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クズ教師編 創志視点
嫌いにならないで 創志視点
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それからの俺は人が変わったようだった。
自分でも笑ってしまうほど千宙以外に興味がなくなった。
セフレから連絡が来ても、全く気分が乗らない。
それなのに千宙からの【卵買っておいて下さい】という絵文字も何もない素っ気ないメッセージに顔がニヤける。
仕事の帰りにスーパーに寄るなんて信じられない生活を送っていた。
千宙に夕飯を作ってもらう事になったのは些細な事からだった。
自炊なんてほとんどしない俺に、千宙が作ってくれる食事はすごく美味しかった。
セフレに作ってもらう食事とは一味違うのは俺の気持ちの問題だろうか。
千宙のバイトのない日が楽しみだった。
その日も鍵を渡して家で待つように言った。
嫌がりながらも俺の家の鍵を受け取ってポッケに入れる千宙に俺も浮かれていた。
アパートの玄関のドアを開ける。
「ただい──ま……」
玄関で靴を脱いでから気付く。そこで待っていたのは千宙じゃなかった。
「おかえり」
ニコニコしながら部屋にいた男には見覚えがある。大勢いたセフレのうちの一人で歩夢と言った。
失敗した……まだ切りそこなったセフレがいたのか。
自分の馬鹿さ加減に呆れてため息をつく。
「ここにいた子は?」
「恋人だって言って追い出したよぉ」
「は? 何勝手な事してくれてんの?」
抑えていても苛立っているのが態度に出てしまう。
隣の家の電気はついていなかった。家にいないんだ。千宙を連れ戻さないと。
「何怖い顔してんのぉ? あの子もセフレの一人でしょ? 僕の方が上手いよ」
そう言いながら、抱きついてくる歩夢を引き離す。
「帰って。君とも二度と会う気ないから」
「え……?」
意味がわからないという顔をされる。
今の俺にはあまり余裕がない。
千宙──俺の事どう思った?
「俺、あの子に本気なの。誤解されたくない」
「嘘ぉ~! あの創志が? 信じられない」
クスクスと笑われても、俺は笑えなかった。
「信じてもらわなくても本当のことだ! 俺みたいなクズでも人並みに恋愛できるって教えてくれたんだ!」
歩夢の腕をガシッと掴んで靴を履いて、部屋の外に出た。
アパートの鍵を閉めて、誰も入れないようにした。
「──今までごめん。ありがとう。それじゃ、もう二度と来ないで」
「嘘……」
放心状態の歩夢をそのままにして、急いで階段を降りて千宙を捜した。
近所のコンビニにはいなかった。
ファミレスにもいない。
千宙が行きそうな所が思い浮かばない。
友達の所? いや、猫被りの千宙に友達なんていない。
だとすれば──ふと笑顔の千宙が思い浮かんで、千宙のバイト先に急いだ。
千宙のバイト先に着いて、急いでドアを開けた。
カウンターに座っていた千宙を発見して心底安心した。けれど、その表情は苦しそうだった。
歩夢に何を言われたのかわからないけれど、全部俺のせいだと思った。
千宙の目の前に行き頭を下げた。
「ちぃくん、ごめん!」
俺の精一杯の謝罪だ。一番最初にやらなきゃいけない事だと思った。
ごめん! 本当にごめん!
