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第一章
一大事
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フェリシャとは、庭園で一緒にお茶をする時間が増えていた。
俺もフェリシャも良い息抜きになっていたと思う。
覚悟を決めているフェリシャに選ばれてもらいたいのに、元婚約者の事を考えれば、選ばれて欲しくないとも思う。複雑な心境だった。
そのうちに、第四審査のために集まるようにと連絡があった。
フロルが用意をしようとクローゼットを開けて、そのまま動かなくなっていた。
「フロル?」
様子がおかしかったので近付けば、絶句して青ざめている。
「どうしたのですか?」
問い掛ければ、震えながら指差したのは、クローゼットの中だ。
「ミリアンナ様……これを……」
クローゼットの中を確認して俺も絶句した。
「なんだよ……これ……」
そこにあったレイジェルからもらったドレスは、色んな方向から引き裂かれて、とても着れる状態じゃなかった。
手にとって見てみれば、鋭利な刃物で引き裂いたと思われるものだった。
呆然とする俺とフロルに何事かと声をかけてきたのはロッシだ。
ロッシもボロボロになったドレスを見て、厳しい顔付きになる。
「ミリアンナ様! この事はすぐに報告致します! 犯人を捕まえて罰してもらいましょう!」
「だ、だめだ!」
思わず自分が出てしまった。
「なぜですか!?」
ロッシも必死でそんな事には気付かなかったようだ。
自分自身に落ち着くように言う。
クローゼットの中を確認しても、切り裂かれているのはこのドレスだけだった。大事なドレスだと知っているという事だ。
俺の命が欲しいなら、ドレスを破くなんて遠回しなことをしても無意味だ。
それならこれは、嫌がらせなんだろう。
俺がこの部屋にいないのは、フェリシャとお茶をしている時だけだ。
俺には、フロルとロッシしかいない。部屋に人がいない──。
それらを知っていてこんな事をして得するのは、この屋敷にいる王女の誰か──本人が直接ではなくても、王女の侍女かもしれない。
「もしも犯人が王女なら、国際問題になるからです。テレフベニアとその王女の国で揉め事になるのは困ります」
俺のせいでそんな事になったら、両国に申し訳ない。
何をされたかって、ドレスが破られただけだ。
レイジェルはきっと犯人の王女を見逃したりしない。【冷徹な若獅子】と呼ばれるのは、敵には容赦しないからだろう。もしも犯人の王女を敵と判断したら──考えただけで恐ろしい。犯人もレイジェルから貰ったドレスだと知らなかったから出来たことだろう。
ドレスで国が潰れるとか……まさかそこまでしないと思うけれど、洒落にならない……。
「やはり言えません」
「納得できません」
ロッシが真剣に俺を見つめる。
普段は見せない厳しい表情のロッシは、ちゃんとした騎士だった。
「私のせいです……」
もらったドレスをこんな風にしてしまうなんて俺の落ち度だ……。
「そんな! ミリアンナ様のせいではないです!」
「それでも! これは、私への嫌がらせです。テレフベニアが介入する必要はないと思います──」
ロッシにわかってもらえるように、俺の意志は固いと示す。
「ドレスがこんなになったって知ったら……レイジェル殿下もショックだと思います……」
レイジェルに申し訳ない。
まさか王女がこんな嫌がらせ行為をするなんて思っていなかった。
「お願いします──」
必死で訴える俺に、ロッシは眉根を寄せながらも頷いてくれた。
「それよりも、問題は明日着ていくドレスです」
フロルの言葉にハッとする。
「伝えられた日時は明日です。着ていくドレスがありません」
三人で悩む。
残っているのは、普段使いの地味なドレスと動きやすいワンピースぐらいだ。
いくら何でもワンピースを着ていくわけにはいかないだろう。
「今着ている普段着のドレスをそのまま着て行きます……」
「そうですね……それが最善かもしれません」
明日では、刺繍も入れられないし、染めるにも材料はないし乾かない。
審査で落ちるのではなく、国としての礼儀を欠けば、国がどうなるかわからない。
