隣の家の住人がクズ教師でした

おみなしづき

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クズ教師編 創志視点

キスは極上 創志視点

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 千宙とも変わらない日々を過ごしていたある日、弟の和志から『隣の家にいる』とメッセージが来ていた。
 急いで家に帰ったら、本当に千宙の家にいた。

「隣の家にいるってなんだよ。ちぃくんに迷惑掛けるなよ」
「兄さんと連絡が取れないからだろ?」

 連絡が来ていたのは知っているが、こちらから折り返すのも面倒だった。
 家族の事なんてどうせ碌な事じゃない。

 どうにか追い返そうとしていた俺の動きを止めたのは、和志の「父さんが入院したんだ」という言葉だった。

 父親は、俺の素行の悪さに嫌気がさして、家を出ていけと言った人だ。

「出てけって言ったのは向こうだろ! 今更俺に何の用があるんだよ!」

 会いたいなんて言ってくるなんて信じられない。

「とにかく、俺は行かない。和志も帰れ」
「──わかった。今日は帰る。お見舞い行く気になったら連絡して……」

 ふざけるな。
 言われた通りに教師になったのに、それ以外の事も口出しされて、しまいには出ていけと言ったくせに、今更会いたいだって?
 入院したって俺には関係ない。
 今まで連絡の一つも寄越さなかった。俺もしなかった。
 これからもそれでいいじゃないか。

 あんな人、死んだって──

 急に背中に触れた感触にビクッとした。
 千宙だ。
 そのまま背後から抱きしめられた。まるで、俺が考えていた事がわかったかのようだ。
 
 腰に回されたのは千宙の手だ……そっとその手を握った。

 温かい──。

 いつも手を重ねると、ヒヤリとしているのは千宙の手の方だった。それなのに、今は千宙の手が温かくて優しくて……それに縋りつきたくなる。

「ちぃくん……」
「何ですか?」
「俺さ……親と喧嘩して家を出たんだ……」
「はい……」

 だからなのか、千宙には、俺の気持ちを吐露できた。
 優しい声音は、手の温もりと同じように俺の心を癒す。

 千宙と話しているうちに、心が軽くなっていく。
 重ねた手は、俺の体温と千宙体温が混じり合って、同じ温度になって行く。

「ちぃくん、父さんは──……死ぬのかな?」

 そうなったら、喧嘩して怒鳴り合ったのが最後になるんだろうか?

「気になるなら、会いに行きましょうよ」

 千宙の腕の力が強くなった。
 元気を出せと言われているみたいで、微笑んでしまう。
 俺よりもずっと年下の高校生に背中を押されるなんて……。

「そうだね……最後になるなら、喧嘩の一つもしてこようかな」
「そうですよ。怒られたら、またここで愚痴聞いてあげますよ」

 千宙らしい励まし方だった。
 そんな千宙の顔を見たくなって背後を振り向いた。

 千宙の方が辛そうな顔してるじゃないか……。

 思わずそっと抱きしめれば、千宙は顔を逸らしながら肩に顔を埋める。
 力強い腕とは反対に可愛い反応だ。

「父さんと喧嘩しに行ってくる」
「はい。ここで待っててあげますよ」

 待っていてくれる人がいると思うと、できないと思っていた事ができる気がした。
 あの父親に会いに行けるかもしれない……。

「ちぃくん……ありがとう」

 顔を見たくなって両手で包んで上を向かせば、抱き合っていたのが恥ずかしかったのか、顔が真っ赤だった。

「顔真っ赤だね」

 余計に顔が赤くなった。

 やばい──俺の理性を持ってかれた。

 こんな可愛い反応されたら触れたくてたまらない。

「見ないで下さい……」
「やだ──というか……キスしたい……」

 残っていた糸のような細い理性で千宙からキスの許可を取る。
 この恥ずかしがる顔にキスしたい。すごくしたい。

「何を言い出すんですか……?」
「だめ?」

 嫌われたくない。だめなら我慢しなきゃ……。

「嫌ならしない」
「嫌……ではないですが……」
「なら、いい?」

 いいって言って欲しい。
 もっと千宙に触れたい……。

「ちぃくんとキスしたら、会いに行く勇気が貰えそうなんだ……」

 こんな言い方はずるいのかもしれない。
 でも、本当の事だ。

「先生って……意外と意気地なしですか?」
「そうだよ。だから、してもいい?」
「…………」

 返事はなかった。無理強いをしてはだめだ。
 俺の欲望なんかより、千宙が大事だ。抑えなきゃ。

「──……ごめん。ちぃくんにお願いする事じゃなかったね……」

 そうだ。俺と千宙はセフレでも、ましてや恋人でもない。
 間違っているのは俺だ。
 千宙に嫌な思いをさせるべきじゃない。

 すると、千宙は俺の目を真っ直ぐに見てきた。

「責任取れよな」
「ちぃくん?」

 何を言われたのか理解できないまま、ガシッと両頬を掴まれて、噛み付くようなキスをされた。

「──っ」

 驚いている間にされるキスは、角度を変えて俺の唇に何度も触れる。
 千宙からのキスに心がはじけそうだった。
 こんなにも気持ちのいいキスをされたのは初めてだ。

 離れている体の隙間がもどかしくて、千宙の体を強く抱き寄せた。

 その温もりを腕の中で感じれば、もう我慢なんてできなかった。
 舌を口内に入れて、夢中で千宙を堪能する。

 気持ちいい──。

「はっ……んっ……ふっ……」

 吐息がこぼれるたびに欲情を誘う。
 千宙の舌は、俺の舌に応えるように動く。

 キスだけでこんなにも気持ちいいなんて嘘みたいだ。

 このまま俺のものにしたい──。

「ん、んんっ……せ、先生……はんっ、ちょっ、んっ……先生……ってば……んんっ……!」

 もっとだ。もっと千宙が欲しい。
 
 理性が無くなった俺は、夢中で千宙を貪った。
 千宙に顔を逸らされた。でも、その顔は嫌がるどころか赤く染まって瞳が潤んでいた。

 止まれない……!

 耳にキスすればビクッと震えて、首を舐めれば妖艶な吐息をこぼす。

 もう無理だ。このまま俺のものに──

「そ、創志……!」

 今──……名前……。

 ピタリと動きが止まる。
 はぁはぁと荒い呼吸をして、ジッとこちらを見つめる千宙に理性が戻ってくる。
 乱れた髪と服。俺がこれをしたと思うと血の気が引いた。

 やりすぎたぁ~~っ!

 思わずしゃがみ込んで髪を掴み、自己嫌悪に陥る……。

「先生!?」
「ごめん……気持ち良くなっちゃって……夢中になってた……」

 これじゃ嫌われてしまう……。
 そう思ったのに、予想外に楽しそうな笑い声が頭上から聞こえた。

「先生もそんな情けない声を出すんですね」

 見上げれば、いつか見た笑顔が俺に向けられていた。眩しくて目を細める。

「やっとちぃくんが本物の笑顔を向けてくれた──」

 その感動は計り知れない。
 赤くなってすぐに笑顔ではなくなったけれど、嬉しくて仕方がない。

「ずっと見たかったんだ……その顔……」

 やっとだ……ここまで気を許して貰えるまですごく時間が掛かった気がする。
 少しは俺も千宙の中に入れただろうか?

「そ、そんなの知りませんよ……キスしたんですから、ちゃんとお父さんに会いに行って下さいね?」
「勇気もらったもんね」

 こんなキス一つで何でもできる気になるなんて、恋ってすごいんだと笑わずにはいられなかった。
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