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ごめんね…… side涼
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何度も攻め立てて、何度目かの絶頂で気を失ってしまったハルの体を綺麗にして服を着せた。
そのまま抱きこんで教室の壁に背を預けて床に座った。
そっとハルの髪を撫でて、眠るようなハルのおでこにキスをする。
「ハル……ごめんね……」
◆◇◆
幼い頃から女性に興味はなくて、好きになるのは男性だった。
父と母の仲が悪くなって離婚して、兄は母に、僕は父に引き取られて暮らしていた。
そんなある日、父が再婚する事になった。
『涼、お前に母と弟ができるぞ!』
すごく嬉しかった。
僕は、自分の兄が大嫌いだったから、兄ができるより何倍も喜んだ
どんな子だろう?
僕に懐いてくれるだろうか?
早く会いたい。
いっぱい可愛がってあげたい。
会ってもいない弟に、こんな風に思ってしまう自分に思わず笑ってしまう。
会えるのが楽しみで、毎日想いを募らせる。
まるで恋焦がれているかのような気分だった。
そして、顔合わせの日はやってくる。
『父さん、制服でいいのかな?』
『どうしてお前がそんなに浮かれてんだ?』
父に笑われたのを覚えている。
高級レストランの個室で、初めて見たハルは、母親の手を握り締めながら、上目遣いでチラッとこっちを見た。
可愛すぎる……。
『春樹君だよね? よろしくね』
怖がらせないようにしゃがみ込んで笑顔を向ければ、僕にペコリと頭を下げた。
『よろしく……兄さん』
照れながら嬉しそうに笑った。
それだけで、心臓を鷲掴みにされたような不思議な感覚に胸がドクンッと鳴った。
あれだけ楽しみにしていた弟がこんなに可愛いだなんて……。
僕がハルの虜になるのは必然だった。
僕はまだ小さい弟に愛しいという感情を持ってしまった。
両親が帰ってくるのが遅い時は、中学から帰ってから食事を作る。
それを嬉しそうにニコニコしながら見ているハルに、思わず笑顔になってしまう。
一人きりで食べていた夕食が二人になって、胸の奥を温かくさせた。
初めてオムライスを作ってあげた時に、目を輝かせて頬張っていたのを今でも覚えている。
夏祭りに家族で行けば、小学生のハルの手を引いて歩く夏祭りが特別に思えた。
けれど、ハルが中学生になって一緒に行かなくなれば、僕も夏祭りに行かなくなった。
両親には、気を使わずに二人で行って欲しいとお願いした。
自分の部屋で時間を潰していれば、窓から見えた花火に思わず立ち上がって窓辺に寄った。
『ハル……』
花火に触れるように、そっとガラスをなぞった。
手が届きそうで触れられない大輪の花火。
まるで、ハルだ。
どこかで花火を見ているのかな?
今年の花火は、何だか寂しいよ……。
僕がこんな風にハルを想っている事を絶対に知られてはならない。
ハルが一番大切で、ハルの幸せを願った。
だから、僕は弟を想う自分の気持ちに蓋をした。
高校は、男子校だった。
告白される事は多々あって、ほどほどに遊んでいて、それは大学生になっても同じだった。
当時セフレだった友人と会っていた。
情事の後のまったりしている時にスマホのアラームが鳴った。
『あ……僕、帰るよ』
『え? なんで?』
『弟が修学旅行から帰ってくる時間だから』
服を着ながら答える。
『修学旅行って──弟って今中二だっけ?』
『うんそう。昨日から弟がいなくてすごく寂しかったんだ』
『だから俺の所に来たわけだ……さっきまで野獣みたいだったやつだとは思えないな』
『喜んでいたくせに?』
ニヤリと笑ってやれば、照れながら視線を外す。
『涼っていつも弟優先だよな』
『ふふっ。可愛くてね』
『ふぅん。俺よりも?』
『もちろん』
『バカ涼。早く行け』
追い払うような友人にクスクスと笑いながら、友人の家を後にする。
ハルよりも先に家に帰って『おかえり』と言ってあげたい。
はやる気持ちで家路を急いだ。
『兄さん! ただいま!』
『おかえり』
ハルの屈託のない笑顔を見て出迎えるこの瞬間が何よりの癒しだった。
お土産で焼き菓子を手渡されれば、もったいなくてしばらく食べられなかった。
『兄さん』
笑顔で僕を呼ぶハルに言いようのない気持ちが込み上げてくる。
名前で呼んで欲しい。そう思い始めたのは、いつからだっただろう。
兄さんと呼ばれるよりもきっと遥かに僕を癒すはずだ。
僕の中のハルは、いつだって大輪の花火のように僕の心に大きく花開く眩しい存在だった。
この関係をずっと続けていけると思っていた。
ハルが高二になった夏。貸していた辞書を使いたくてハルの部屋を訪れた。
『ハル? いる?』
いなかったけれど、卒論に使いたくて返してもらおうと勉強机に足を向けた。
ふと壁にかけてあるカレンダーに目をやれば【デート】と浮かれた文字で書いてあった。
