2021年おみなしづきクリスマス番外編集

おみなしづき

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『彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた』涼×春樹【優先順位は!?】

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 りょう春樹はるきは、血の繋がらない兄弟だ。
 涼は社会人で、春樹は大学に行きながらバイトをしていた。
 涼は、春樹の中性的な顔立ちが大好きだった。春樹も涼のサラサラの黒髪が気に入っている。
 そんな二人は、お互いの気持ちを確認し合い、実家を出てアパートに二人で暮らしていた。

 それは、12月に入ったばかりの頃だった。

 涼は、寝室に入るドアを開けながら、背後にいた春樹に顔を向けて、クリスマスをどうするのかと問いかけた。

「クリスマスイブにバイトを入れるなんて……学生って休みだよね?」

 涼は、不満顔で春樹に詰め寄った。

「しょうがねぇだろ……クリスマスはバイトが終わってから一緒に過ごすのでもいいだろ?」

 春樹は少しの罪悪感で視線を逸らす。

「僕は仕事でも定時には終わりになる。それから会えたのにバイトなんて……」

 涼が落ち込む事は分かっていた。それでも春樹は、休むつもりはない。

「俺たちは出かける予定はなかったし、他のバイトの人達は休みの人多いからさ。誰かがやらなきゃいけないんだ」
「そんなの、ハルじゃなくていいじゃないか!」

 涼は、わかってはいても納得ができない。

「前から思ってた……ハルは僕を優先する事ってないよね……」

 普段から春樹の涼に対しての優先度は低いのではないかと思っていた。それが顕著に出た気がして、涼はついそんな事を口走ってしまった。

 涼の言葉に春樹はため息をつく。

「子供みたいな事を言うなよ……」
「だって、僕にとってクリスマスって特別なんだよ……このネックレスだってクリスマスで交換したんじゃないか……」

 涼は、首に下がっていたネックレスを触りながら、眉根を寄せて春樹を見つめる。
 それに対して春樹も、同じ形のネックレスに触れて、お互いに渡し合ったプレゼントが同じ物だった時の奇跡を思い出す。

「俺だって特別だって思ってる」
「だったら、バイトより僕を選ぶべきだ……」

 涼の言葉に春樹は再びはぁとため息をつく。

「9時にはバイトが終わりになる予定だから、その後に一緒にクリスマスしよう。な?」
「ハル……」
「ごめんって。次の日は休みなんだから、ゆっくり過ごせばいいだろ? 俺は涼ならわかってくれると思ってるから」

 涼の方が年上なのに、わがままを言うのはいつも涼だ。涼は、納得できない気持ちを持て余していた。

「今日は別で寝る……」

 そうは言いつつも、涼は春樹が一緒に寝たいと言ってくれる事に期待していた。そうすれば、許してあげられる気がした。

「わかった。じゃあ、俺はソファで寝るよ」
「あ……」

 さっさと寝室へ行き、枕と布団を持ってきてソファに横になってしまった春樹に、涼は今更一緒に寝たいと言えなかった。

     ◆◇◆

 次の日も次の日も、しばらく気まずさはなくならず、お互いにぎこちなかった。
 寝る時もダブルベッドで背を向けながら眠った。

 春樹は、大学の構内で雅哉まさやに会った。
 雅哉は春樹の幼馴染で親友だ。
 学部が違うので中々会うことは無くなっていたけれど、いつも春樹が落ち込んでる時に雅哉が声を掛けてくれる。

「ハル。久しぶりだな! 少し話すか?」
「雅哉。忙しくないのか?」
「少しなら大丈夫だ」

 二人でベンチに座り込む。
 春樹が冬の寒さでブルッと震えると、雅哉は近くの自販機から缶コーヒーを買って春樹へと手渡した。

「お前って、やっぱり気がきくよな。サンキュー」
「飲もうぜ」

 二人で缶コーヒーを飲む。
 ホットコーヒーの温かさが春樹の心にジンと染み込むようだった。

「元気ないな。涼さんと何かあったか? ケンカか?」
「いや、ケンカってほどじゃないけど……アレだ。仕事と私、どっちが好き的な事を言われてさ……」

 ある程度の説明をすれば、雅哉は笑った。

「ははっ。それで涼さんが拗ねたんだな」
「お前すげぇな。良く分かるな……」
「わかるさ。お前らの事なんてお見通しだ」

 雅哉にとって春樹は特別だ。
 少しの変化だって見逃す事はない。

「俺だったら、少しでも一緒にいられたらそれだけで嬉しいのに……」
「雅哉……」

 雅哉は、何かを思い出す顔をした後にニカッと笑う。

「涼さんだって仲直りしたいと思ってるさ。お前からお詫びって事でプレゼントでも買ってやったらどうだ?」
「そうだな。雅哉、聞いてもらって少し元気出た。ありがとな」
「俺とお前の仲だろ? 気にすんなよ」

