か探してんの?」
「別に」
あの後、駅に着いて猛ダッシュで逃げた。
人生で一番早く走れたような気がする。
学校のトイレで、鏡に写った自分の首を見た。
チラリとシャツの隙間から見える歯形が気分を重くした。
絆創膏を貼ったけれど恥ずかしい。でも、歯形を見られるよりマシだ。
「あ、あの人……八木澤先輩かな?」
「え⁉︎」
思わず和也の指差した方向に視線をやる。確かに先輩がいた。
「和也知ってんの⁉︎」
思わず食い気味に反応してしまった。
「知ってるよ。入学したての俺ら一年でだって噂になる人だぞ。すごいイケメンでモテるみたいだ。ただ、癖のある人だって話だよな」
「その情報、もっと早く欲しかった……」
俺、あの人に噛まれたんだぞ!
とにかくもう関わり合いたくない。
「あ、ほら、こっち見た」
一瞬目が合った気がして、思わず背中を向けて窓の下に隠れてしまった。
和也は俺を不思議そうに見たけれど、すぐに窓の外に視線を戻す。
「和也……あの人……何してる?」
「まだこっち見てる」
「まじで? あの人いなくなったら教えて……」
「無理だな」
「な、なんでだよ?」
「だって、こっち来たもん」
「はぁ⁉︎ なんで⁉︎」
言うと同時に、上から頭をガシッと掴まれた。
そっと見上げれば、笑顔の先輩が俺の頭を鷲掴みしていた。
窓閉めときゃ良かった。
「トモくん、先に行っちゃうなんて酷いなぁ」
笑顔なのに指に強めに力を込められてちょっと痛い……。
この人に名前を名乗ってしまったのは間違いだった。
「あ……ははははっ……に、日直だったのを思い出しまして……」
「じゃあ、なんで今隠れたんだ?」
「か、隠れたなんて……ま、まさか……そんな事しませんよ……。け、消しゴム落としちゃって……」
俺の目がジャブジャブと勢いよく泳いでいる。
「だったら、俺の誘いを断ったりしないよな? トモくん、お昼は俺と食べよう」
「え⁉︎ と、友達と教室で食べているので無理です!」
この人とお昼食べたら何をされるのかわからない。
「友達って彼?」
「はい。和也って言うんです」
「ども」
ペコリとお辞儀をした和也を見て、先輩が目を細めたような気がする。
「ふぅん……お昼、トモくんの事借りるけどいいよな?」
和也にダメって言ってと目で訴える。
「はい」
笑顔で返事するな!
ダメって言ってくれ!
先輩は、鷲掴みにしていた俺の頭を離すとポンポンと叩いた。
「立ったら?」
「は、はい……」
逆らってはいけない何かが先輩にはある。
のっそりと立ち上がると、ガシッと俺の肩を掴んで背後から俺の耳元に顔を近付けて囁いた。
「迎えに来てあげるから……待ってろよ」
待ってろよ──低い声で耳元にそっと囁かれた言葉が頭に響く。
嫌ですと言いたいのに言えない。
先輩を見つめれば、フッと微笑んでから校庭へ戻っていった。
血の気が引いて、胸はバクバクだ。
よし……全力で逃げよう。
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