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第一章
些細な手紙
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ロレーナにドレスを渡した数日後、ラトが手紙を持ってきた。
それは、とても綺麗な文字で書いてあった。
『夜の帳が下りて全てを隠す頃、部屋を訪ねます』
フロルに手紙を見せると、コクリと頷いた。
レイジェルは、真夜中に来るらしい。
「では、返事を書きます。少々お待ちいただけますか?」
「返事を頂けるんですか……?」
驚いたラトに逆に驚く。
え? 手紙って普通返事をするものじゃないのか?
「口頭でよいのかしら?」
ラトに聞き返せば、ブンブンと首を横に振った。
「ぜひ書いて下さい!」
「では、待っていて下さい」
ニッコリ笑顔で言って机に向かって紙とペンを用意した。
いざ書こうとして困る。了解しました以外が思い浮かばない。了解しましただけの手紙ではダメだろう。何か付け足さないといけない。
名前も何もない簡単な手紙だったから、名前は必要ないだろ。
『手紙、ありがとうございました。大したおもてなしはできませんが、寝ずにあなた様をお待ちしています。どうか気を付けて』
手紙のお礼と時間了解というのと、貧乏だから何もできないというのと、起きて待ってるから早く来いよと、他の王女に見つからないように気を付けてという意味を込めてみた。
こんなでいいよな?
手紙を簡単に折りたたんで待ってくれていたラトへ手渡した。
「ありがとうございます!」
やけに嬉しそうにするラトに首を傾げながらも、ドレスの受け渡しなんてさっさと終わりにしたいと願うばかりだった。
◆◇◆
(ラト視点)
ミリアンナ様から手紙を受け取って早足でレイジェルのいる執務室へ向かった。書類仕事をするときは大概専用の執務室にいる。
扉の前に立っていた兵士に扉を開けてもらい中に入った。
「レイジェル様! 手紙──……」
「ラト。もう少し落ち着きなさいといつも言っているでしょう」
厄介なやつもそこにいて顔を引きつらせる。
深い森のような緑の髪にそれと同じ瞳。モノクルをかけている姿は、知的なイメージがある。
レイジェルの補佐で文官でもあるコルテス・カレッソだ。伯爵家の次男で俺より身分は上だが、こいつとも腐れ縁でずっと一緒だ。
融通の効かない頭でっかち。こんなのがレイジェルの側にいるからレイジェルもお堅いやつになってしまった。
「いたのかよ……」
「いつも居ないのはあなたです。護衛がレイジェル様の側を離れてどうするのです」
「俺はレイジェル様の命令で動いんてんだからいいんだよ」
疑惑の視線を向けられても、気にせずにレイジェルの机の前へ行った。
「レイジェル様、返事!」
「返事?」
「ほら、手紙書いたでしょ! ミリアンナ様がそれの返事を書いてくれたんです!」
「え……あんな手紙に返事だって?」
レイジェルの表情が崩れる。いつも冷静なレイジェルのちょっと動揺した姿は楽しい。
それを見て、コルテスも驚いて文句をやめた。こんなレイジェルを見るのは初めてだからだ。なんだかんだで俺達はレイジェルが一番だ。そこだけは気が合う。
レイジェルに手紙を手渡せば、それを開いた。
視線が文字を追って、レイジェルは口元を手で覆った。
もしかして……照れてる?
「なんて書いてあったんですか!?」
「ラト。人様の手紙の内容を知りたいだなんて、はしたないですよ」
コルテスに咎められたが関係ない。
レイジェルは、無言のまま手紙を渡してきた。
見てもいいという事だ。
『手紙、ありがとうございました。大したおもてなしはできませんが、寝ずにあなた様をお待ちしています。どうか気を付けて』
なんて健気な手紙なんだ! 旦那を待ち侘びる新妻みたいだ。
俺もこんな手紙がもらいたい。
「これ見て照れたって事は、レイジェル様も満更じゃないですよね!」
これ、もうミリアンナ様で決定でいいだろ!
