彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき

文字の大きさ
上 下
5 / 25

賭けをしようか?

しおりを挟む
 夏休みの間に、友達の雅哉まさやから何度か連絡が来た。
 雅哉は、小学校からの同級生で、家も近いので良く家に遊びに来る。
 小学生の時は、毎日のように家に来ていた。
 この家に引っ越してからは、遠慮したのか時々になった。
 高校は俺とは違う男子校に行ってしまったけれど、今でも遊ぼうと連絡をくれる。

 涼のせいで痣になっていた手首が治るまで、誰にも会わないようにしていた。
 やっと手首の痣が薄くなり、雅哉と会うことにした。
 雅哉は、昼下がりに俺の部屋に遊びに来て、クッションを抱えながらうつ伏せで漫画を読んでいた。
 雅哉の二重で釣り上がった目は、元気な印象を与える。
 髪は少しウェーブ掛かっていて、柔らかそうだ。
 気安い性格で、モテそうなのに彼女がいた事はない。

 俺は勉強机の椅子に座って背もたれに寄りかかりながら、棒付きアイスを頬張っていた。雅哉が不意に声を掛けてきた。

「そういえば、今日は夏祭りだろ?」
「そうだな」
「お前、行くだろ?」
「どうして?」
「どうしてって、彼女と行くだろ? 向こうで会ったら紹介しろよ」
「あー……この前別れた」

 ミーンッ、ミーンッと、蝉の声が遠くで聞こえる。
 雅哉は漫画から顔を上げると、俺をじっと見た。
 間抜けな顔をしていて少し面白い。

「なんで? 早くね?」
「まぁ……色々あってさ」

 ちゃんと説明できるわけがない。

「会ってねぇの?」
「会ってない」
「じゃあ……今日はひとりぼっち?」
「そうだな」

 アイスが熱い体に冷たくて気持ち良かったのに、とうとう最後の一口を食べ終わってしまった。

「な、なぁんだ! じゃあさ! 去年みたいに、俺達と一緒に行くか⁉︎」
「いいのか?」
「ああ! もちろん!」

 俺が彼女と別れたというのに、雅哉のやつはなぜか嬉しそうだ。
 アイスの棒をゴミ箱に捨てながら、漫画に視線を戻して鼻唄を歌う雅哉を見てムッとする。
 雅哉の背後にそっと忍び寄って、後ろから首へ腕を回して軽く締めてやった。

「おい! 何すんだっ!」
「別れたってのに、やけに嬉しそうにしやがって!」
「それは……! おい! ……苦しい!」

 ドタンッ、バタンッと部屋で暴れる。

「お前! ふざけんな!」

 雅哉の反撃にあった。
 俺の腕から逃げると、両腕を取られて力負けした。
 そのままクルリと回転されると雅哉が馬乗りになって、押し倒されたような格好になる。
 雅哉の方が体格が良くて力もあると認めたくない。
 ニヤリと笑われた。悔しい。

「貧弱ハルになんか負けねーよ」

 決して貧弱じゃない。俺だって筋肉がついているはずだ。

「離せ! この!」

 そのままバタバタ暴れても、押さえ込まれる。

「今度も俺の勝ちだな」

 いつもならここで、背中に膝を入れてやるところだった。
 けれど、そこで思い出したのは、俺の上で覆い被さってくる涼だ。

『ハル……』

 この部屋で何度も突き上げられた記憶が戻ってくる。
 雅哉が涼と被った。

 ──ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

「雅哉! ごめん! どいて!」

 体が熱い。
 これは、夏の暑さと雅哉とふざけ合っていたせいだ。そうに違いない。
 涼を思い出して体が熱くなっている訳じゃない!

「ハル?」

 雅哉は、いつもと違う様子の俺を訝しんで名前を呼んだ。けれど、羞恥心で雅哉の顔を見れなくて視線を逸らす。

「あれ? ここ……」

 雅哉が俺の鎖骨の辺りを撫でた。
 そんな事でビクリと震えたのは、気のせいだと思いたい。
 こんな体になったのも、全部涼のせいだ!

 ガチャリ。

 部屋のドアが開いた音に雅哉と共にそっちを見れば、ドアを開けたのは涼だった。
 大きなため息をついて、厳しい顔つきをする。

「二人とも、うるさい」

 雅哉はパッと離れると正座した。
 俺も隣に正座した。

「涼さん、すんません!」
「涼……ごめん」
「まったく……二人は、いくつになっても遊びが変わらないんだから」

 涼の言葉に雅哉は、へへへっと恥ずかしそうに笑ってから首をかしげた。

「あれ? ハル、さっき涼さんの事、涼って呼んだ? ハルは兄さんって呼んでたよな?」
「あ……」

 まずい。普通に名前で呼んだ。
 雅哉は俺達の変化に気付いただろうか?