 クスクス笑う雅哉に春樹も微笑む。
 春樹は気持ちが浮上して、改めて涼と話そうと決めた。
 飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に捨てて、雅哉と別れて歩き出した。

 残された雅哉は、春樹の座っていたベンチをそっと見つめていた。

「幸せでいろよ。じゃないと俺は──」

 雅哉は、同じ学部の友人に呼ばれて言葉を切って立ち上がる。
 この先の春樹の幸せを願いながら、友人の元へ歩いて行った。

     ◆◇◆

あきらたちは温泉旅行なんだ……」

 涼は、同じ会社で働く実の兄に偶然会った。
 ついでとばかりにクリスマスはどうするのかと問いかけた。すると、温泉旅行に行くと聞かされて、聞いた事を軽く後悔していた。

(いつも僕たちより仲良しだって見せつけて……)

 涼の胸がもやもやとする。

「仕事は?」
「私はそれまでに仕事をきっちり終わらせる自信があるよ。当日に何か問題でもない限り大丈夫さ」

 有能な兄を尊敬すると同時に嫉妬する。

「それで、涼はどうするんだい?」
「ハルがバイトなんだって……」
「偉いじゃないか」

 春樹を褒めたのに不満顔のままの涼に、輝は何かを察したようだ。

「涼、ちゃんと春樹くんを尊重してやりなさい」
「…………」

 涼は、自分でもわかっていた。
 もうそれほど怒ってもいない。けれど、許すタイミングが見つけられずにいた。

 春樹に愛してもらえるだけで良かったのに、いつの間にか欲張りになっていた事に気付く。

(そうだった……僕は愛されて当たり前じゃないんだ……無理矢理ハルを手に入れた僕と、ハルの気持ちが同じだなんて事はないんだ……)

     ◆◇◆

 クリスマスイブ。

 前の日には二人で話し合って、バイト終わりにイルミネーションを見に行く事に決めた。
 涼も春樹も久しぶりに素直に笑い合った。

 春樹は、バイト先でケーキを売っていた。
 予約した客がケーキを取りに来ていた。

「すみません、ケーキの予約をした田杉たすぎです」
「はい。こちらですね」

 田杉と名乗った人は、黒髪がサラリと揺れるスーツを着た大人の男の人だった。
 隣の男の人も春樹の目には、いい所のお坊ちゃんみたいな人に見えた。

「田杉? 受け取れた?」
「ああ。ここのカフェのケーキは美味いぞ。古谷ふるやも買えば?」
「本当? でも、ホールで頼んでるからなぁ」
「バラ売りの方でもいいんじゃん? ほら、これなんて美味そうだ」
「本当だ。タルトなら彼女が喜びそう」

(この人達も大切な人とクリスマスを過ごすのか……涼……待ってるよな……)

 楽しそうな二人を見て、春樹は涼を思い出す。
 イブにバイトを入れてしまった罪悪感はずっとあった。早くケーキを売って涼に連絡をしたかった。

 9時少し前に全てのケーキが完売すれば、バイトが早く終わる。
 店のマスターがニコニコしながら春樹に声を掛けた。

「ご苦労様。本当にありがとうね」
「いいえ。マスターにはいつも融通を効かせてもらってお世話になっていますから」
「ふふっ。春樹くんが頼んでたケーキは店の冷蔵庫に入ってるから持って行ってね」
「ありがとうございます!」