「レイジェル様、返事の返事をしたらどうですか!?」
俺が嬉しそうにすると、コルテスから大きなため息が聞こえた。
「向こうは気を遣って返事を書いたのでしょう? ならば、また返事を書く事になりますよ。終わらないじゃないですか。それに、特定の王女とのやり取りは控えた方が良いのでは?」
「そうだな……」
レイジェルの表情がいつもの冷たい表情に戻る。
心を寄せた相手以外に初めて心を開きかけているのに、もう一歩が踏み出せないようだ。
「これ以上の手紙は必要ない」
そう言って話を終わりにしてしまったレイジェルにため息をついた。
余計な事を言ったコルテスを睨んでおく。
「コルテスは、女性と手紙のやり取りなんかした事ないくせに、偉そうにすんな」
「失礼な。私も手紙ぐらい書いた事──……ないな……」
考え込んだコルテスにわざとらしくため息を吐いてやる。
「そんなだから今だに童貞なんだ」
「なっ……! 関係ないでしょう!」
今度は怒り出した。図星のようだ。
ニンマリと笑ってコルテスとの距離を詰めた。
「女の抱き方教えてやろうか? 俺が実践で手取り足取り──腰取り……な」
「は、はしたない! ラトは下品ですよ!」
「意地張るなって。女の気持ちを味わうのも勉強だろ? 最高に気持ち良くしてやるよ──」
人差し指でコルテスの顎をクイッとあげて顔を近付けてやれば、一気に真っ赤になった。
「な、な、なんてやつだっ! お前なんかお断りだーー!」
手をバシンと振り払われた。
この反応も想定内でニヤリと笑う。
「ああ、そうか。俺に抱かれたら、女抱けなくなっちゃうもんな」
「この……くされ○○○、くそ○○○野郎が! 不能になってしまえ!」
「お前の方が下品だわ!」
放送禁止用語だわ!
プルプル震えながら怒るコルテスが面白くてしょうがない。
レイジェルが呆れてやめろと言うまで揶揄ってやった。
それは、とても綺麗な文字で書いてあった。
『夜の帳が下りて全てを隠す頃、部屋を訪ねます』
フロルに手紙を見せると、コクリと頷いた。
レイジェルは、真夜中に来るらしい。
「では、返事を書きます。少々お待ちいただけますか?」
「返事を頂けるんですか……?」
驚いたラトに逆に驚く。
え? 手紙って普通返事をするものじゃないのか?
「口頭でよいのかしら?」
ラトに聞き返せば、ブンブンと首を横に振った。
「ぜひ書いて下さい!」
「では、待っていて下さい」
ニッコリ笑顔で言って机に向かって紙とペンを用意した。
いざ書こうとして困る。了解しました以外が思い浮かばない。了解しましただけの手紙ではダメだろう。何か付け足さないといけない。
名前も何もない簡単な手紙だったから、名前は必要ないだろ。
『手紙、ありがとうございました。大したおもてなしはできませんが、寝ずにあなた様をお待ちしています。どうか気を付けて』
手紙のお礼と時間了解というのと、貧乏だから何もできないというのと、起きて待ってるから早く来いよと、他の王女に見つからないように気を付けてという意味を込めてみた。
こんなでいいよな?
