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番外編
千宙とアルコール 創志視点
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同級生とは時々会っていて、飲みに行ったりしていた。
その中でも信幸は、悪友と言っていい。
俺と同じくらいの遊び人だった男だ。
『久しぶりにさ、みんなで鍋しようって事になってさ。創志の恋人にも会わせてくれよ』
面白がっている事はわかっていた。
自他共にクズだと認める俺が本気になった相手が見たいんだろう。
『俺は別にいいよ。創志の友達に紹介してもらえるのは嬉しいよ』
千宙がそう言うから、俺はこの誘いを承諾してしまった。
こんなカッコよくて可愛い恋人を俺は自慢したかったのかもしれない。
◆◇◆
信幸のアパートへ手土産を持って出かけた。
歩きで大した距離はない。
ピンポーンとインターホンを押せば、ガチャリとドアが開いた。
「創志! あがれよ」
信幸の見た目は、ニコニコしている爽やか好青年だ。
「これ、土産」
手渡したフルーツワインに目を輝かせた。
信幸は甘い酒が好きだ。
「やった。一緒に飲もう」
中に入れば、同級生だった男が三人と女が二人いた。
その中の一人の男を見て遠い目をする。
柚月は俺の元セフレだ。
なんでいるんだよ……極力話すのをやめよう……。そう思って、頭を抱えそうになる。
みんなで鍋を囲んでいるが狭そうだ。
「こんなに人がいるなんて聞いてないぞ」
「創志の恋人が来るって言ったらさ、みんな見たいってさ」
あははと笑う信幸と肩を組んで、千宙から遠ざかる。
(なんで柚月もいるんだよ!)
(どうしても来たいって言うからさぁ)
信幸に恨みがましい視線を送れば、苦笑いで誤魔化された。
そんな俺たちを見て、柚月がニヤニヤと笑いながら声をかけてくる。
「二人がコソコソ話すのって感心しないなぁ」
……お前のせいだよ。
既に千宙をこの場に連れてきた事を後悔する。
「碓氷千宙です。よろしくお願いします」
自己紹介をしてペコリとお辞儀をした千宙が尊い。
「かぁわいい!」
女達は喜ぶ。
「なんだよ! 俺らよりすげー若い子じゃん! 羨ましいぞ!」
男達も喜ぶ。
そうだ。こいつらそういうノリだった……。
千宙が取り囲まれてしまう。
すかさず守るように抱きしめてシッシと追い払う。
千宙は見せ物じゃないぞ。
「お前らの汚れた空気を吸わせるな」
「ははっ。創志そんなキャラじゃなかったのにな! ウケる!」
なんとでも言え。
「ちぃくん、こっち空いてるから座ろ」
空いていたスペースに隣同士で座り込んで、煮込まれていた鍋の肉とビールをもらった。
「千宙くんは何飲む? ビール?」
「ちぃくんにアルコールはだめ。ウーロン茶取って」
「なんで?」
「なんでも!」
千宙が二十歳になって初めて二人で飲んだ時の事を思い出す。
あれは──やばい。
「それじゃあ、ウーロン茶ね」
女の一人が千宙にウーロン茶を手渡した。
「ありがとうございます」
千宙は笑顔で受け取るとそれを飲む。
「なぁ、お前らってどうやって付き合ったの?」
「元はただのお隣さんで──」
信幸の質問に答えながら、みんなでその場を楽しんでいた。
ある程度の時間が過ぎた頃に、柚月がクスクスと笑い出す。
「さっきからさ、創志は恋人をちぃくんって呼んでるの? やっぱりセフレじゃないのぉ?」
不穏な空気に包まれる。勘弁して欲しい。
「何言ってんだよ……」
「だぁって、創志ってセフレをあだ名で呼ぶ事多いじゃん。僕の事もゆぅくんだったしぃ」
缶チューハイを飲みながら、とんでもない事を言い出した。
慌てて千宙に向き合う。
「ち、ちがうから! 昔の話だから!」
千宙が笑顔だ。感情が読めない!