千宙は戸惑っているように感じた。
「俺を……探しに……?」
「当たり前じゃないか」
俺が探すのは千宙だけだよ。
「千宙くん、迎えが来て良かったね」
店長がニコニコとそう言った。
その笑顔の奥で『千宙を傷付けないで下さい』と言われてるみたいで真剣な表情を向けた。
「責任を持って僕が連れて帰ります──」
『すみません。彼を大事にします』
「はい。お願いしますよ」
店長には、俺の言いたい事がわかるみたいだった。
千宙が一緒に帰ってくれて良かった。でも、千宙が俺をどう思ったのか不安だった。
「俺まだ夕飯食べてないんだよ」
「恋人と食べなかったんですか?」
「恋人じゃないって言ったでしょ。俺に恋人はいないし、あいつとは二度と会わない」
だから信じて。
俺に必要なのは、碓氷千宙だけだ。
「ちぃくんを追い出すなんて……ごめんね──……俺を嫌いになった……?」
何度だって謝るから、俺を嫌いにならないで。
「嫌いじゃありません」
そんな一言で、俺の心が軽くなる。
少し照れたようにそんな事を言ってくれた千宙を抱きしめたかった。
俺の評価は元々マイナスだった。嫌いじゃなきゃいい……。
「良かった。それじゃ、夕飯作ってくれる? 一緒に夕飯食べようね」
「はい……」
半歩離れているこの距離を、これ以上遠くしたくなかった。
家に帰ってキッチンに立つ千宙をビールを飲みながら見ていた。
俺の家にまだ千宙がいる。それに安心した。普通に接してくれて良かった。
「ちぃくんもあと二年すれば、お酒飲めるようになるよ。そしたら、俺と一緒に飲もうね」
「そう……ですね……」
二年後どころかずっと側に居させて欲しい。どうしたら側に居られる?
楽しい食事が終われば、玄関で千宙を見送った。
少しでも一緒に居たい。そして、少しでも近付きたい。嫌われないスキンシップってどこまでやっていいんだ?
「俺さぁ、今まで裸で抱き合う事しかしてこなかったから、普通のスキンシップのとり方ってわかんないんだよね。俺流でいいなら──」
震えているのがバレないように強く千宙を抱きしめた。
最初の頃とは違う抱擁に胸が高鳴る。
「先生……」
「これが俺流だよ」
ドキンドキンと胸が鳴る。
俺の心臓……痛いくらいだ……。
「や、やめて下さいよ……」
やめないと嫌われる? でも──
「もう少しだけ──」
もう少ししたら離れるから……。
人を好きになる事は、楽しいだけじゃなく、切なくもあるんだと知った。
自分でも笑ってしまうほど千宙以外に興味がなくなった。
セフレから連絡が来ても、全く気分が乗らない。
それなのに千宙からの【卵買っておいて下さい】という絵文字も何もない素っ気ないメッセージに顔がニヤける。
仕事の帰りにスーパーに寄るなんて信じられない生活を送っていた。
千宙に夕飯を作ってもらう事になったのは些細な事からだった。
自炊なんてほとんどしない俺に、千宙が作ってくれる食事はすごく美味しかった。
セフレに作ってもらう食事とは一味違うのは俺の気持ちの問題だろうか。
千宙のバイトのない日が楽しみだった。
その日も鍵を渡して家で待つように言った。
嫌がりながらも俺の家の鍵を受け取ってポッケに入れる千宙に俺も浮かれていた。
アパートの玄関のドアを開ける。
「ただい──ま……」
玄関で靴を脱いでから気付く。そこで待っていたのは千宙じゃなかった。
「おかえり」
ニコニコしながら部屋にいた男には見覚えがある。大勢いたセフレのうちの一人で歩夢と言った。
失敗した……まだ切りそこなったセフレがいたのか。
自分の馬鹿さ加減に呆れてため息をつく。
「ここにいた子は?」
「恋人だって言って追い出したよぉ」
「は? 何勝手な事してくれてんの?」
抑えていても苛立っているのが態度に出てしまう。
隣の家の電気はついていなかった。家にいないんだ。千宙を連れ戻さないと。
「何怖い顔してんのぉ? あの子もセフレの一人でしょ? 僕の方が上手いよ」
そう言いながら、抱きついてくる歩夢を引き離す。
「帰って。君とも二度と会う気ないから」
「え……?」
意味がわからないという顔をされる。
今の俺にはあまり余裕がない。
千宙──俺の事どう思った?