 急いで着替えてスマホを確認する。
 涼からの着信はなかった。
 すると、ちょうど見知らぬ番号から着信が来て訝しみながらそれに出た。
 近くの病院からだった。

日比谷ひびや涼さんなんですが、事故に巻き込まれましてご家族にご連絡をさせて頂きました』
「え……?」

 事故? 春樹の頭が真っ白になって手が震えた。
 涼がいなくなったら──生きてけない──。

『怪我は大きくはないのですが、救急の事故ですから、ご家族にご連絡をするのが病院の方針でして──』

 次の説明を聞いてホッと息を吐き出した。大した事はないらしい。

「近くにいるので、これから迎えに行きます。待つように言っておいて下さい」

 通話を切って春樹はすぐに病院へ向かった。
 本当に怪我は大した事ないのかと不安になって行く。涼の元気な姿を見ないと落ち着かなくて、進める足も早くなる。
 春樹は、病院に向かう間もずっと険しい表情のままだった。

 病院に着いて急患の受付で名前を告げれば、処置室に案内された。

(処置室なんて……大怪我じゃないのか?)

 ドキドキと胸がなる。何度か深呼吸をして処置室のドア開けようとした瞬間にドアが開いてびっくりする。

「どうもありがとうございました」

 ペコリとお辞儀して出てきたのは涼だった。
 腕に包帯を巻かれただけの涼に唖然とする。
 涼は、春樹に気付くとパッと顔を綻ばせた。

「ハル! 外のベンチで待とうと思ったけど、すぐ来てくれたんだね! ハルのバイト先に行こうと思ったら、事故に巻き込まれちゃって、腕怪我しちゃった」

 涼は春樹に左手を見せる。
 涼の腕は包帯を巻かれただけだった。

「腕……怪我……」
「擦り傷だけど、一応見てもらえって言われちゃってさ。警察の人にも話聞かれて大変だったよ」
「擦り傷……」

 春樹は、そっと涼に抱き着いた。

「ハル⁉︎」

 普段は春樹から抱きつく事なんてない。
 涼は、戸惑いながらも嬉しくなって抱き返す。

「良かった……大した事ないって聞いたけど、心配したんだ……本当に良かった……」

 春樹は心底安心して、ホッと息を吐き出す。
 やっとうまく呼吸ができた気がする。

「ハル……ごめんね、心配掛けて。ふふっ」

 ニヤけた顔で笑う涼に春樹は訝しむ。

「何笑ってんだよ?」
「やっぱりハルは、僕を愛してたんだなぁって実感して嬉しくなったよ」
「当たり前だろ……俺はいつだって涼を愛してるよ……」

 涼は、その言葉を聞けただけでも、最高のプレゼントだと思う。
 怪我をしたのは運が悪かったけれど、春樹からの愛をもらえた気がする。

「今日はこのまま帰ろっか」

 涼も春樹も二人きりになりたいと思っていた。

「そうだな──あっ! ケーキ……店の冷蔵庫から出してくるの忘れた……」
「そんなに慌てて来てくれたの? 僕は、幸せ者だったんだね……」

 涼は、胸の奥が熱くなって、チュッと春樹の唇にキスを落とした。
 春樹はハッとして慌てて離れる。

「何すんだよ。誰かいたらどうすんだ……」
「だって、すごく嬉しかったから。それに、誰もいないよ」
「やめろ……」

 もう一度抱きしめようとする涼に怒りながら、二人で仲良くケーキを取りに行き、家に帰った。

     ◆◇◆

 夕食を食べてから、二人掛けのソファに腰掛けて、デザートのケーキを二人で頬張る。

「ご飯も外で食べようと思ってたから、いつもと同じメニューになっちゃってごめんね」
「いいよ。涼がいてくれれば、それでいい」

 その言葉に涼の胸がキュンと鳴った。
 隣に座る春樹の首筋がさそっているように見える。
 そっとテーブルにケーキの皿を置いて、隣にいる春樹に囁いた。

「ハル……しよっか……」 

 春樹が真っ赤になる。涼は、いつまで経っても慣れる事はなく、照れる春樹が可愛くて仕方がない。

「お前……恥ずかしいからそういう事を口にするなって……」
「ずっとケンカみたいになっちゃってたから、触れたくても触れられなくて……もう限界……」

 涼は春樹の腕を取ると、ドサリとソファに押し倒した。服の中に手を突っ込んで胸を触ると甘いキスで口を塞ぐ。