「また呼んでよぉ」
そう言いながら、柚月が千宙と反対の俺の隣に来てしまう。
「いつの話をしてんだ! 柚月は柚月だろ!」
千宙は、笑顔で俺から離れてしまう。
「千宙くん、そんなやつほっといて、こっちくる?」
クスクスと笑いながら信幸がそんな事を言い出すと、千宙は信幸と一人の女の間に入って座り込んでしまった。
「ちぃくん!?」
「仲良さそうだったみたいだから、俺に遠慮せずにどうぞ話して下さい」
笑顔が怖い! 怒ってんじゃん!
千宙の方へ行こうとすれば、柚月に腕を組まれて立てなくなった。
「なぁに、気が効く恋人だねぇ。本当はセフレなんでしょ。久しぶりに僕とどう?」
柚月を引き離す。
「俺はそういうのやめたの」
「嘘だ。創志が一人で満足するはずないよぉ。創志うまいから人気あったんだよ」
スッと太ももを撫でられた。
千宙に見られては……いないみたいだ。
千宙は信幸達と楽しそうに話している。
それはそれで寂しいんだけど……。
じゃなくて、柚月の手を振り払う。
「おい。やめろよ」
「勃ったらいい?」
「触るな。それに、ちぃくん以外に勃たない」
「なにそれぇ」
柚月と攻防戦をしている間に、千宙がいた方がわぁっと盛り上がった。
何事かと窺う。
「いい飲みっぷりだね」
信幸が楽しそうに笑っている。
「千宙くん、次は何飲む?」
千宙の隣にいる女が、千宙に色目を使っている。気に入らない……。
それよりも、千宙の雰囲気が少しいつもと違う気がした。
「──……おねぇさん……綺麗な目……してんだね……」
「え?」
「俺、おねぇさんの目、キラキラしてて……好きだな……」
そう言いながら、女の両頬に手を伸ばす。
女は真っ赤になりながらされたままだ。
千宙は、キスしそうな距離まで顔を近付けたと思ったら、クスクスと笑った。
「本当、ガラス玉みたいな綺麗な目。もっと見てたいけど……やめとこうか」
千宙がニッコリ微笑んだ。
「千宙くん……」
女がぼぉーっと千宙を見つめる。惚れたな!
「信幸! なんでこんな事になってんだ!?」
「千宙くん、間違えてウーロンハイ飲んじゃってさ。でも、飲めそうだったからもう一杯飲ませたらこうなった」
千宙が酔っ払った!
「信幸! ちぃくんを止めろ!」
「千宙くん、飲み過ぎちゃったみたいだね。こっちの本物のウーロン茶を──」
ぐるりと信幸の方を向いた千宙が、信幸のウローン茶を持つ手を両手で掴んだ。
「男らしい手だね……俺、こういう手、好き。その手で触れられたら……きっと気持ちいいんだろうね……」
千宙がズイッと信幸に体を寄せた。
「ち、千宙くん……これ……飲まないと……」
なんで信幸が赤くなってんだ!
「信幸さんが飲ませてくれんの……?」
スリッと手を撫でて、下から妖艶に微笑む千宙のドアップに信幸がノックアウト寸前だ。
「口移しでいいかな……?」
信幸のやつは、惚れたって顔して何言ってくれてんだ!
「こらぁ! そこ、離れて!」
柚月なんて構っていられない。
柚月を振り払うように慌てて立ち上がって、信幸と千宙の間に割って入り、信幸から千宙を引き離した。
「ちぃくん、正気に戻って!」
ガシッと両肩を掴んで目を合わせれば、パァッと満面の笑顔を見せた。
それを見た周りのみんながぽぉっと見惚れてしまう。
こんな無邪気な笑顔、普段は絶対しない!
俺まで眩しさにやられそうだ……。
「創志……好き……大好き……」
普段はこんな風に言ってこない。こんな事言ってくるのはやっぱり酔っているからだ。
ギュッと俺の首に腕を回してきた。
首に擦り寄ってくる。
「創志のサラサラの髪、好きだよぉ……」
そう言いながら、後ろに回した手で髪を撫でてくる。
やばい……色々やばい!