手紙を簡単に折りたたんで待ってくれていたラトへ手渡した。
「ありがとうございます!」
やけに嬉しそうにするラトに首を傾げながらも、ドレスの受け渡しなんてさっさと終わりにしたいと願うばかりだった。
◆◇◆
(ラト視点)
ミリアンナ様から手紙を受け取って早足でレイジェルのいる執務室へ向かった。書類仕事をするときは大概専用の執務室にいる。
扉の前に立っていた兵士に扉を開けてもらい中に入った。
「レイジェル様! 手紙──……」
「ラト。もう少し落ち着きなさいといつも言っているでしょう」
厄介なやつもそこにいて顔を引きつらせる。
深い森のような緑の髪にそれと同じ瞳。モノクルをかけている姿は、知的なイメージがある。
レイジェルの補佐で文官でもあるコルテス・カレッソだ。伯爵家の次男で俺より身分は上だが、こいつとも腐れ縁でずっと一緒だ。
融通の効かない頭でっかち。こんなのがレイジェルの側にいるからレイジェルもお堅いやつになってしまった。
「いたのかよ……」
「いつも居ないのはあなたです。護衛がレイジェル様の側を離れてどうするのです」
「俺はレイジェル様の命令で動いんてんだからいいんだよ」
疑惑の視線を向けられても、気にせずにレイジェルの机の前へ行った。
「レイジェル様、返事!」
「返事?」
「ほら、手紙書いたでしょ! ミリアンナ様がそれの返事を書いてくれたんです!」
「え……あんな手紙に返事だって?」
レイジェルの表情が崩れる。いつも冷静なレイジェルのちょっと動揺した姿は楽しい。
それを見て、コルテスも驚いて文句をやめた。こんなレイジェルを見るのは初めてだからだ。なんだかんだで俺達はレイジェルが一番だ。そこだけは気が合う。
レイジェルに手紙を手渡せば、それを開いた。
視線が文字を追って、レイジェルは口元を手で覆った。
もしかして……照れてる?
「なんて書いてあったんですか!?」
「ラト。人様の手紙の内容を知りたいだなんて、はしたないですよ」
コルテスに咎められたが関係ない。
レイジェルは、無言のまま手紙を渡してきた。
見てもいいという事だ。
『手紙、ありがとうございました。大したおもてなしはできませんが、寝ずにあなた様をお待ちしています。どうか気を付けて』
なんて健気な手紙なんだ! 旦那を待ち侘びる新妻みたいだ。
俺もこんな手紙がもらいたい。
「これ見て照れたって事は、レイジェル様も満更じゃないですよね!」
これ、もうミリアンナ様で決定でいいだろ!
「レイジェル様、返事の返事をしたらどうですか!?」
俺が嬉しそうにすると、コルテスから大きなため息が聞こえた。
「向こうは気を遣って返事を書いたのでしょう? ならば、また返事を書く事になりますよ。終わらないじゃないですか。それに、特定の王女とのやり取りは控えた方が良いのでは?」
「そうだな……」
レイジェルの表情がいつもの冷たい表情に戻る。
心を寄せた相手以外に初めて心を開きかけているのに、もう一歩が踏み出せないようだ。
「これ以上の手紙は必要ない」
そう言って話を終わりにしてしまったレイジェルにため息をついた。
余計な事を言ったコルテスを睨んでおく。
「コルテスは、女性と手紙のやり取りなんかした事ないくせに、偉そうにすんな」
「失礼な。私も手紙ぐらい書いた事──……ないな……」
考え込んだコルテスにわざとらしくため息を吐いてやる。
「そんなだから今だに童貞なんだ」
「なっ……! 関係ないでしょう!」
今度は怒り出した。図星のようだ。
ニンマリと笑ってコルテスとの距離を詰めた。
「女の抱き方教えてやろうか? 俺が実践で手取り足取り──腰取り……な」
「は、はしたない! ラトは下品ですよ!」
「意地張るなって。女の気持ちを味わうのも勉強だろ? 最高に気持ち良くしてやるよ──」
人差し指でコルテスの顎をクイッとあげて顔を近付けてやれば、一気に真っ赤になった。
「な、な、なんてやつだっ! お前なんかお断りだーー!」
手をバシンと振り払われた。
この反応も想定内でニヤリと笑う。
「ああ、そうか。俺に抱かれたら、女抱けなくなっちゃうもんな」
「この……くされ○○○、くそ○○○野郎が! 不能になってしまえ!」
「お前の方が下品だわ!」
放送禁止用語だわ!
プルプル震えながら怒るコルテスが面白くてしょうがない。
レイジェルが呆れてやめろと言うまで揶揄ってやった。
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