「俺、あの子に本気なの。誤解されたくない」
「嘘ぉ~! あの創志が? 信じられない」
クスクスと笑われても、俺は笑えなかった。
「信じてもらわなくても本当のことだ! 俺みたいなクズでも人並みに恋愛できるって教えてくれたんだ!」
歩夢の腕をガシッと掴んで靴を履いて、部屋の外に出た。
アパートの鍵を閉めて、誰も入れないようにした。
「──今までごめん。ありがとう。それじゃ、もう二度と来ないで」
「嘘……」
放心状態の歩夢をそのままにして、急いで階段を降りて千宙を捜した。
近所のコンビニにはいなかった。
ファミレスにもいない。
千宙が行きそうな所が思い浮かばない。
友達の所? いや、猫被りの千宙に友達なんていない。
だとすれば──ふと笑顔の千宙が思い浮かんで、千宙のバイト先に急いだ。
千宙のバイト先に着いて、急いでドアを開けた。
カウンターに座っていた千宙を発見して心底安心した。けれど、その表情は苦しそうだった。
歩夢に何を言われたのかわからないけれど、全部俺のせいだと思った。
千宙の目の前に行き頭を下げた。
「ちぃくん、ごめん!」
俺の精一杯の謝罪だ。一番最初にやらなきゃいけない事だと思った。
ごめん! 本当にごめん!
千宙は戸惑っているように感じた。
「俺を……探しに……?」
「当たり前じゃないか」
俺が探すのは千宙だけだよ。
「千宙くん、迎えが来て良かったね」
店長がニコニコとそう言った。
その笑顔の奥で『千宙を傷付けないで下さい』と言われてるみたいで真剣な表情を向けた。
「責任を持って僕が連れて帰ります──」
『すみません。彼を大事にします』
「はい。お願いしますよ」
店長には、俺の言いたい事がわかるみたいだった。
千宙が一緒に帰ってくれて良かった。でも、千宙が俺をどう思ったのか不安だった。
「俺まだ夕飯食べてないんだよ」
「恋人と食べなかったんですか?」
「恋人じゃないって言ったでしょ。俺に恋人はいないし、あいつとは二度と会わない」
だから信じて。
俺に必要なのは、碓氷千宙だけだ。
「ちぃくんを追い出すなんて……ごめんね──……俺を嫌いになった……?」
何度だって謝るから、俺を嫌いにならないで。
「嫌いじゃありません」
そんな一言で、俺の心が軽くなる。
少し照れたようにそんな事を言ってくれた千宙を抱きしめたかった。
俺の評価は元々マイナスだった。嫌いじゃなきゃいい……。
「良かった。それじゃ、夕飯作ってくれる? 一緒に夕飯食べようね」
「はい……」
半歩離れているこの距離を、これ以上遠くしたくなかった。
家に帰ってキッチンに立つ千宙をビールを飲みながら見ていた。
俺の家にまだ千宙がいる。それに安心した。普通に接してくれて良かった。
「ちぃくんもあと二年すれば、お酒飲めるようになるよ。そしたら、俺と一緒に飲もうね」
「そう……ですね……」
二年後どころかずっと側に居させて欲しい。どうしたら側に居られる?
楽しい食事が終われば、玄関で千宙を見送った。
少しでも一緒に居たい。そして、少しでも近付きたい。嫌われないスキンシップってどこまでやっていいんだ?
「俺さぁ、今まで裸で抱き合う事しかしてこなかったから、普通のスキンシップのとり方ってわかんないんだよね。俺流でいいなら──」
震えているのがバレないように強く千宙を抱きしめた。
最初の頃とは違う抱擁に胸が高鳴る。
「先生……」
「これが俺流だよ」
ドキンドキンと胸が鳴る。
俺の心臓……痛いくらいだ……。
「や、やめて下さいよ……」
やめないと嫌われる? でも──
「もう少しだけ──」
もう少ししたら離れるから……。
人を好きになる事は、楽しいだけじゃなく、切なくもあるんだと知った。
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