失礼ではない程度に綺麗にして、誠意を見せればきっと大丈夫だ──。
俺もフェリシャも良い息抜きになっていたと思う。
覚悟を決めているフェリシャに選ばれてもらいたいのに、元婚約者の事を考えれば、選ばれて欲しくないとも思う。複雑な心境だった。
そのうちに、第四審査のために集まるようにと連絡があった。
フロルが用意をしようとクローゼットを開けて、そのまま動かなくなっていた。
「フロル?」
様子がおかしかったので近付けば、絶句して青ざめている。
「どうしたのですか?」
問い掛ければ、震えながら指差したのは、クローゼットの中だ。
「ミリアンナ様……これを……」
クローゼットの中を確認して俺も絶句した。
「なんだよ……これ……」
そこにあったレイジェルからもらったドレスは、色んな方向から引き裂かれて、とても着れる状態じゃなかった。
手にとって見てみれば、鋭利な刃物で引き裂いたと思われるものだった。
呆然とする俺とフロルに何事かと声をかけてきたのはロッシだ。
ロッシもボロボロになったドレスを見て、厳しい顔付きになる。
「ミリアンナ様! この事はすぐに報告致します! 犯人を捕まえて罰してもらいましょう!」
「だ、だめだ!」
思わず自分が出てしまった。
「なぜですか!?」
ロッシも必死でそんな事には気付かなかったようだ。
自分自身に落ち着くように言う。
クローゼットの中を確認しても、切り裂かれているのはこのドレスだけだった。大事なドレスだと知っているという事だ。
俺の命が欲しいなら、ドレスを破くなんて遠回しなことをしても無意味だ。
それならこれは、嫌がらせなんだろう。
俺がこの部屋にいないのは、フェリシャとお茶をしている時だけだ。
俺には、フロルとロッシしかいない。部屋に人がいない──。
それらを知っていてこんな事をして得するのは、この屋敷にいる王女の誰か──本人が直接ではなくても、王女の侍女かもしれない。
「もしも犯人が王女なら、国際問題になるからです。テレフベニアとその王女の国で揉め事になるのは困ります」
俺のせいでそんな事になったら、両国に申し訳ない。
何をされたかって、ドレスが破られただけだ。
レイジェルはきっと犯人の王女を見逃したりしない。【冷徹な若獅子】と呼ばれるのは、敵には容赦しないからだろう。もしも犯人の王女を敵と判断したら──考えただけで恐ろしい。犯人もレイジェルから貰ったドレスだと知らなかったから出来たことだろう。
ドレスで国が潰れるとか……まさかそこまでしないと思うけれど、洒落にならない……。
「やはり言えません」
「納得できません」
ロッシが真剣に俺を見つめる。
普段は見せない厳しい表情のロッシは、ちゃんとした騎士だった。
「私のせいです……」
もらったドレスをこんな風にしてしまうなんて俺の落ち度だ……。
「そんな! ミリアンナ様のせいではないです!」
「それでも! これは、私への嫌がらせです。テレフベニアが介入する必要はないと思います──」
ロッシにわかってもらえるように、俺の意志は固いと示す。
「ドレスがこんなになったって知ったら……レイジェル殿下もショックだと思います……」
レイジェルに申し訳ない。
まさか王女がこんな嫌がらせ行為をするなんて思っていなかった。
「お願いします──」
必死で訴える俺に、ロッシは眉根を寄せながらも頷いてくれた。
「それよりも、問題は明日着ていくドレスです」
フロルの言葉にハッとする。
「伝えられた日時は明日です。着ていくドレスがありません」
三人で悩む。
残っているのは、普段使いの地味なドレスと動きやすいワンピースぐらいだ。
いくら何でもワンピースを着ていくわけにはいかないだろう。
「今着ている普段着のドレスをそのまま着て行きます……」
「そうですね……それが最善かもしれません」
明日では、刺繍も入れられないし、染めるにも材料はないし乾かない。
審査で落ちるのではなく、国としての礼儀を欠けば、国がどうなるかわからない。
失礼ではない程度に綺麗にして、誠意を見せればきっと大丈夫だ──。
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