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クズ教師編
家の事情
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創志と付き合って成績が落ちる……なんて事もなく、俺は無事に大学に合格した。
受験の時も、創志が見送ってくれて、驚くほど落ち着いていたのが良かった。
創志は、俺が受かったとわかると嬉しそうに抱きしめてくれた。
「ちぃくん、合格おめでとう」
「ありがとうございます……」
改めてそう言われると少し照れ臭かった。
「ちぃくんには、俺の相手ばっかりさせてたから、ダメだったら責任取ってお嫁さんにしなきゃだったね」
クスクスと笑いながらそんな冗談を言う。
「俺が貰ってあげてもいいんですよ?」
「まったく……ちぃくんには敵わないな」
笑い合って、そんなやり取りをした。
「ちぃくんも、もう卒業かぁ。高校で会えなくなるのは寂しいな……」
「そうですね」
創志の澄ました授業を受けて、指導室でいけない事をする時間はもうなくなる。
それが寂しいと思う日が来るとは思ってもいなかった。
◆◇◆
学校が終わって家に帰ってきたら、和志さんがいた。
「千宙くん! お帰り!」
まだ肌寒くて鼻の頭を赤くして、どれくらいここで待っていたのかと思うほどだ。
「先生を待っているんですか? まだ学校でしたよ」
「そっか……また待たせてくれる?」
「あ。はい。どうぞ」
和志さんを家に入れて、ホットコーヒーを出した。
「コーヒー飲めますよね?」
「ああ。大丈夫」
和志さんは、コーヒーを飲んでホッと息を吐いた。
「千宙くん、悪いね。ありがとう」
ニカっと笑う和志さんに微笑み返す。
「今日はどうしたんですか?」
「あー……家の事情ってやつ?」
「そうなんですね……」
この前もそうだったしな。
あまり深く突っ込まないようにしようと黙っていれば、和志さんは俺をジッと見てくる。
ちょっと居心地が悪い。
「なんですか……?」
視線に耐えられなくなって聞いてしまった。
「あのさ、千宙くんは兄さんとセフレじゃないんだよね?」
「違います……」
俺は付き合ってるから、違うでいいんだよな?
和志さんにはどこまで話していいのかもわからない。
「でも、兄さんと仲良いよな。父さんのお見舞いも千宙くんが行けって言ってくれたんだろ?」
「えっと……」
なんと答えたらいいものか……。
「あのさ……お願いがあるんだ」
「お願い?」
「ああ。兄さんに、家に帰るように言ってもらえないか?」
家にはたまに帰っているはずだ。
和志さんが何が言いたいのか要領を得ない。
「父さんの具合が悪いのは知ってるだろ? すぐに死ぬような病気じゃないけど、のんびりともしていられない。兄さんが家に帰って、学園長である母さんを支えながら働くのは不思議じゃない」
え? ……──ちょっと待って。
「それって……家に帰るって……今の学校を辞めて先生のご両親がいるその学園で働くって事ですか?」
「そう。いずれは兄さんが学園長として働く事になると思うけど、まずは家に帰って、それからだ」
いずれは学園長?
次元の違う話をされて戸惑う。
「和志さん達のその学園って──他県でしたよね?」
創志が教えてくれた学園の場所は、簡単には会いにいけない場所だ。
「そう。よく知ってるね」
俺が──創志にここを離れて家に帰れって言うのか……?
「兄さんは何度も帰ってこいって言われてるんだ。それなのに、首を縦に振らない。意地もあるんだろうけど、それだけじゃないみたいだから、また俺がここに来たってわけ。父さんのお見舞いも俺が説得したと思われてるからさ」
苦笑いする和志さんに、笑顔を返せなかった。
「千宙くん、君が言ってくれたら兄さんも帰る気になるんじゃないかな?」
そこから先、和志さんと何を話したのかよく覚えていない。
◆◇◆
あの後、バイトの時間になるので、和志さんをそのままにして家を出た。
バイト中もずっと考えていた。
創志に家に帰れと言うべきかどうか……。
創志の父親の事を考えたら、帰れと言うのが当たり前なんだろうけれど、俺は創志と離れたくない。
決めるのは創志だ。俺が何か言う事じゃない……。
創志は、帰りたいなんて思っていない。
俺と離れたいと思うわけがない。
だから、俺に何も言わなかったし、俺も何も言わなくていい。
今、創志と和志さんが何を話しているかなんて考えなくていい。
ガシャン!