ドクンッと胸が鳴って、何度もバクバクと音がした。
ハルに彼女ができたんだと理解すると同時に、嫉妬で胸の奥がズキズキとした。
ずっとずっと大事にしてきたハル。
その心を手に入れた女が憎い。
ハルが誰かのものになる事は、覚悟をしていたはずなのに、突きつけられた現実に足がすくんだ。
蓋を閉じていた僕の心が一気に溢れ出した。
一度溢れ出した感情は、止まる事を良しとせず、波のように押し寄せた。
一番近くにいるのに、一番手の届かない存在。
夏祭りで見た花火のように、手を伸ばして触れたかった。
──何をしても手に入れたい。
狂おしいほどの激情に蝕まれてそれしか考えられなくなった。
日に日に焼け付く心に耐えられなくなっていく。
両親に温泉旅行の雑誌を見せて、乗り気になった所でそのまま予約を入れてやった。
『ハルには僕から言っておくから、楽しんできて』
『『ありがとう』』
そして、あの日、とうとう僕はハルをめちゃくちゃにした。
◆◇◆
後悔なんてしていない。
何度同じ状況になろうとも、僕はきっと同じ選択をするんだろう。
そうしなければ、今こうやって腕の中にハルはいなかった。
ハルを僕の所まで堕としてやりたかった。
嫌われても許してもらえなくても、ハルが僕から逃げられなくなればいいと思っていた。
それなのに、ハルはあんな事をした僕を許した。
『嫌ってないよ……』
そう言ったハルにどんなに救われたか……。
とても愛おしくて、どうしようもなく泣きたくなるんだ。
けれど、僕はまた同じ事をした。
最初からハルを無理矢理に奪った僕は、こうやって忘れないように刻み込まないと安心できなかった。
僕がいない所でも僕を思い出させたかった。
快楽でがんじがらめにして身動きを取れなくしたかった。
悲しいほどに、愛おしくて──。
大事にしたいのに、めちゃくちゃに壊してしまう。
僕は狂っているんだ。
愛して欲しいと言えない僕は、ハルが自分のものだと確かめる手段がこれしかない。
何度体を重ねてもハルは僕に心を開かない。
わかっていても辛かった。
段々と欲張りになる自分の心は、ハルの心ですら欲しがって滑稽で──。
もっともっとハルが欲しい。
この焦げ付くような気持ちがハルをたくさん傷付ける。
それでも手を伸ばす事をやめられない。
僕がいなくなっても、僕を忘れないように何度でも刻みつけておかなくてはいけない。
「ハル……(愛してしまって)ごめんね……」
自分には、泣く権利すらない。
そのまま抱きこんで教室の壁に背を預けて床に座った。
そっとハルの髪を撫でて、眠るようなハルのおでこにキスをする。
「ハル……ごめんね……」
◆◇◆
幼い頃から女性に興味はなくて、好きになるのは男性だった。
父と母の仲が悪くなって離婚して、兄は母に、僕は父に引き取られて暮らしていた。
そんなある日、父が再婚する事になった。
『涼、お前に母と弟ができるぞ!』
すごく嬉しかった。
僕は、自分の兄が大嫌いだったから、兄ができるより何倍も喜んだ
どんな子だろう?
僕に懐いてくれるだろうか?
早く会いたい。
いっぱい可愛がってあげたい。
会ってもいない弟に、こんな風に思ってしまう自分に思わず笑ってしまう。
会えるのが楽しみで、毎日想いを募らせる。
まるで恋焦がれているかのような気分だった。
そして、顔合わせの日はやってくる。
『父さん、制服でいいのかな?』
『どうしてお前がそんなに浮かれてんだ?』
父に笑われたのを覚えている。
高級レストランの個室で、初めて見たハルは、母親の手を握り締めながら、上目遣いでチラッとこっちを見た。
可愛すぎる……。
『春樹君だよね? よろしくね』
怖がらせないようにしゃがみ込んで笑顔を向ければ、僕にペコリと頭を下げた。
『よろしく……兄さん』
照れながら嬉しそうに笑った。
それだけで、心臓を鷲掴みにされたような不思議な感覚に胸がドクンッと鳴った。
あれだけ楽しみにしていた弟がこんなに可愛いだなんて……。
僕がハルの虜になるのは必然だった。
僕はまだ小さい弟に愛しいという感情を持ってしまった。
両親が帰ってくるのが遅い時は、中学から帰ってから食事を作る。
それを嬉しそうにニコニコしながら見ているハルに、思わず笑顔になってしまう。
一人きりで食べていた夕食が二人になって、胸の奥を温かくさせた。
初めてオムライスを作ってあげた時に、目を輝かせて頬張っていたのを今でも覚えている。
夏祭りに家族で行けば、小学生のハルの手を引いて歩く夏祭りが特別に思えた。
けれど、ハルが中学生になって一緒に行かなくなれば、僕も夏祭りに行かなくなった。
両親には、気を使わずに二人で行って欲しいとお願いした。
自分の部屋で時間を潰していれば、窓から見えた花火に思わず立ち上がって窓辺に寄った。
『ハル……』
花火に触れるように、そっとガラスをなぞった。
手が届きそうで触れられない大輪の花火。
まるで、ハルだ。
どこかで花火を見ているのかな?