「この、ちょっと敏感な耳も……」
耳元で囁かれて、ペロリと舐められてビクリとする。
「ちぃくん! お、お願いだからこれ以上は……」
「それと……この胸も……」
スリスリと顔を擦り付けてくる。
そのまま俺を上目遣いで見てきた。
可愛すぎる……! 円周率を数えないと勃つ!
「それから……」
股の間を撫でられそうになって、ガシッとその腕を掴んだ。
「ちぃくん……だめ……まじで……だめ……」
勃つって……。
こっちの気も知らないでキョトン顔の千宙が可愛過ぎて脱力だ……。
「創志? なんか体が熱いよ……脱がして……」
「が、我慢して!」
家だったら脱がしてたさ!
「ちぃくん、もう帰ろう!」
緊急避難を開始する!
腕を掴んだまま立ち上がれば、千宙も立ち上がる。
「創志が帰るなら帰る……」
コクリと頷きながらそう言った。どこまでも可愛い……!
押し倒したい!
色々限界です……もう本当……。
「えぇー! 帰っちゃうの? 千宙くんだけでも置いてってよ」
「信幸……ちぃくんに手を出したらぶん殴るからな! お前らも、今日の記憶を消せ!」
こんな千宙を見せる予定はなかった!
「そんな可愛いくてかっこいい子独り占めなんてずるい!」
「創志じゃなくて、俺にしない?」
周りの奴らが言いたい事を言ってくる。
「ちぃくんは俺のなの!」
威嚇をしながら、千宙の腕を引いて玄関へ。
柚月が後を追いかけてきた。
「創志ぃ……また会ってよぉ」
俺の服の裾を引っ張ってそんな事を言う。
面倒臭い! そのまま無視して帰ろうとしたら、千宙が俺の手を振り解いた。
柚月の前に行って、足を振り上げた。
「千宙!?」
「わぁ!」
柚月を蹴るんじゃないかと思った足は、柚月の横の壁をドカッと蹴った。
足ドン……それも、壁に穴が開くんじゃないかってくらいの……。
柚月が恐怖でヘタリ込んだ。
千宙は、その胸ぐらを掴んで顔を近づけた。
相手を見下すような瞳は、迫力満点だった。目が据わってる……。
「人の男に手を出すな。次は当てる」
「は、はい……」
すると、その返事を聞いた千宙は、泣き出しそうな柚月にニコッと微笑んだ。
「お前、可愛いんだからすぐにいい男見つかるよ。自分だけを大事にする人を見つけた方がいい」
そして、柚月の頭をポンッと優しく叩いた。
「千宙……くん……」
ポッと柚月の頬が赤く染まった。
またぁーー! 惚れさせてんじゃないか!
柚月が千宙に抱きつこうとしたのを阻止して引き離す。
「千宙! 帰るってば!」
ガシッと腕を掴んで再び玄関で靴を履かせる。
今度は俺が柚月に恨みがましく見られた。
なんでこうなるんだ。
「千宙くん、創志に飽きたらいつでも相談して! また会おうね!」
「またね」
笑顔でヒラヒラと手を振る千宙に、もやもやしながら家路を急いだ。
家に帰ってまず水を飲まそうとしたら、信幸の時と同じように手を掴まれた。
「創志が飲ませて……」
コテンッと首を傾げた千宙に限界を越える。
グラスをテーブルに置いてガバッとキスしたら、いつもよりねちっこいキスが返ってくる。ぐちゃぐちゃにされて、舌が痺れそうだ。
そのままベッドに押し倒した。
「創志ぃ……好きぃ……」
首の後ろに手を回して、チュッチュッとされるキスが気持ち良かった。
そのまま服を脱がす。
けれど、千宙の動きがピタリと止まる。
嫌な予感……。
千宙からすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてくる。
さっきまで俺の首に回されていた腕がポトリと布団に落ちてガッカリする。
寝たぁーーーー!
