身代わりおまけ王子は逃げ出したい

おみなしづき

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第四章

とあるご令嬢視点

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 レイジェル殿下に選ばれた婚約者は、どんな人なのかと興味があった。だから、お茶会に出席しようと城までやってきた。ほとんどの令嬢はそうなんだと思う。

 城に着いてお茶会の開かれる庭園へ行こうと足を進めていたら、廊下で待ち伏せしていたマリエラに足をとめられた。

「ミリアンナ殿下は、意地悪な人よ。わたくしの頬を叩いてこの城に来るなと言ったのよ」

 にわかには信じられない話をされて困惑する。

「わたくしは、子供の時からこの城に出入りが自由なのに、あの人は横暴だわ」
「そうですわね……」

 確かにマリエラは、姉のヴェルマと一緒に幼い頃からレイジェル殿下と親しいと聞いている。この話が事実なら、ミリアンナ殿下はレイジェル殿下に相応しくない。
 各国の王女の中から選ばれたというレイジェル殿下の婚約者は、レイジェル殿下を騙すほどの悪女なのかもしれない。

「ミリアンナ殿下の所へ行く必要なんてないわ。でも、せっかく来たのだから、こちらに部屋を用意させたの。楽しんで行って」

 そう言って案内された部屋には、既に令嬢が何人もいて、優雅に紅茶を飲んでいた。
 城の一室を使えるのは、やはりベルエリオ公爵の娘であるマリエラだからだ。
 城の窓からは、庭園が見渡せた。
 遠目で見るミリアンナ殿下は、笑顔を絶やさずに挨拶しているように見える。
 マリエラの頬を叩いて横暴に振る舞うような人物には見えない。

「ほら、見て。出席しているのは令息ばかりよ。ああやって男に取り入るのは得意なのよ」

 マリエラがそう言えば、その場にいた令嬢からも非難の声が上がる。

「なんて卑劣な女なのかしら」
「レイジェル殿下に選ばれただけではなく、他の令息にも色目を使うなんて」

 確かにあの笑顔も偽物に思えてきた。

 それから少しして、庭園に注目していた令嬢が「あっ!」と声を上げた。みんなで庭園に注目すれば、そこにやってきた人物達を見て、ザワリとざわついていた。

「あれは……オアデムのイリーナ殿下……?」
「シェリー殿下だわ」
「フェリシャ殿下よ」

 一介の貴族である私も名前なら聞いた事がある人達に驚きを隠せない。

「まさか、このお茶会に出席なさるなんて……」
「ミリアンナ殿下と親そうね……」
「田舎王女じゃなかったのかしら……」

 三人は、ミリアンナ殿下と会話を交わすと楽しそうにしている。
 各国の王女達が集まるなんて聞いていない。
 正式なものじゃないと言われていたけれど、王女達が出席するお茶会を欠席するなんてあり得ない事だ。
 貴族として、私はここにいていいのかと自問自答を繰り返す。

「あ、あれぐらいわたくしだって呼べますわ」

 マリエラはそう言うけれど、今まで王女の来るお茶会に出席したことはない。

「あ! ほら、見て!」

 一人の令嬢が指差した方を見れば、アルネとエレッタとヨランデが挨拶しているのが見える。

「あの子達……さっきまでここにいたわよね?」

 私がきた時にはいたはずなのに、周りを確認しても三人はいつの間にかいなくなっていた。

「王女様方とお話ししてるわよ」
「見て……出されたケーキを美味しそうに食べて……」
「随分と嬉しそうね。どんなケーキなのかしら? ここからじゃ見えないわ……」

 アルネ達の楽しそうな笑い声がここまで届いてくるようで、どうしようかと戸惑う。よくよく考えれば、横暴な態度を取るのは、マリエラだってそうなのだ。令嬢を足止めしていれば、お茶会に令息しかいないのも当たり前だ。ここにいる令嬢達は、マリエラに逆らえない人が多い。

 少しして、他にも数人の令嬢が扉をそっと開けてこの部屋から出ようとするのがわかった。私も行こうかと悩む。

「お待ちになって!」

 今にも部屋を出て行こうとしていた令嬢をマリエラが止めてしまう。

「言ったじゃない! このままレイジェル殿下と結婚させてはダメなのよ!」

 マリエラはとても必死に見えた。

「でも……」
「殿下に相応しいのは、わたくし以外にいないの!」

 そんな事はないと思った所で、中途半端に開いている扉が開いてスッと人が入ってきた。

「レ、レイジェル殿下……」

 出て行こうとして偶然近くにいてしまった令嬢が青くなって震える。
 レイジェル殿下は、ラトが開いた扉を背に、部屋内にいる令嬢を見回した。
 そこにいた全員が金縛りにあったようだった。
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