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クズ教師編
テストにいたずらするな
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「先生、もういいですか?」
「だめぇ。今日はバイトがない日でしょ? 俺に付き合ってくれてもいいんじゃない?」
笹森は、指導室の椅子に座って沢山の小テストの丸つけをしている。
「それって……自分の机でもできる仕事ですよね?」
「職員室で黙々と丸つけするのと、ちぃくんと二人きりの空間で丸つけするのとじゃ全然違うよ」
何が違うのか教えてほしい。
教師のくせに、俺に対して曖昧で謎の発言が多すぎる。
「テスト作りも俺の目の前でやってくれたら、いい点数が取れるんですけどね」
「笹森創志テストでも作ろうか? 一問目は、俺の身長は何センチですか?」
クスクスと笑いながらバカなことを言い出した。
「そんなのは零点でいいです」
「あ。ひどい」
こんな冗談も言えるようになった関係が意外と悪くない。
クスクスと笑い合う時間は、時々すごく心地いい。
自分も今日出た宿題をしようと教科書を開いた。
「俺と二人きりなのに宿題やるような人はちぃくんぐらいだよ」
「できる時にやるべきでしょう。今やっておけば、家に帰ってスーパーへ行けます」
丸をつけるシュッという音と、カキカキとノートに書き込む音が響いている。
お互いに机に向かいながら、手を止めることはない。
「そっか。バイトしてるとそういう時間もないのか」
「そうですね。最近は俺の休みの日にご飯を食べに来るどこかの教師がいて困っているんです」
「その教師、料理ができないみたいだから、手料理に飢えてるそうだよ」
「今までどうやって暮らしてきたのか疑問です」
笹森はやっぱり家事があまりできなかった。
ずっとアパート暮らしらしいのに不思議だ。
「友達以上恋人未満の相手が家に来て料理作ってくれたり、買い食いしたり、外で食べてたみたいだよ」
ニコニコしながら最低だな。
予想通りだった……。
「最低のクズ教師ですよね……それなら、俺の手料理じゃなくて、その友達以上恋人未満の人達に頼めばいいじゃないですか」
呆れてため息をつく。
先ほどまで丸をつけていた音がピタリと止まった。
「先生?」
視線をノートから先生の方に上げる。
笹森は、手を止めていた。俺の方をジッと見ていたようで、目が合うとニコッとする。
「その教師は、友達以上恋人未満の人たちより、友達にもなってくれない隣の家の子の手料理が好きみたいだよ」
何を言っているんだか。
「いつでも手料理が食べられる方が都合がいいですもんね」
この前も、恋人だと嘘をついて女性を追い払うのに協力させられた。
こうやってこの指導室で話すのも俺が笹森の本性を知っているからだし、俺は上手いこと利用されている気がしてならない。
「バレたか──」
ほら、やっぱり。
クスクスと笑う笹森にため息をついて再びノートに向かう。
先生も丸つけに戻る。
しばらくして、宿題が終わって教科書とノートをカバンに仕舞っていれば、笹森が顔を上げた。
「先生? 続きやらないんですか?」
「ちぃくん、ここ読んでみてよ」
指差したプリントの文面を見れば『そのようにして』と書いてある。
「そのようにして?」
「じゃあ、ここ消して読んでみて?」
シュッと赤ペンで何回か線を引いた。消された文字は、『のよ』『に』『て』。
残った文字を言葉にする。
「そ……う……し……」
何やってんだこの人……。
俺が想像できない斜め上の事をやる。
「続けて読んで」
「そうし……」
「ふふっ。なぁに? ちぃくん」
別に呼んでないのに返事をするな。
じっとりと睨めば、クスクスと笑う。
「ほら、この前の女性を追い払う時、うっかり先生って言いそうになったでしょ?」
う……確かにそうだ。
「恋人って紹介してるのに、笹森って呼ぶのもどうかと思うし、二人きりの時は創志でいいんじゃない?」
「創志。これでいいですか?」
半ばやけっぱちで名前を呼んだ。
「──うん。もう一回呼んで」
「創志」
「もう一回」
「創志……」
な、なんだ……創志がニコニコして気持ち悪い。
「普通に呼べるまで、ちゃんと練習しといてね」
「わかりましたよ。それより、先生──」
あ……無意識に先生って呼んだ。
残念なものを見るような目をするな。
「先生でいいでしょうが! 何かの時はちゃんと名前で呼びますから!」
どうして俺が失敗したような気がするんだ。
「そ、それより、他人のテストにいたずらしたら──……」
名前を見れば、俺のだった……。
「俺のテストに何してくれてんだ……」
目を細めて見つめる。えへって笑うな。
「それじゃちぃくん、今日はバイトが休みだし、鍵渡しておくから、俺の部屋で晩御飯作って待ってて。一緒に食べようね」
創志から鍵を預かった。
『材料費を出すから料理作って』と言われたのはいつだったか。
もう何度もご飯を一緒に食べている。
アルバイトの届け出は学校側に出せたし、創志の言いなりになる必要はもうない。