前の時もそうだった……。
居酒屋で飲み始めたはいいものの、二杯目あたりから酔っ払って店員さんを惚れさせた。
俺に散々期待させておいて、家に帰ってきてベッドに行けばコテンと寝た……。
ここからは、何をしても起きない。
酔うとめちゃくちゃ可愛い千宙が見れるけれど、周りを惚れさせるわ、散々俺に迫って爆発しそうなままで放置するわ、とんでもない……。
この後に一人で抜かないとおさまらない……この虚しさ……。
俺の精神的ダメージが大きすぎる。
「千宙……本当にもう飲まないで……」
スヤスヤと安らかに眠る千宙にため息をついてから布団をかけた。
──────────
※あとがき
最後までお読み頂きありがとうございます。全ての皆様に感謝します。
感想など頂けたら嬉しいです。
遠距離にチャレンジしましたが、書くのは難しかったです。
電話以外の連絡方法は、あえて書きませんでした。そちらの方が遠距離っぽい気がして……皆様にはどうだったかな?
そして、男前な受け……好きです。
本当にありがとうございました!
その中でも信幸は、悪友と言っていい。
俺と同じくらいの遊び人だった男だ。
『久しぶりにさ、みんなで鍋しようって事になってさ。創志の恋人にも会わせてくれよ』
面白がっている事はわかっていた。
自他共にクズだと認める俺が本気になった相手が見たいんだろう。
『俺は別にいいよ。創志の友達に紹介してもらえるのは嬉しいよ』
千宙がそう言うから、俺はこの誘いを承諾してしまった。
こんなカッコよくて可愛い恋人を俺は自慢したかったのかもしれない。
◆◇◆
信幸のアパートへ手土産を持って出かけた。
歩きで大した距離はない。
ピンポーンとインターホンを押せば、ガチャリとドアが開いた。
「創志! あがれよ」
信幸の見た目は、ニコニコしている爽やか好青年だ。
「これ、土産」
手渡したフルーツワインに目を輝かせた。
信幸は甘い酒が好きだ。
「やった。一緒に飲もう」
中に入れば、同級生だった男が三人と女が二人いた。
その中の一人の男を見て遠い目をする。
柚月は俺の元セフレだ。
なんでいるんだよ……極力話すのをやめよう……。そう思って、頭を抱えそうになる。
みんなで鍋を囲んでいるが狭そうだ。
「こんなに人がいるなんて聞いてないぞ」
「創志の恋人が来るって言ったらさ、みんな見たいってさ」
あははと笑う信幸と肩を組んで、千宙から遠ざかる。
(なんで柚月もいるんだよ!)
(どうしても来たいって言うからさぁ)
信幸に恨みがましい視線を送れば、苦笑いで誤魔化された。
そんな俺たちを見て、柚月がニヤニヤと笑いながら声をかけてくる。
「二人がコソコソ話すのって感心しないなぁ」
……お前のせいだよ。
既に千宙をこの場に連れてきた事を後悔する。
「碓氷千宙です。よろしくお願いします」
自己紹介をしてペコリとお辞儀をした千宙が尊い。
「かぁわいい!」
女達は喜ぶ。
「なんだよ! 俺らよりすげー若い子じゃん! 羨ましいぞ!」
男達も喜ぶ。
そうだ。こいつらそういうノリだった……。
千宙が取り囲まれてしまう。
すかさず守るように抱きしめてシッシと追い払う。
千宙は見せ物じゃないぞ。
「お前らの汚れた空気を吸わせるな」
「ははっ。創志そんなキャラじゃなかったのにな! ウケる!」
なんとでも言え。
「ちぃくん、こっち空いてるから座ろ」
空いていたスペースに隣同士で座り込んで、煮込まれていた鍋の肉とビールをもらった。
「千宙くんは何飲む? ビール?」
「ちぃくんにアルコールはだめ。ウーロン茶取って」
「なんで?」
「なんでも!」
千宙が二十歳になって初めて二人で飲んだ時の事を思い出す。
あれは──やばい。
「それじゃあ、ウーロン茶ね」
女の一人が千宙にウーロン茶を手渡した。
「ありがとうございます」
千宙は笑顔で受け取るとそれを飲む。
「なぁ、お前らってどうやって付き合ったの?」
「元はただのお隣さんで──」
信幸の質問に答えながら、みんなでその場を楽しんでいた。
ある程度の時間が過ぎた頃に、柚月がクスクスと笑い出す。
「さっきからさ、創志は恋人をちぃくんって呼んでるの? やっぱりセフレじゃないのぉ?」
不穏な空気に包まれる。勘弁して欲しい。
「何言ってんだよ……」
「だぁって、創志ってセフレをあだ名で呼ぶ事多いじゃん。僕の事もゆぅくんだったしぃ」
缶チューハイを飲みながら、とんでもない事を言い出した。
慌てて千宙に向き合う。
「ち、ちがうから! 昔の話だから!」
千宙が笑顔だ。感情が読めない!
