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第三章
後悔しないように
しおりを挟む 朝起きて、レイジェルと共に目覚める。
「おはよう」
「ああ。おはよう」
軽く頬にキスされて、キスを返す。
自分からするのって照れる。
照れ隠しでヘラッと笑う。
「やっぱり天使だ……」
両手で顔を押さえてまた変な事を言っているけれど、笑顔で起きよう。
一階に降りれば、テアロが朝ごはんを用意していた。パンとスープだ。
きちんとレイジェルとラトの分もある。二人の分も用意している所に、彼なりのお詫びなのではないかと思う。
レイジェルもラトもテアロが素直じゃないとわかったようで顔を見合わせる。
挨拶したら挨拶が返ってくる。いつも通りのテアロに、ホッとする。
レイジェルは、俺とテアロの間に立とうとする。テアロは、それを仏頂面で見つめてため息をつく。
「もうしないから安心しろよ。だから、俺たちの間に立つな」
「約束できるのか?」
「うるせぇな。お前と約束なんかするか」
俺には約束してくれるって事だ。
いつも通りの二人に安心する。
テアロは、見送る時も俺の頭にポンッと手を置いた。
「忘れんな。俺はいつでも待ってるからな。認められなきゃお前は俺のものなんだ」
「すぐそういう言い方するんだから……」
家はこの前ローンが終わって持ち家になっていた。テアロは気兼ねなく居てくれて構わない。
「この家は俺とテアロの家だから、好きに使ってね」
「お前より好きに使ってる」
ふっと優しく笑う顔に俺も微笑む。
「元気でね」
「すぐ会える」
最後まで笑顔で見送ってくれた。
アスラーゼに来たら絶対会いに来ようと決めた。
◆◇◆
「一人で大丈夫なのか?」
「平気だよ」
レイジェルとラトは、そのまま城の方へ戻る。
俺は、人目につかないように城から出た時の抜け道を使って戻る。人がいなくて安心した。レイジェルが人払いしてくれたみたいだ。
部屋の中には、レイジェル達とフロルとマーリスがいた。
「ミリアンナ様!」
フロルに抱きつかれた。背中をポンポンと叩いてあげる。
そう呼ばれるのは久しぶりの気がする。
「いなくなったと聞いて心配しました……ご無事で良かったです……」
「フロル……」
俺もフロルに会えて嬉しい。
マーリスが側に来た。
「ミリアンナとしてテレフベニアに行く事にしたんだね」
「はい」
「いつでも帰ってくるといい。私はミリオンを疎ましいと思った事はないよ。家族の中で一番物分かりが良くて邪魔をしなかったよ」
「兄様は、何事にも感心なさそうでしたね」
「やはりミリオンが一番物分かりが良い──」
クスクスと笑う顔は、いつもの顔と違う気がした。
マーリスは、前よりも顔色も良くなって、少し明るくなった気がする。
そもそもこんなに話した記憶がない。
「家族の事、話そびれていたな」
レイジェルに頷く。
そういえばそうだった。色々あって忘れていた。
「私から話すよ」
マーリスがそう言ってくれたので、マーリスの説明を聞いた。それに驚いた。
国王が倒れて退位するなんて……。
「死ぬような病気じゃないから心配いらない。喋れないから私が代わりに即位するだけだよ」
少しホッとした。
「会いたいかい?」
マーリスの言葉に考え込む。
会いたいとは思わない……。今まで俺になんて見向きもしなかった。部屋に鍵を掛けられた時、酷い人だと思った。もう二度と会わないだろうと思っていた。
そう思うのに、少しだけ気にかかる。
「少し早い隠居だよ。毎日遊んで暮らしてる」
それなら、心配いらなそうだ。
「会うのは……やめておきます」
俺が会いに行った所で喜ばない。父が会いたいのはミリアンナだ。俺は、ミリアンナの偽物だから──。
「時々様子だけ聞かせて下さい」
「わかった」
マーリスとのやり取りが終わると、ラトが明るく声をかけてくる。
「これ以上のアスラーゼへの滞在は必要ありませんね。テレフベニアに帰りましょう」
コクリと頷いて、フロルに微笑む。
「フロル、着替えさせてくれる?」
「どちらにですか?」
一度だけ大きく深呼吸をする。
「ドレスに──」
俺は、ミリアンナでいないといけない。それでも、レイジェルと一緒にいたくてそう決めた。
