身代わりおまけ王子は逃げ出したい

おみなしづき

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第二章

そして二人目 ② レイジェル視点

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『お待ち下さい! あ、あれ……!?』

 国王の声が掠れた。
 ラトが国王に向かってクスクスと笑う。

「あんたさ、そろそろ喉に違和感が出てきただろ?」
『え……?』
『お父様……私、舌も喉も痺れるわ……お腹も気持ち悪い……』

 国王とミリアンナの声が掠れていく。

「今頃アウミールもそうだろう。喉を潰さなくても良かったな」
「あいつは殴りたかったんでいいんですよ」

 クスクスと笑えば、ラトも笑う。

「先ほど飲んだワインには、体を麻痺まひさせる薬が含まれている。もう少しすれば、お前達は完全に動けなくなるだろう。手足の痺れは一時的で明日にはなくなっても、喉と舌には障害が残り喋れなくなる。そういう薬だ。言っただろう? 私はお前達を信用していない」

 国王もミリアンナもアウミールもこれで喋れない。
 こんな面倒な事をしなくても消してしまえば良かったが、腐ってもミオの家族だ。こいつらの価値はそれだけだがな。

「どういう事なんですか……?」

 マーリスの問いかけに国王は驚いていた。

『マーリス……お前はなぜ平気なんだ?』
「そう……ですね。なぜ私は平気なんですか?」

 マーリスを見据える。
 コルテスは、ワインを何本も用意して、飲ませるワインを選んでいた。私とマーリスのワインには別のものを入れていたが、そんな事にこの人たちが気付くはずがない。コルテスの事なんて眼中になかっただろう。

「あなたは証人だ。ミリオンがミリアンナであるという証明をする人にあなたを選んだ」
「どうして私なんですか……?」
「ただの消去法だ。あなたが一番マシだった」
「私は裏切るかもしれませんよ……」

 クスリと笑う。

「あなたは国王を良く思っていない。今だって家族がこんな事になっていても他人事だろう?」
「…………」
「どうでもいいと思っているのはミリオンの事だけじゃない。家族全員どうでもいいんだ。違うか?」

 ニヤリと笑えば、マーリスもニヤリと笑った。

「確かに……」
「大事なのは自分自身の家族だけだ。王太子妃とその子供達だな」

 マーリスは、愛妻家だった。妻が一番大事で、二番目はその妻との子供だ。親や弟妹には、まるで興味がない。

「そこまでお分かりなんですね……」
「大事な家族がいるならば、私を裏切るなんて出来ないだろう? 私はいつでもあなたの家族をどうとでもできるからな。逃げても無駄だ。そうすれば、今度こそ口を封じる。家族全員な──」
「なるほど……【冷徹な若獅子】とは噂だけではないんですね」

 物分かりのいい男だ。マーリスがいなくなるとアスラーゼは国として機能しなくなる。それではミオの故郷がなくなる。それに、結婚する前にミオの身分が無くなっては元も子もない。結婚が出来なくなる。
 それらは懸念けねんすべき点だった。

「政務は全て私がやっていました。借金や贅沢したがる弟妹なんて必要ないんです。こいつらには何もしてほしくなかった。自分だけだったらどんなに楽なのかとずっと思っていました。わずらわしい事が解消される……国民も少しばかり豊かになるでしょう。こんな素晴らしい事はないですね。脅さなくても私はあなたに従いますよ」

 マーリスも最低だったが、国民を想う心は一番あった。それに、アウミールと違い、守りたい人がいる人間は扱いやすい。

「では、マーリス殿下は、病に倒れた国王の代わりに国王として即位し、テレフベニアと懇意にしてもらおう。ミリオンがアスラーゼに行きたいと言った時、気兼ねなく里帰りができるようにしたいのでね」
「わかりました。お任せ下さい」

 マーリスは、大きく頷く。
 交渉成立だ。

『そんな勝手は許されません!』

 国王は、私たちの話を聞いて反論してくる。勇気がある事だ。

「ならば全ての責任を国王のあなたに取ってもらい、処刑させてもらう。身代わりを用意してテレフベニアを騙した事をただで済まされると思うなよ」

 睨みを効かせて国王を見つめれば、冷や汗が止まらないようだ。

「お前は選ぶしかない。退位するか、死ぬか──だ」

 ラトが国王に向かって剣を抜いた。
 剣を突きつけられてひっと怯える。

『わ、わかりました! 私は隠居して、マーリスに王位を譲ります……』
「なぁんだよ! 今度こそれると思ったのにさ!」

 ラトは、またも剣を鞘に戻すことになってがっかりしているらしい。

「ミリオンがいる部屋の鍵は誰が持っている? 寄越せ」

 国王が鍵を手渡してきた。これでミオを部屋から出してやれる。

「今まで好き勝手した分、隠居生活をのんびりと過ごせばいい」

 病をわずらっている設定だ。死ぬまでベッドの上でだがな。
 必要ならマーリスに先ほどの薬も渡すようにとコルテスに言ってある。
 マーリスが私に向かって頭を下げた。

「それでは、国王が倒れてパーティーは終わりだと伝えてきます」
「頼んだぞ」

 項垂れる国王をマーリスが立たせて、部屋の外へ連れて行った。
 マーリスは上手くやるだろう。
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