彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき

文字の大きさ
上 下
13 / 25

涼と雅哉

しおりを挟む
「雅哉」
「涼さん……」

 雅哉は、夏休みが終わって数日経った放課後に、高校から出た所で涼に引き止められて立ち止まった。
 何しに来たのかは何となくわかる。

「ちょっと話そうか」
「はい……」

 二人は、近くの喫茶店に入って対面して座り、涼がアイスコーヒーを二つ頼んだ。
 注文したアイスコーヒーが来てから、話し出したのは涼だった。

「雅哉はすごいね、あの高校に入れたんだから」

 雅哉は笑顔を涼に向ける。

「涼さんこそ、名門大学卒業間近じゃないっすか」

 二人は笑顔でしばらく沈黙して見つめ合った。
 先に話すのはやっぱり涼だ。

「この前、ハルに宣戦布告を残してくれたね」
「あぁ──あれ、ハルは、とっても喜んでくれてましたよ」

 笑顔で返す雅哉に、涼はクスクスと笑って目を細めた。

「雅哉は知らないだろうけど、ハルはね、僕の腕の中でトロトロになるまで突かれるのが一番喜ぶんだ。あんな可愛いハルを見せられないなんて残念だよ」
「──今は涼さんのものかもしれませんけど、この先はわかりませんよ」

 涼の瞳がギロリと雅哉を射抜く。

「ガキが──調子に乗るなよ。この先もずっとハルは僕のものだ」

 初めて涼の攻撃的な面を見て、雅哉の背中に冷や汗が伝った。
 普段が温厚なだけあって、迫力があるように感じる。
 けれど、雅哉はそれを表面に見せないように笑ってみせる。

「涼さんの本性ってそれですか? すげぇ猫被ってるんですね」
「これも僕だ。敵に優しくする必要はないだろう?」

 雅哉は、敵だと言われた事に苦笑いする。

「敵……ですか。でも、俺だって真剣なんですよ。それに、ハルは涼さんを家族って言ってましたよ」
「……お前だってただの友達だろ?」
「じゃあ、お互い様っすね」

 二人の沈黙の中、飲んでないアイスコーヒーの氷が溶けてカランッと鳴った。
 遠くで「いらっしゃいませ」と店員の声が聞こえる。

「──ハルに近付くな」
「それはできませんね。ハルを忘れる事なんてできません。」

 雅哉にとって春樹は特別だ。
 何度も何度も忘れようとしたのに忘れられなかった特別な存在。
 ずっと苦しかった気持ちをやっと伝えられたと思っている。
 自分の手で蕩けた顔をした春樹をもう一度見てみたい。

 涼は、雅哉の引き下がらない態度に苛立ち始める。

「あれだけハルは僕のものだと見せつけたのに、まだ諦めないんだ?」
「そんな簡単じゃないんですよ……だから宣戦布告したんです」

 二人に笑顔はもうなかった。
 真剣な瞳でお互いを見ていた。

「友達のままだったなら、側にいさせてやったのに──」
「それじゃ満足できなかった……涼さんも同じでしょ?」

 涼は、雅哉を先程よりも更に敵視した。
 雅哉には、涼の瞳の奥で怒りの炎が静かに揺らめいたように見えた。
 
「指を咥えて見ているだけだったお前と一緒にするなよ! すぐ側にいるのに手が届かなくて、毎日、毎日嫉妬で胸が焼きついて、狂ってしまいそうになる気持ちがお前にわかるのか……⁉︎ 嫌われても憎まれても──何をしても自分のものにしたい──そんな気持ちになった事がお前にあるのか⁉︎」

 涼は、無意識に拳をギュッと握って、胸の奥の痛みに耐えていた。
 その時の気持ちが戻ってくるようだ。
 胸が張り裂けそうで痛くて……苦しい……。

「あるわけないんだ──だからお前は友達のままだった──それなのに……今更ハルを僕から奪うのか……?」

 涼が何度愛していると言い続けても、返ってこない春樹の言葉……。
 春樹をめちゃくちゃにして無理矢理手に入れた涼は、その言葉を聞ける事はできないのだと思っている。
 それが自分への罰だと受け入れて、愛して欲しいと求める事ができない苦しさをずっと胸の内に秘めている。

 春樹を傷付けてでも、どうしても春樹が欲しかった──。
 涼の気持ちと快楽を、何度も何度も春樹に刻んで離れられないようにした。そうしなければ、手に入らなかった。
 それなのに、そこまでしてやっと手に入れた春樹をどうして奪おうとするんだ……。

 涼に余裕などなく、いつだって必死だった。

 雅哉は、苦しそうな涼の様子を見て、春樹が涼のことを突き放せなかったと言っていたのを思い出す。

「涼さんは──ハルに何をしたんだ?」
「ハルは僕のものだ。お前になんか渡さない」
「……もしもハルが俺を選んだら?」
「有り得ない──忠告はしたからな」

 涼は、テーブルの上にお金を置いて、雅哉を残してさっさと店を出た。
 一人残された雅哉は、アイスコーヒーを飲んでホッと一息つく。
 思ったよりも体の力が抜けた。かなり緊張していたようだ。

 涼は、雅哉の問いに答えなかった。きっと言えない何かがあるのだろうと雅哉は思う。
 涼の事を予想以上に厄介な相手だと思いながらもニヤリと笑った。

「わざわざ忠告しに来るなんて──涼さん、意外と余裕ないんだな。ははっ、俺にもチャンスはありそうだ」

 雅哉は、どうやって春樹に近付こうかと考えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...