どうなるのかなんてわからないけれど、後悔しないように精一杯やるだけだ。
「おはよう」
「ああ。おはよう」
軽く頬にキスされて、キスを返す。
自分からするのって照れる。
照れ隠しでヘラッと笑う。
「やっぱり天使だ……」
両手で顔を押さえてまた変な事を言っているけれど、笑顔で起きよう。
一階に降りれば、テアロが朝ごはんを用意していた。パンとスープだ。
きちんとレイジェルとラトの分もある。二人の分も用意している所に、彼なりのお詫びなのではないかと思う。
レイジェルもラトもテアロが素直じゃないとわかったようで顔を見合わせる。
挨拶したら挨拶が返ってくる。いつも通りのテアロに、ホッとする。
レイジェルは、俺とテアロの間に立とうとする。テアロは、それを仏頂面で見つめてため息をつく。
「もうしないから安心しろよ。だから、俺たちの間に立つな」
「約束できるのか?」
「うるせぇな。お前と約束なんかするか」
俺には約束してくれるって事だ。
いつも通りの二人に安心する。
テアロは、見送る時も俺の頭にポンッと手を置いた。
「忘れんな。俺はいつでも待ってるからな。認められなきゃお前は俺のものなんだ」
「すぐそういう言い方するんだから……」
家はこの前ローンが終わって持ち家になっていた。テアロは気兼ねなく居てくれて構わない。
「この家は俺とテアロの家だから、好きに使ってね」
「お前より好きに使ってる」
ふっと優しく笑う顔に俺も微笑む。
「元気でね」
「すぐ会える」
最後まで笑顔で見送ってくれた。
アスラーゼに来たら絶対会いに来ようと決めた。
◆◇◆
「一人で大丈夫なのか?」
「平気だよ」
レイジェルとラトは、そのまま城の方へ戻る。
俺は、人目につかないように城から出た時の抜け道を使って戻る。人がいなくて安心した。レイジェルが人払いしてくれたみたいだ。
部屋の中には、レイジェル達とフロルとマーリスがいた。
「ミリアンナ様!」
フロルに抱きつかれた。背中をポンポンと叩いてあげる。
そう呼ばれるのは久しぶりの気がする。
「いなくなったと聞いて心配しました……ご無事で良かったです……」
「フロル……」
俺もフロルに会えて嬉しい。
マーリスが側に来た。
「ミリアンナとしてテレフベニアに行く事にしたんだね」
「はい」
「いつでも帰ってくるといい。私はミリオンを疎ましいと思った事はないよ。家族の中で一番物分かりが良くて邪魔をしなかったよ」
「兄様は、何事にも感心なさそうでしたね」
「やはりミリオンが一番物分かりが良い──」
クスクスと笑う顔は、いつもの顔と違う気がした。
マーリスは、前よりも顔色も良くなって、少し明るくなった気がする。
そもそもこんなに話した記憶がない。
「家族の事、話そびれていたな」
レイジェルに頷く。
そういえばそうだった。色々あって忘れていた。
「私から話すよ」
マーリスがそう言ってくれたので、マーリスの説明を聞いた。それに驚いた。
国王が倒れて退位するなんて……。
「死ぬような病気じゃないから心配いらない。喋れないから私が代わりに即位するだけだよ」
少しホッとした。
「会いたいかい?」
マーリスの言葉に考え込む。
会いたいとは思わない……。今まで俺になんて見向きもしなかった。部屋に鍵を掛けられた時、酷い人だと思った。もう二度と会わないだろうと思っていた。
そう思うのに、少しだけ気にかかる。
「少し早い隠居だよ。毎日遊んで暮らしてる」
それなら、心配いらなそうだ。
「会うのは……やめておきます」
俺が会いに行った所で喜ばない。父が会いたいのはミリアンナだ。俺は、ミリアンナの偽物だから──。
「時々様子だけ聞かせて下さい」
「わかった」
マーリスとのやり取りが終わると、ラトが明るく声をかけてくる。
「これ以上のアスラーゼへの滞在は必要ありませんね。テレフベニアに帰りましょう」
コクリと頷いて、フロルに微笑む。
「フロル、着替えさせてくれる?」
「どちらにですか?」
一度だけ大きく深呼吸をする。
「ドレスに──」
俺は、ミリアンナでいないといけない。それでも、レイジェルと一緒にいたくてそう決めた。
どうなるのかなんてわからないけれど、後悔しないように精一杯やるだけだ。
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