彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき

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彼女と別れて

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「これ、お土産」

 そう言って母から渡された温泉まんじゅうにため息をつく。

「あら? ハルは、甘いもの好きよね?」
「あ──好き。ありがとう」

 どうにか笑顔を貼り付ければ、母も父も嬉しそうに微笑んだ。
 両親が悪いわけじゃないと分かっていても、誰かに八つ当たりしたい気分だった。
 手首の痕を誤魔化す為に付けた腕時計と少し太めのバングルが恨めしい。

「ハルはね、いじけているんだ。父さんと母さんに置いてかれたから」
「まぁ。今度は家族で行きましょうね」
「そうだな。今回行ったところは、景色が素晴らしかったぞ」

 両親は、俺が高校生になってから、二人で温泉旅行に行くのが好きだった。
 俺達も両親がいなくて不安になるような歳じゃない。
 けれど、今回ばかりはどうしてこのタイミングだったのかと不満だった。

 涼と目が合えば、微笑まれる。
 家族が揃ったリビングのソファで、数時間前まで涼と繋がっていた。

『ねぇハル……もうここも、僕の形になったかな?』

 繋がっていた部分を撫でて妖艶に笑う涼を思い出して、ブワッと何かが込み上げてきた。
 みんなに顔が熱くなったのを見られたくなくて、お茶を入れると誤魔化してキッチンに逃げた。

「僕も手伝うよ」

 そう言いながら、涼もキッチンにやってきた。
 涼から逃げたはずなのに追いかけて来ないで欲しい。
 真っ赤になっていた俺を見てクスクスと笑う。
 分かっていてやって来たようだ。
 それが恨めしくて肘で小突いた。

(涼のせいだからな)
(それは嬉しい)

 両親は、ヒソヒソと小声で囁き合う俺達に気付く事はなく、楽しそうに話している。

(あ。キッチンでもするの忘れてた)
(なんでどこでもしようとするんだよ。するなら部屋にしてくれよ)
(今みたいにどこでも僕の事を思い出してくれるから。今度はキッチンでもしようね)

 またも真っ赤になった俺を置いて、何食わぬ顔でお茶を出す涼を何とも言えない気持ちで見ていた。

     ◆◇◆

 涼に確かめたい事があった。
 両親が帰ってくればエロい事で誤魔化せる事はないと思い、涼の部屋に行った。
 涼は、嬉しそうに俺を迎え入れた。

 10畳ほどの広さの部屋にクローゼットがあって、ベッドとローテーブル、書斎にあるような机と本棚が置いてある。
 モノトーンでまとめられた部屋はシンプルで大人っぽい。
 座るように言われて、ベッドとテーブルの間に座った。
 フカフカの絨毯は座り心地がいい。
 その隣に涼も座ってこちらを見ている。

「聞きたい事があって……」
「何?」
「俺のスマホ、持ってる?」

 どこを探してもなかった。最後に見たのは、涼に拘束される前にソファでいじっていた時だ。
 涼は、俺のスマホを持っているんじゃないかと思っていた。

「持ってるよ」

 涼は、机の引き出しから俺のスマホを取り出して、あっさりと返してくれた。
 やっぱり持っていた。もっと返すのを渋ると思っていたから拍子抜けだった。
 素早く確認してみれば、たくさんの着信履歴とメッセージにうわぁと思う。
 友達と彼女には連絡しないと。

「ハル、僕がスマホを返した意味がわかるよね?」
「え?」
「彼女と別れて」

 できないなら、僕が話そうか? そう言った。
 そんな恐ろしい事をさせられない。
 確かに別れると約束した。

「連絡……してきていい?」
「ここでね」

 涼の目は、このままここで別れ話をする以外に許してくれそうにない。

「分かった……」

 いきなり電話をする勇気はなくて、メッセージを送った。
 デートへ行けなかった事へのお詫びと、別れようというメッセージだ。
 別れようと先に言っておかなければ、上手く伝えられない気がした。
 涼はそれを確認して微笑む。
 送信すれば、すぐに着信音が鳴った。現れた瑠花るかという彼女の名前。