「それね。社会人になるのに、いつまでも兄さんじゃくすぐったく思えてきて。僕が名前で呼ぶようにお願いしたんだ」
「そうなんすね」

 涼が上手く誤魔化したのは、さすがと言うべきか。
 父と母にも同じ説明をするんだろう。

「それより、母さんが力が有り余っているなら、下に来て家具の移動を手伝って欲しいって」

 その言葉に雅哉と顔を見合わせるのだった。

     ◆◇◆

 部屋の模様替えをしていた母の手伝いをした。

「ありがとうね。お礼は何がいいかしら?」
「じゃあ、今日ハルが夏祭りで遅くなっても怒らないであげて下さい!」

 雅哉の戯けた言いように、母がコロコロと笑う。

「ハル、夏祭り行くの?」
「うん。予定もなかったからさ」
「そう……。僕も大学の同級生から誘われていたから、行くことにするよ」
「なら、向こうで会えるかもしれないっすね!」
「そうだね」

 夏祭りの話で盛り上がっていれば、母さんがポンッと手を叩いた。

「それなら、浴衣着て行く? ハルも涼君も雅哉君も、母さんが着付けてあげるわ。宗輔そうすけさんの浴衣が何着かあったわ」

 父が浴衣を持っているなんて知らなかった。
 うーん……浴衣なんて面倒臭い。
 そう言おうとした俺を押しのけて、雅哉の目が輝いた。

「マジっすか! 俺、浴衣なんて初めて着ます!」
「ふふっ。じゃあ、用意するわ。時間になったら着付けましょう」

 乗り気な雅哉にやめようと言えず、夏祭りに浴衣を着ていく羽目になってため息をついてしまった。

 リビングで涼と雅哉で時間を潰していた。
 トランプでもするか? の雅哉の一言で始まったババ抜きは、何度やっても俺も雅哉も涼に勝てない。
 ムキになって何度目かのババ抜きをしていた時に、雅哉が母に呼ばれて抜けた。

 涼と二人きりになったリビング。
 ダイニングテーブルに向き合う形で座る俺達の前には、トランプのカードが無造作にまとめられている。
 涼の手元には2枚だけ残されたトランプのカードがあった。
 俺が涼のカードを引く番だった。

「ハル、賭けをしようか?」

 そう言いながらニヤリと口の端を引き上げた。
 自分が絶対負けないと思っているのだろう。
 それが悔しくて、負かせてやりたくなる。
 けれど、涼に勝てる気がしない。

「どんな賭け?」

 それを聞いてから決めてもいいんじゃないだろうか?

「僕のこの2枚のカード。一枚はババ。一枚は普通のカード。ババを引いたらハルの勝ちにしようか。勝負には負けても賭けには勝てるってのはどう?」

 なるほど。いつも俺はババを引いてしまうから、賭けには勝てる可能性はある。
 トランプの勝負には負けても、ババを引いたら賭けに勝てる。
 これなら涼にも勝てるんじゃないか?

「俺が勝ったら?」
「なんでも言うこと聞いてあげる」
「俺が負けたら?」
「今すぐキスして」
「は⁉︎」

 雅哉がいつ戻って来るかもわからないのにここでキスしろと?

「さっき──雅哉に押し倒されて喜んでいたね。あんな顔をしていたのはどうして?」
「あれは……!」

 涼との事を思い出したなんて言いたくなくて口籠る。
 恥ずかしくなって視線を逸らした。

「そういう顔。僕以外にしないでね。隙がありすぎるんじゃない?」

 どんな顔か知らねぇし。

「ほら、賭けをする? しない?」
「俺が勝ったら──本当になんでも言う事を聞くんだな?」
「もちろん」

 勝って二度とそういうエロい事をしないと誓ってもらおう。
 そうすれば、ふとした時に涼の事を思い出すこともなくなるはずだ。

「やるよ」
「じゃあ、引いて」

 トランプの同じ柄の模様を睨む。

 こっちは……違うかな? いや、こっち……。

 涼の顔を窺ったところで、何も変化はない。
 考えてもしょうがない。覚悟を決めて、思い切り引き抜いた。

「こっちだ!」

 思い切り引き抜いて見たトランプは──ダイヤの3だった。
 なんでこういう時だけババじゃないんだ……。しかも手元に3はなくて合わさるカードもない。
 がっくりと肩を落としてダイニングテーブルに突っ伏した。

「はい。ハルの負けね」

 嬉しそうにしながら顔をズイッと前に持って来られた。
 キスなんて唇を合わせればいいだけだ。
 パッとやってパッと終わりにしよう。
 そう思ったのに、俺の胸がドキンッドキンッと異様に音を立てている気がする。
 よく考えたら、俺からキスするのは初めてだった。

 ゆっくりと身を乗り出して目を閉じる涼の顔に迫った。
 涼のまつ毛って長いんだな……そんな事を思った。
 覚悟を決めて目を閉じて、ふにっとした感触がしたかと思った瞬間に、逃げられないように後頭部を押さえられた。

「んんっ──!」

 抗議の声も出せやしない。
 舌が口内に侵入してきて、クチュリと音がした。
 雅哉が戻ってくるかもしれない。
 それなのに、涼は容赦なく口内を蹂躙した。
 逃げ回っていた自分の舌を、涼の舌に応えるように絡めて少しすると、やっと満足したのか唇を離された。

 ちょっと勃った……。

「なんて事するんだ……」
「ふふっ。僕も勃ったからおあいこ」

 ふざけんな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...