「また呼んでよぉ」
そう言いながら、柚月が千宙と反対の俺の隣に来てしまう。
「いつの話をしてんだ! 柚月は柚月だろ!」
千宙は、笑顔で俺から離れてしまう。
「千宙くん、そんなやつほっといて、こっちくる?」
クスクスと笑いながら信幸がそんな事を言い出すと、千宙は信幸と一人の女の間に入って座り込んでしまった。
「ちぃくん!?」
「仲良さそうだったみたいだから、俺に遠慮せずにどうぞ話して下さい」
笑顔が怖い! 怒ってんじゃん!
千宙の方へ行こうとすれば、柚月に腕を組まれて立てなくなった。
「なぁに、気が効く恋人だねぇ。本当はセフレなんでしょ。久しぶりに僕とどう?」
柚月を引き離す。
「俺はそういうのやめたの」
「嘘だ。創志が一人で満足するはずないよぉ。創志うまいから人気あったんだよ」
スッと太ももを撫でられた。
千宙に見られては……いないみたいだ。
千宙は信幸達と楽しそうに話している。
それはそれで寂しいんだけど……。
じゃなくて、柚月の手を振り払う。
「おい。やめろよ」
「勃ったらいい?」
「触るな。それに、ちぃくん以外に勃たない」
「なにそれぇ」
柚月と攻防戦をしている間に、千宙がいた方がわぁっと盛り上がった。
何事かと窺う。
「いい飲みっぷりだね」
信幸が楽しそうに笑っている。
「千宙くん、次は何飲む?」
千宙の隣にいる女が、千宙に色目を使っている。気に入らない……。
それよりも、千宙の雰囲気が少しいつもと違う気がした。
「──……おねぇさん……綺麗な目……してんだね……」
「え?」
「俺、おねぇさんの目、キラキラしてて……好きだな……」
そう言いながら、女の両頬に手を伸ばす。
女は真っ赤になりながらされたままだ。
千宙は、キスしそうな距離まで顔を近付けたと思ったら、クスクスと笑った。
「本当、ガラス玉みたいな綺麗な目。もっと見てたいけど……やめとこうか」
千宙がニッコリ微笑んだ。
「千宙くん……」
女がぼぉーっと千宙を見つめる。惚れたな!
「信幸! なんでこんな事になってんだ!?」
「千宙くん、間違えてウーロンハイ飲んじゃってさ。でも、飲めそうだったからもう一杯飲ませたらこうなった」
千宙が酔っ払った!
「信幸! ちぃくんを止めろ!」
「千宙くん、飲み過ぎちゃったみたいだね。こっちの本物のウーロン茶を──」
ぐるりと信幸の方を向いた千宙が、信幸のウローン茶を持つ手を両手で掴んだ。
「男らしい手だね……俺、こういう手、好き。その手で触れられたら……きっと気持ちいいんだろうね……」
千宙がズイッと信幸に体を寄せた。
「ち、千宙くん……これ……飲まないと……」
なんで信幸が赤くなってんだ!
「信幸さんが飲ませてくれんの……?」
スリッと手を撫でて、下から妖艶に微笑む千宙のドアップに信幸がノックアウト寸前だ。
「口移しでいいかな……?」
信幸のやつは、惚れたって顔して何言ってくれてんだ!