「出ていい?」
「いいよ」

 涼は、俺が電話に出ると同時にベッドを背に俺の背後へ回り込んだ。
 涼の両腕が腰の辺りから伸びてきて抱き締められる。
 胸がドクンッと鳴った。

『先輩? 大丈夫ですか? 何かあったんですか?』
「あ……うん。ちょっと抜けられない用ができて……連絡できなくてごめん。怒ってくれていいから」
『怒ると言うより……心配してました。春樹先輩は、約束を破るような人じゃないですから……』
「瑠花……ごめんな」

 心なしか、涼の腕の力が強くなった気がする。

『こうやって連絡をくれたのでいいです。それより……その……別れるって言うのはどういう事ですか……?』

 心臓がドキンッドキンッと鳴っているのは、涼に対してか彼女に対してか……。

「ごめん……」

 謝ってばかりだ。

『私……先輩が怒る事をしましたか?』

 不安そうな声に申し訳なくなる。
 恋人らしい事もしてあげられないまま別れようなんて最低だ。

「いや……瑠花が悪いんじゃない」
『それなら、どうして……?』

 理由が思い付かない。
 涼に犯されたからとか絶対に言えないし、彼女に不満があったわけじゃない。
 なんて言ったらいいんだ?

(好きな人ができたって言うんだよ)

 スマホを当てている反対の耳元で涼に囁かれる。
 そう言う以外にないんだろう。

「俺さ、瑠花に好きだって言われて本当に嬉しかったんだ」

 抱きしめていた涼の腕が強くなる。
 セリフが違うじゃないかとギュウギュウ締めてくる。

 ちゃんと俺の気持ちを伝えたかった。
 いい加減に付き合ったわけじゃない。
 瑠花との未来を期待した。
 もう今は何も想像できないけれど。

「だから、付き合った」
『はい……』
「でも、別に好きな人ができたんだ……。瑠花と付き合っておいて、こんな事になってごめん」

 俺の中で涼という存在が大きくなった。
 誰と付き合っても、涼をなしに考えることはできない。
 そもそも涼が、俺が他の誰かと付き合う事を許しはしないだろう。

 涼の腕の力が少し緩んだ。
 肩に顔を埋めてスリスリと擦り寄ってくる。
 そんな事をされたら少し可愛く思えてしまって苦笑いする。

『本当に……好きなんです……』

 そんな風に言ってもらえて嬉しかったのに、今は苦しい。

(僕の方が何倍もハルを愛してるよ……)

 涼に耳元で囁かれた。
 痛んでいたはずの胸が、涼の事しか考えてはいけないと訴えた。

「瑠花。もう俺に期待しないで。」
『先輩……』
「何もしてあげられなくてごめん……。ありがとうな」

 これ以上、会話を出来そうになくてすぐに電話を切った。
 涼は、ギューッと腕の力を強くして抱き締めてきた。

「苦しいっ」
「ハルが僕を好きって言った」
「だって……それは、涼がそう言えって……」
「じゃあ、本当は僕をどう思ってる?」

 好きかどうか聞かれたら──好きだ。
 それが愛情なのかはわからないけれど。

「俺は涼が好きだけど、それが涼と同じ気持ちかって言われたら──正直わからない」
「だよね」

 涼は、肩に顔を埋めたままクスクスと笑う。

「それでもハルは、僕のものだよね?」
「うん……」
「それで充分だよ。僕は分かっていてやったんだ。仲の良いだけの家族なんて壊したくて、ハルを無理矢理奪ったんだ。嫌われたってしょうがないさ。」

 自分を責めるような言い方をして、涼は自嘲するように笑う。

「嫌ってないよ……」
「お人好しだなぁ……」

 涼の声が優しすぎて、また泣きそうなんじゃないかと涼の方へ顔を向ければ、見せないとでも言うように強引にキスされた。
 柔らかい唇の感触の後、入ってくる舌に応える。
 やけに長いキスに、もうやめろと言ってやりたいのに、塞がれた唇では言葉が紡げない。
 どうにか唇を離そうと体を引けば、面白そうに笑いながら床に押し倒された。

 ドサリッ!

 下にいる両親に大きな音が聞こえたんじゃないかと気が気じゃない。

「バッ──ヵ……!」

 小声で怒るってどうやれば……⁉︎

「声。我慢してね」

 俺の上でクスクス笑う涼を睨む。

「そんな顔したって可愛いだけだよ。そうやって煽るハルが悪い」

 そのまま好き放題された。俺は悪くない。
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