それなのに、俺は創志の鍵を預かって、言われた通りに部屋に行って料理をするんだ。
食費が浮くから仕方なくだ……そう言い訳みたいな事を思う自分になんだか複雑だった。
「だめぇ。今日はバイトがない日でしょ? 俺に付き合ってくれてもいいんじゃない?」
笹森は、指導室の椅子に座って沢山の小テストの丸つけをしている。
「それって……自分の机でもできる仕事ですよね?」
「職員室で黙々と丸つけするのと、ちぃくんと二人きりの空間で丸つけするのとじゃ全然違うよ」
何が違うのか教えてほしい。
教師のくせに、俺に対して曖昧で謎の発言が多すぎる。
「テスト作りも俺の目の前でやってくれたら、いい点数が取れるんですけどね」
「笹森創志テストでも作ろうか? 一問目は、俺の身長は何センチですか?」
クスクスと笑いながらバカなことを言い出した。
「そんなのは零点でいいです」
「あ。ひどい」
こんな冗談も言えるようになった関係が意外と悪くない。
クスクスと笑い合う時間は、時々すごく心地いい。
自分も今日出た宿題をしようと教科書を開いた。
「俺と二人きりなのに宿題やるような人はちぃくんぐらいだよ」
「できる時にやるべきでしょう。今やっておけば、家に帰ってスーパーへ行けます」
丸をつけるシュッという音と、カキカキとノートに書き込む音が響いている。
お互いに机に向かいながら、手を止めることはない。
「そっか。バイトしてるとそういう時間もないのか」
「そうですね。最近は俺の休みの日にご飯を食べに来るどこかの教師がいて困っているんです」
「その教師、料理ができないみたいだから、手料理に飢えてるそうだよ」
「今までどうやって暮らしてきたのか疑問です」
笹森はやっぱり家事があまりできなかった。
ずっとアパート暮らしらしいのに不思議だ。
「友達以上恋人未満の相手が家に来て料理作ってくれたり、買い食いしたり、外で食べてたみたいだよ」
ニコニコしながら最低だな。
予想通りだった……。
「最低のクズ教師ですよね……それなら、俺の手料理じゃなくて、その友達以上恋人未満の人達に頼めばいいじゃないですか」
呆れてため息をつく。
先ほどまで丸をつけていた音がピタリと止まった。
「先生?」
視線をノートから先生の方に上げる。
笹森は、手を止めていた。俺の方をジッと見ていたようで、目が合うとニコッとする。
「その教師は、友達以上恋人未満の人たちより、友達にもなってくれない隣の家の子の手料理が好きみたいだよ」
何を言っているんだか。
「いつでも手料理が食べられる方が都合がいいですもんね」
この前も、恋人だと嘘をついて女性を追い払うのに協力させられた。
こうやってこの指導室で話すのも俺が笹森の本性を知っているからだし、俺は上手いこと利用されている気がしてならない。
「バレたか──」
ほら、やっぱり。
クスクスと笑う笹森にため息をついて再びノートに向かう。
先生も丸つけに戻る。
しばらくして、宿題が終わって教科書とノートをカバンに仕舞っていれば、笹森が顔を上げた。
「先生? 続きやらないんですか?」
「ちぃくん、ここ読んでみてよ」
指差したプリントの文面を見れば『そのようにして』と書いてある。
「そのようにして?」
「じゃあ、ここ消して読んでみて?」
シュッと赤ペンで何回か線を引いた。消された文字は、『のよ』『に』『て』。
残った文字を言葉にする。
「そ……う……し……」
何やってんだこの人……。
俺が想像できない斜め上の事をやる。
「続けて読んで」
「そうし……」
「ふふっ。なぁに? ちぃくん」
別に呼んでないのに返事をするな。
じっとりと睨めば、クスクスと笑う。
「ほら、この前の女性を追い払う時、うっかり先生って言いそうになったでしょ?」
う……確かにそうだ。
「恋人って紹介してるのに、笹森って呼ぶのもどうかと思うし、二人きりの時は創志でいいんじゃない?」
「創志。これでいいですか?」
半ばやけっぱちで名前を呼んだ。
「──うん。もう一回呼んで」
「創志」
「もう一回」
「創志……」
な、なんだ……創志がニコニコして気持ち悪い。
「普通に呼べるまで、ちゃんと練習しといてね」
「わかりましたよ。それより、先生──」
あ……無意識に先生って呼んだ。
残念なものを見るような目をするな。
「先生でいいでしょうが! 何かの時はちゃんと名前で呼びますから!」
どうして俺が失敗したような気がするんだ。
「そ、それより、他人のテストにいたずらしたら──……」
名前を見れば、俺のだった……。
「俺のテストに何してくれてんだ……」
目を細めて見つめる。えへって笑うな。
「それじゃちぃくん、今日はバイトが休みだし、鍵渡しておくから、俺の部屋で晩御飯作って待ってて。一緒に食べようね」
創志から鍵を預かった。
『材料費を出すから料理作って』と言われたのはいつだったか。
もう何度もご飯を一緒に食べている。
アルバイトの届け出は学校側に出せたし、創志の言いなりになる必要はもうない。
それなのに、俺は創志の鍵を預かって、言われた通りに部屋に行って料理をするんだ。
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