今年の花火は、何だか寂しいよ……。
僕がこんな風にハルを想っている事を絶対に知られてはならない。
ハルが一番大切で、ハルの幸せを願った。
だから、僕は弟を想う自分の気持ちに蓋をした。
高校は、男子校だった。
告白される事は多々あって、ほどほどに遊んでいて、それは大学生になっても同じだった。
当時セフレだった友人と会っていた。
情事の後のまったりしている時にスマホのアラームが鳴った。
『あ……僕、帰るよ』
『え? なんで?』
『弟が修学旅行から帰ってくる時間だから』
服を着ながら答える。
『修学旅行って──弟って今中二だっけ?』
『うんそう。昨日から弟がいなくてすごく寂しかったんだ』
『だから俺の所に来たわけだ……さっきまで野獣みたいだったやつだとは思えないな』
『喜んでいたくせに?』
ニヤリと笑ってやれば、照れながら視線を外す。
『涼っていつも弟優先だよな』
『ふふっ。可愛くてね』
『ふぅん。俺よりも?』
『もちろん』
『バカ涼。早く行け』
追い払うような友人にクスクスと笑いながら、友人の家を後にする。
ハルよりも先に家に帰って『おかえり』と言ってあげたい。
はやる気持ちで家路を急いだ。
『兄さん! ただいま!』
『おかえり』
ハルの屈託のない笑顔を見て出迎えるこの瞬間が何よりの癒しだった。
お土産で焼き菓子を手渡されれば、もったいなくてしばらく食べられなかった。
『兄さん』
笑顔で僕を呼ぶハルに言いようのない気持ちが込み上げてくる。
名前で呼んで欲しい。そう思い始めたのは、いつからだっただろう。
兄さんと呼ばれるよりもきっと遥かに僕を癒すはずだ。
僕の中のハルは、いつだって大輪の花火のように僕の心に大きく花開く眩しい存在だった。
この関係をずっと続けていけると思っていた。
ハルが高二になった夏。貸していた辞書を使いたくてハルの部屋を訪れた。
『ハル? いる?』
いなかったけれど、卒論に使いたくて返してもらおうと勉強机に足を向けた。
ふと壁にかけてあるカレンダーに目をやれば【デート】と浮かれた文字で書いてあった。
ドクンッと胸が鳴って、何度もバクバクと音がした。
ハルに彼女ができたんだと理解すると同時に、嫉妬で胸の奥がズキズキとした。
ずっとずっと大事にしてきたハル。
その心を手に入れた女が憎い。
ハルが誰かのものになる事は、覚悟をしていたはずなのに、突きつけられた現実に足がすくんだ。
蓋を閉じていた僕の心が一気に溢れ出した。
一度溢れ出した感情は、止まる事を良しとせず、波のように押し寄せた。
一番近くにいるのに、一番手の届かない存在。
夏祭りで見た花火のように、手を伸ばして触れたかった。
──何をしても手に入れたい。
狂おしいほどの激情に蝕まれてそれしか考えられなくなった。
日に日に焼け付く心に耐えられなくなっていく。
両親に温泉旅行の雑誌を見せて、乗り気になった所でそのまま予約を入れてやった。
『ハルには僕から言っておくから、楽しんできて』
『『ありがとう』』
そして、あの日、とうとう僕はハルをめちゃくちゃにした。
◆◇◆
後悔なんてしていない。
何度同じ状況になろうとも、僕はきっと同じ選択をするんだろう。
そうしなければ、今こうやって腕の中にハルはいなかった。
ハルを僕の所まで堕としてやりたかった。
嫌われても許してもらえなくても、ハルが僕から逃げられなくなればいいと思っていた。
それなのに、ハルはあんな事をした僕を許した。
『嫌ってないよ……』
そう言ったハルにどんなに救われたか……。
とても愛おしくて、どうしようもなく泣きたくなるんだ。
けれど、僕はまた同じ事をした。
最初からハルを無理矢理に奪った僕は、こうやって忘れないように刻み込まないと安心できなかった。
僕がいない所でも僕を思い出させたかった。
快楽でがんじがらめにして身動きを取れなくしたかった。
悲しいほどに、愛おしくて──。
大事にしたいのに、めちゃくちゃに壊してしまう。
僕は狂っているんだ。
愛して欲しいと言えない僕は、ハルが自分のものだと確かめる手段がこれしかない。
何度体を重ねてもハルは僕に心を開かない。
わかっていても辛かった。
段々と欲張りになる自分の心は、ハルの心ですら欲しがって滑稽で──。
もっともっとハルが欲しい。
この焦げ付くような気持ちがハルをたくさん傷付ける。
それでも手を伸ばす事をやめられない。
僕がいなくなっても、僕を忘れないように何度でも刻みつけておかなくてはいけない。
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