「こらぁ! そこ、離れて!」
柚月なんて構っていられない。
柚月を振り払うように慌てて立ち上がって、信幸と千宙の間に割って入り、信幸から千宙を引き離した。
「ちぃくん、正気に戻って!」
ガシッと両肩を掴んで目を合わせれば、パァッと満面の笑顔を見せた。
それを見た周りのみんながぽぉっと見惚れてしまう。
こんな無邪気な笑顔、普段は絶対しない!
俺まで眩しさにやられそうだ……。
「創志……好き……大好き……」
普段はこんな風に言ってこない。こんな事言ってくるのはやっぱり酔っているからだ。
ギュッと俺の首に腕を回してきた。
首に擦り寄ってくる。
「創志のサラサラの髪、好きだよぉ……」
そう言いながら、後ろに回した手で髪を撫でてくる。
やばい……色々やばい!
「この、ちょっと敏感な耳も……」
耳元で囁かれて、ペロリと舐められてビクリとする。
「ちぃくん! お、お願いだからこれ以上は……」
「それと……この胸も……」
スリスリと顔を擦り付けてくる。
そのまま俺を上目遣いで見てきた。
可愛すぎる……! 円周率を数えないと勃つ!
「それから……」
股の間を撫でられそうになって、ガシッとその腕を掴んだ。
「ちぃくん……だめ……まじで……だめ……」
勃つって……。
こっちの気も知らないでキョトン顔の千宙が可愛過ぎて脱力だ……。
「創志? なんか体が熱いよ……脱がして……」
「が、我慢して!」
家だったら脱がしてたさ!
「ちぃくん、もう帰ろう!」
緊急避難を開始する!
腕を掴んだまま立ち上がれば、千宙も立ち上がる。
「創志が帰るなら帰る……」
コクリと頷きながらそう言った。どこまでも可愛い……!
押し倒したい!
色々限界です……もう本当……。
「えぇー! 帰っちゃうの? 千宙くんだけでも置いてってよ」
「信幸……ちぃくんに手を出したらぶん殴るからな! お前らも、今日の記憶を消せ!」
こんな千宙を見せる予定はなかった!
「そんな可愛いくてかっこいい子独り占めなんてずるい!」
「創志じゃなくて、俺にしない?」
周りの奴らが言いたい事を言ってくる。
「ちぃくんは俺のなの!」
威嚇をしながら、千宙の腕を引いて玄関へ。
柚月が後を追いかけてきた。
「創志ぃ……また会ってよぉ」
俺の服の裾を引っ張ってそんな事を言う。
面倒臭い! そのまま無視して帰ろうとしたら、千宙が俺の手を振り解いた。
柚月の前に行って、足を振り上げた。
「千宙!?」
「わぁ!」
柚月を蹴るんじゃないかと思った足は、柚月の横の壁をドカッと蹴った。
足ドン……それも、壁に穴が開くんじゃないかってくらいの……。
柚月が恐怖でヘタリ込んだ。
千宙は、その胸ぐらを掴んで顔を近づけた。
相手を見下すような瞳は、迫力満点だった。目が据わってる……。
「人の男に手を出すな。次は当てる」
「は、はい……」
すると、その返事を聞いた千宙は、泣き出しそうな柚月にニコッと微笑んだ。
「お前、可愛いんだからすぐにいい男見つかるよ。自分だけを大事にする人を見つけた方がいい」
そして、柚月の頭をポンッと優しく叩いた。
「千宙……くん……」
ポッと柚月の頬が赤く染まった。
またぁーー! 惚れさせてんじゃないか!
