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遠距離編

告白は…… 薫視点

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 千宙に意識してもらわない事には始まらない。

「好きだ」
「愛してる」
「付き合って欲しい」
「お前がいないとだめなんだ」

 どの言葉もしっくりこない。

「俺が言うと全部演技みたいだ……」

 告白の言葉を考えながらため息をつく。
 俺と千宙はずっと友達だった。
 どんな言葉だったら伝わるんだろうか?
 それから、俺が好意があると知って、千宙がここを出て行かせないようにしないと──。

 いつも一日悩んで終わる。

 期限は迫っているのに何も出来ずにいた。

 玄関が開く音が聞こえた。
 今日こそは気持ちを伝えよう。

「千宙、おかえり」
「ただいまです。今日は薫さんの方が早かったですね」

 すっかり日が落ちた頃に帰ってきた千宙をリビングで出迎えれば、笑顔を向けてくれた。

「すぐに夕飯の用意しますね」
「ゆっくりで大丈夫だからな」

 千宙は、エプロンをつけてキッチンに立った。

「何か手伝おうか?」
「いいですよ。座ってゆっくりしていて下さい」

 ダイニングの椅子に座りながら、千宙を見ていた。
 こういうの……いいよな……。
 日常のちょっとした事に胸の奥がキュッと鳴る。
 この光景をずっと見ていたい……。

 一緒にご飯を食べて、何気ない会話をする。
 風呂に交代で入って、寝る準備をする。

「それじゃあ、おやすみなさい」

 笑顔で告げられた就寝の挨拶に「おやすみ」と返しそうになった。

 ダメだ……今日はダメだ!

「ま、待って!」

 部屋に入ろうとする千宙の腕を掴んだ。

「どうしたんですか?」

 不思議そうにこっちを見てくる千宙を直視できない。
 視線が彷徨う。

「薫さん?」

 名前を呼ばれて改めて千宙を見つめた。
 今日伝えるって決めたんだ!
 体は熱いし、喉はカラカラだ。

「あ……あのさ!」
「はい」

 やばい……頭が真っ白だ!
 言葉が何も出てこない。
 それなのに、心臓だけはやけにドクドクと勢いを増して早鐘を打つ。

 告白ってこんなだったか!?
 演技で何度もしたはずだ。それなのに、どうやっていたのか思い出せない。
 セリフが何も思い浮かばない。

「俺……お前が──」

     ◆◇◆

「──おる──薫? 薫ってば!」

 マネージャーの声で目を覚ました。

「着いたよ。早く降りて」
「ふぁぁ……もう少し寝てたかった……」

 昨日はずっと考え込んでいて寝不足だ。

「昨日早く帰ったのに寝不足?」
「仕方ねぇだろ?」

 寝れなかったんだから……。

「別にいいけど、仕事はしっかりやってね」
「誰に言ってんだよ」

 眠いだなんて言ってられない。
 何があったって、仕事は真面目にする。
 それを信念にやってきたんだ。

「羽山、今日、飲みに行くから付き合って」
「いい仕事ができたらね」

 ニヤリと笑うような羽山にニヤリと笑って返した。

     ◆◇◆

「またぁ……薫……飲み過ぎだよ」
「うるへぇ……」

 ロックグラスを奪い取られそうになって抵抗する。
 はぁとため息をつかれた。

「仕事は良かったのに……今度もプライベート? 碓氷くんに迷惑かけたの忘れたの?」
「…………」

 千宙は今頃何してるのかな……。
 笹森と話してるのかな……。

「そろそろ帰ったら?」
「帰りたくなぁい……」
「碓氷くんと喧嘩でもした?」
「するかょ……」

 喧嘩なんかするわけない。

『俺……お前が──……ごめん……やっぱり……いいや』

 掴んでいた腕を離した。
 そのまま微笑んでおやすみと挨拶をして、自分の部屋に戻ってしまった。

 俺は、何も言えなかった……。
 今の関係を壊したくない。
 何よりも、拒否されるのが怖い。
 確実に振られるとわかっている告白って言えないんだ。
 俺ってヘタレだったんだ……。

「羽山ぁ……失恋って辛い……?」
「まさか……好きな人でもできた?」
「振られるのが怖いんだ……」
「池入薫を振る人なんているの? それはすごい人だね」

 苦笑いされた。

「そうなんだぁ……すごいやつなんだ……」

 遠恋しながら大学行って、バイトもして俺の家で家政夫もしてる。
 朝は早いし、夜遅くまで起きている事もあった。
 それでも俺にはいつも笑顔で笑ってくれる。
 誰にも頼っている感じはしない。笹森には頼るのかな……。

「いいなぁ……あいつ……」

 笹森は、俺の知らない千宙を知っているんだ……。

「薫、そろそろ帰らないと碓氷くんが心配するよ」

 千宙が俺を心配する……それも悪くないんだけど──会いたいな。

「あー……水持ってきて」

 少し酔いを醒ましてから帰ろう。

     ◆◇◆

「ほら、ちゃんと歩いて」
「歩いてるよぉ……」

 アルコールでふわふわとしているけれど、まだ記憶はある。
 千宙が俺の家の玄関のドアを開けた。

「あ。碓氷くん、ごめんねぇ……」
「大丈夫ですよ。薫さんが飲み過ぎるなんて珍しいですからね。アパートにいた時以来ですかね?」
「そうかもね」

 羽山から千宙へと肩を貸される。

「それじゃあ、頼んでいい?」
「はい。大丈夫ですよ」
「薫は明日は午後からだから、ゆっくり寝かせてあげて」
「わかりました。お疲れ様でした」

 バタンッと玄関のドアが閉まる。

「薫さん? 大丈夫ですか?」
「らいじょうぶ……」

 肩を貸してくれる千宙を盗み見る。
 近い……こんなに近くにいるのは初めてじゃないか?
 千宙のシャンプーの香りは俺と同じだ。
 お風呂上がりかと思ったら、ドキッとする。

「部屋、勝手に入りますよ?」
「いいよぉ」

 自分の部屋のベッドに寝かされた。
 離れそうになった千宙の腕を掴んだ。

「薫さん?」
「千宙……」
「どうしました? 大丈夫ですか? 水持ってきましょうか?」

 俺を覗き込む千宙にたまらなくなってグイッと引っ張れば、バランスを崩した千宙は、俺の隣にボスッと倒れ込む。
 すかさず両腕を掴んで上に乗った。

 俺……今、千宙の事を押し倒してる……。

「か、薫……さん?」

 状況についていけないって顔だな……。
 抵抗されないのは、俺を意識していないからだろうか?

「──俺、千宙が好きだ」

 千宙の時間が止まった。
 結局自然に出た言葉はそのままの気持ちだ。

「ふはっ。そんなに意外?」

 意識されなすぎて笑える。

「なんというか……信じられなくて……」
「わかった。それなら、信じられるようにしてやる──」

 そのまま千宙の唇にキスを落とした。
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