床に落ちたカップにハッとして我に返る。
「す、すみません……」
「千宙くん、気にしないで。片付けてくれる?」
店長は優しく言ってくれたけれど、カップを割ってしまうなんて自己嫌悪だ。
「はい……」
お客様にも店長にも謝って掃除用具を取りに行った。
箒を掴みながらため息が出た。
バイトにも集中できないなんて……。
俺は何をやっているんだか……。
「千宙? 大丈夫か?」
そう言って顔を覗き込んできたのは恭一さんだった。
バイトではなかったけれど、お客さんで来ていた。
「あ……はい……」
慌ててちり取りも掴めば、恭一さんがその箒とちり取りを俺から奪った。
「俺がやってやる。千宙は少し休んでろ」
「え?」
「様子が変だ。店長にも言ったから大丈夫だ」
恭一さんはそう言って微笑むと、俺の頭をポンッと叩いた。
大きな手のひらは、なんだかホッとした。
「恭一さん、大丈夫です。俺がやります」
「本当か? しんどかったらいつでも言えよ」
「はい──」
恭一さんがすごく優しく感じて、涙が出そうで下を向いた。
受験の時も、創志が見送ってくれて、驚くほど落ち着いていたのが良かった。
創志は、俺が受かったとわかると嬉しそうに抱きしめてくれた。
「ちぃくん、合格おめでとう」
「ありがとうございます……」
改めてそう言われると少し照れ臭かった。
「ちぃくんには、俺の相手ばっかりさせてたから、ダメだったら責任取ってお嫁さんにしなきゃだったね」
クスクスと笑いながらそんな冗談を言う。
「俺が貰ってあげてもいいんですよ?」
「まったく……ちぃくんには敵わないな」
笑い合って、そんなやり取りをした。
「ちぃくんも、もう卒業かぁ。高校で会えなくなるのは寂しいな……」
「そうですね」
創志の澄ました授業を受けて、指導室でいけない事をする時間はもうなくなる。
それが寂しいと思う日が来るとは思ってもいなかった。
◆◇◆
学校が終わって家に帰ってきたら、和志さんがいた。
「千宙くん! お帰り!」
まだ肌寒くて鼻の頭を赤くして、どれくらいここで待っていたのかと思うほどだ。
「先生を待っているんですか? まだ学校でしたよ」
「そっか……また待たせてくれる?」
「あ。はい。どうぞ」
和志さんを家に入れて、ホットコーヒーを出した。
「コーヒー飲めますよね?」
「ああ。大丈夫」
和志さんは、コーヒーを飲んでホッと息を吐いた。
「千宙くん、悪いね。ありがとう」
ニカっと笑う和志さんに微笑み返す。
「今日はどうしたんですか?」
「あー……家の事情ってやつ?」
「そうなんですね……」
この前もそうだったしな。
あまり深く突っ込まないようにしようと黙っていれば、和志さんは俺をジッと見てくる。
ちょっと居心地が悪い。
「なんですか……?」
視線に耐えられなくなって聞いてしまった。
「あのさ、千宙くんは兄さんとセフレじゃないんだよね?」
「違います……」
俺は付き合ってるから、違うでいいんだよな?
和志さんにはどこまで話していいのかもわからない。
「でも、兄さんと仲良いよな。父さんのお見舞いも千宙くんが行けって言ってくれたんだろ?」
「えっと……」
なんと答えたらいいものか……。
「あのさ……お願いがあるんだ」
「お願い?」
「ああ。兄さんに、家に帰るように言ってもらえないか?」
家にはたまに帰っているはずだ。
和志さんが何が言いたいのか要領を得ない。
「父さんの具合が悪いのは知ってるだろ? すぐに死ぬような病気じゃないけど、のんびりともしていられない。兄さんが家に帰って、学園長である母さんを支えながら働くのは不思議じゃない」
え? ……──ちょっと待って。
「それって……家に帰るって……今の学校を辞めて先生のご両親がいるその学園で働くって事ですか?」
「そう。いずれは兄さんが学園長として働く事になると思うけど、まずは家に帰って、それからだ」
いずれは学園長?
次元の違う話をされて戸惑う。
「和志さん達のその学園って──他県でしたよね?」
創志が教えてくれた学園の場所は、簡単には会いにいけない場所だ。
「そう。よく知ってるね」
俺が──創志にここを離れて家に帰れって言うのか……?
「兄さんは何度も帰ってこいって言われてるんだ。それなのに、首を縦に振らない。意地もあるんだろうけど、それだけじゃないみたいだから、また俺がここに来たってわけ。父さんのお見舞いも俺が説得したと思われてるからさ」
苦笑いする和志さんに、笑顔を返せなかった。
「千宙くん、君が言ってくれたら兄さんも帰る気になるんじゃないかな?」
そこから先、和志さんと何を話したのかよく覚えていない。
◆◇◆
あの後、バイトの時間になるので、和志さんをそのままにして家を出た。
バイト中もずっと考えていた。
創志に家に帰れと言うべきかどうか……。
創志の父親の事を考えたら、帰れと言うのが当たり前なんだろうけれど、俺は創志と離れたくない。
決めるのは創志だ。俺が何か言う事じゃない……。
創志は、帰りたいなんて思っていない。
俺と離れたいと思うわけがない。
だから、俺に何も言わなかったし、俺も何も言わなくていい。
今、創志と和志さんが何を話しているかなんて考えなくていい。
ガシャン!
床に落ちたカップにハッとして我に返る。
「す、すみません……」
「千宙くん、気にしないで。片付けてくれる?」
店長は優しく言ってくれたけれど、カップを割ってしまうなんて自己嫌悪だ。
「はい……」
お客様にも店長にも謝って掃除用具を取りに行った。
箒を掴みながらため息が出た。
バイトにも集中できないなんて……。
俺は何をやっているんだか……。
「千宙? 大丈夫か?」
そう言って顔を覗き込んできたのは恭一さんだった。
バイトではなかったけれど、お客さんで来ていた。
「あ……はい……」
慌ててちり取りも掴めば、恭一さんがその箒とちり取りを俺から奪った。
「俺がやってやる。千宙は少し休んでろ」
「え?」
「様子が変だ。店長にも言ったから大丈夫だ」
恭一さんはそう言って微笑むと、俺の頭をポンッと叩いた。
大きな手のひらは、なんだかホッとした。
「恭一さん、大丈夫です。俺がやります」
「本当か? しんどかったらいつでも言えよ」
「はい──」
恭一さんがすごく優しく感じて、涙が出そうで下を向いた。
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