柚月が千宙に抱きつこうとしたのを阻止して引き離す。
「千宙! 帰るってば!」
ガシッと腕を掴んで再び玄関で靴を履かせる。
今度は俺が柚月に恨みがましく見られた。
なんでこうなるんだ。
「千宙くん、創志に飽きたらいつでも相談して! また会おうね!」
「またね」
笑顔でヒラヒラと手を振る千宙に、もやもやしながら家路を急いだ。
家に帰ってまず水を飲まそうとしたら、信幸の時と同じように手を掴まれた。
「創志が飲ませて……」
コテンッと首を傾げた千宙に限界を越える。
グラスをテーブルに置いてガバッとキスしたら、いつもよりねちっこいキスが返ってくる。ぐちゃぐちゃにされて、舌が痺れそうだ。
そのままベッドに押し倒した。
「創志ぃ……好きぃ……」
首の後ろに手を回して、チュッチュッとされるキスが気持ち良かった。
そのまま服を脱がす。
けれど、千宙の動きがピタリと止まる。
嫌な予感……。
千宙からすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてくる。
さっきまで俺の首に回されていた腕がポトリと布団に落ちてガッカリする。
寝たぁーーーー!
前の時もそうだった……。
居酒屋で飲み始めたはいいものの、二杯目あたりから酔っ払って店員さんを惚れさせた。
俺に散々期待させておいて、家に帰ってきてベッドに行けばコテンと寝た……。
ここからは、何をしても起きない。
酔うとめちゃくちゃ可愛い千宙が見れるけれど、周りを惚れさせるわ、散々俺に迫って爆発しそうなままで放置するわ、とんでもない……。
この後に一人で抜かないとおさまらない……この虚しさ……。
俺の精神的ダメージが大きすぎる。
「千宙……本当にもう飲まないで……」
スヤスヤと安らかに眠る千宙にため息をついてから布団をかけた。
──────────
※あとがき
最後までお読み頂きありがとうございます。全ての皆様に感謝します。
感想など頂けたら嬉しいです。
遠距離にチャレンジしましたが、書くのは難しかったです。
電話以外の連絡方法は、あえて書きませんでした。そちらの方が遠距離っぽい気がして……皆様にはどうだったかな?
そして、男前な受け……好きです。
本当にありがとうございました!
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一気読みしました。
ただの優等生ではない、ちぃくんが素晴らしい。
翻弄される創志もよかった😊
薫くんは、しあわせになったかしら?
感想ありがとうございます!
創志はちぃくんに翻弄されっぱなしかもしれませんね(*^^*)
ちぃくんより創志の方があたふたしている未来が見えますよねw
薫さんも幸せになって欲しいですよね♡
一気に読んで頂けて感想も貰えるなんて嬉しいです(〃ω〃)ありがとうございます♡
番外編の酔うと無自覚に周りを惚れさせまくるちぃくん⭐︎めっちゃ面白かったです!!
焦りまくる創志も(^^)
2人が帰った後あの場はどうなったんだろうか…笑
今回も楽しく読ませていただきました♪
感想ありがとうございます!
番外編は、私も楽しく書きました。
あの後どうなったんですかねw
創志は、ちぃくんとの飲み会のお誘いが増えてまた威嚇しているはずですw
いつもありがとうございます!嬉しいです(*´ω`*)
完結おめでとうございます!!お疲れ様でした!
ちぃくんの筋が通ってるところがかっこよすぎて惚れそうになりながら読んでました。最初は教師と生徒という禁断の関係にニマついてましたが、ちぃくんが教師を目指すあたりからもっとニチャが止まらなくなってました!
過去作の兎和も出てきましたね!獅貴たちと変わらずの仲のようでよかったです。また兎和とちぃくんが邂逅する世界線を一人で勝手に妄想してます…今度は攻めの方々も一緒に会ったり((
実は男前なちぃくんと案外心配性でヘタレな創志のバランスが神ってました(≧∇≦)
それに友人ポジから恋人枠を狙う薫さんもかっこよかったです!いつか良い人と出会えるといいですね!
本当にお疲れ様でした!!!末永くお幸せに〜\(//∇//)\
感想ありがとうございます!
楽しんで頂けたようですごく嬉しいです。
ちぃくんはかっこよくて私も惚れそうでした(作者なのに)。
過去作のチラリ出演も楽しいですよね。
妄想は自由!ですよね(〃ω〃)私も妄想は大好きです。
薫さんもきっと幸せになれます。
いつも本当にありがとうございます!