「ん、んぁ……涼……んっ、待てって……」
「ダメ。今日は無理」
「あっ……んっ……」
「ほら、ハルの乳首すぐに勃った。ハルだって待てなかったんだね……」

 涼は、春樹の服を脱がすと首筋に唇を寄せてスッーと舌で撫でる。

「あっ……」

 そのまま乳首に吸い付いて、反対側を指で転がした。
 春樹から甘い声が漏れるたびに涼のモノに熱が集まる。

 涼は、春樹のモノを握って嬉しそうに笑った。

「もう勃ってる……」
「そ、そういうお前だって勃ってんじゃん……」

 春樹も、真っ赤になりながら、涼のモノに服越しに手を伸ばした。

「知ってるでしょ? 僕はハルに触れるだけで興奮する……」

 涼も服を脱げば、お互いの裸に触れながら確かめ合う。
 涼は春樹の上に覆いかぶさりながら中に挿入しても、ジッとしてキスばかりしていた。
 それに焦ったくなった春樹が涼に抱き着く。

「涼……う、動いて……」
「ふふっ。我慢できなくなった?」
「こういう事は……二人居なきゃできないだろ? 俺は……二人で気持ち良くなりたい……」
「ハル──ッ」

 涼はいつも春樹から貰ってばかりだと切なく思う。
 どうすれば、この気持ちが春樹に伝わるのか。どんなに愛しいと思っても、いつも空回ってばかりだ。
 体で伝えるとばかりに春樹を攻め立てた。

「あっ、はっ……あ──っ!」

 春樹の気持ち良い所を攻めて、キュッと締め付ける内壁に眉根を寄せる。
 溶け合うようなこの行為が最高に気持ちいい……。

「ハル……愛してる──」

 ずっとずっと春樹の事を愛してきた。それは積み重なって大きく膨れ上がり、自分は春樹の為に生きているんだと思うほど涼の全てを満たしている。

「俺も……愛してる……。何度だって伝えるから……不安にならないで……」

 深い口付けに愛を感じ合う。
 春樹と愛し合うと、涼はいつも胸がいっぱいで泣きそうになる。
 春樹を手に入れた時から、こんな風に春樹が自分のものになってくれるとは夢にも思わなかった。
 抱き返してもらえる腕を二度と離したくない。

 切なくて……甘い……。

「涼……一緒に……イこう?」

 涼は、強請るような春樹の表情に堪らなくなって夢中でそれに応えていた。

     ◆◇◆

 ソファに座り、二人で一枚の毛布に裸でくるまりながら、涼は春樹を背後から抱き締めている。
 春樹はふと壁掛け時計に視線をやる。

「あ。12時過ぎてる。イブが終わったな……」
「本当だ。今年も一緒に過ごせたね」

 涼は、春樹の肩に顔を埋めて、その素肌に優しくキスを繰り返す。
 春樹は、前を向きながらその頬にそっと手を伸ばした。

「俺にも大切なものって増えてて、涼を優先する事が難しい時もある。でも、いつだって俺の一番は涼だよ。それは忘れないで欲しいんだ」
「うん……わかってる……」

 ギュッと春樹を抱き締める腕の力が強くなる。
 涼は、常にくっ付いていたがる。
 それは、涼が春樹へとしてきた事への不安の現れで、ずっと変わらない。
 春樹は、それがなんとなくわかっていて、涼の不安がなくなるならと好きにしてやる事が多い。

「涼にさ、プレゼント考えたけど、金もないし何も思い浮かばなくて……」
「いいよ。さっきハル自身をもらったし」

 涼は上機嫌で頬笑む。
 春樹はそれならばと、覚悟を決めて涼の方へ顔を向ける。

「俺自身ならいっぱいやるから……好きにしていいよ……」

 涼は、恥ずかしがって真っ赤になる春樹をジッと見つめる。

「それって──」
「だから! ──俺の事をめちゃくちゃにしていいって言ってんだよ!」

 涼は、たまらなくなってソファに春樹を再び押し倒した。
 満面の笑みで覆いかぶさって春樹を見つめる。
 やっぱり春樹は、涼の嬉しそうな顔が大好きだ。

「ハル……メリークリスマス……」
「メリークリスマス……涼」

 そっとキスをし合う二人の夜はまだまだ終わる事はなさそうだ。
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