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第一章
テレフベニア王国
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三日目の昼にテレフベニアの城に着いた。
正直色々驚いている。
まず、王都は俺の国の三倍はあるんじゃないかと思うほど大きいし賑わっていた。
散策したくてうずうずする。
そして、この城。
城壁は敵を寄せ付けないであろうと思えるほど強固で立派だった。
軍事大国だと言うのが言葉だけではないのだと見てとれる。
なんか……場違いの世界……。
馬車が止まった。
ラトの手を取って馬車から降りれば、城の大きさに見上げんばかりだった。
長い階段を登りながら、段々と見えてくる城の出入り口。
そのまま通り過ぎた。
お出迎え的なものはないらしい。
うちみたいな弱小国家が各国から来る王女に比べたら歓迎されるわけないか。
「このまま国王陛下に拝謁します。一緒に来るのはミリアンナ様のみで、侍女の方は別の者が先にお部屋へ案内します」
ラトに言われた言葉に驚く。
このまま!? しかも一人で!?
フロルに『助けて』と目で訴えたけれど、『観念しろ』と目で言われた。
急に緊張してきた!
連れてかれた城の大広間の奥の真ん中には、国王陛下が座るであろう立派な椅子があった。
周りには所々に兵士がいるだけで、人なんていなかった。
たった一人で拝謁とは恐れ入る。とりあえずその椅子の前に跪いておく。
男は、片膝をついた姿勢でいいのだけれど、女は両足で跪かないといけない。それがこの国の正式な挨拶だ。
両足で跪いたら、足の踵がお尻に当たって痛ーい! 中腰でもいいかな?でも、中腰は辛い……。
なんて下を向いて座り方に苦労していたら、しばらくしてやってきた誰かの足音が大広間に響く。
国王陛下らしき人物が、椅子に座った気配がした。
「お前がアスラーゼ王国のミリアンナ・ヴァーリンだな。私はアデニス・デラール。このテレフベニアの国王だ。お前の発言を許そう。顔を上げろ」
そっと頭を上げて見れば、肘掛けに肘をついて足を組み、頬を押さえたテレフベニアの国王陛下は、思ったより全然若く見えた。
癖のある金髪に通った鼻筋と金色の瞳。眉間の皺が深くて貫禄のある態度が俺の父とは大違いだ。
これが本物の国王陛下というんじゃないだろうか。威厳のオーラが見えるみたいだ。
後光が差している……。
おっと、挨拶挨拶。
「わ、わたくしは、アスラーゼ王国第一王女ミリアンナ・ヴァーリンと申します。この度は──……よ、よろしくお願い申し上げます……」
やばい……挨拶が頭からすっぽり抜け落ちてた!
お辞儀してとりあえず微笑んでおく。笑うしかない。
緊張もあるけれど、いきなりすぎたし、余計な事言ってもダメだから……これで良しとしよう!
というか、酷使したお尻が痛すぎてそれどころじゃないし!
「ほう……悪くないな。今までで一番話が短い。話の長い女は好かん」
それって好感触って事でいいんだよね?
国王陛下に目をつけられたら、アスラーゼなんてプチッと潰されてもおかしくない。
「まぁ、精々励め」
国王陛下は立ち上がるとさっさと大広間を出て行った。
挨拶が早すぎる! でも、そっちの方がすごく良かった!
中腰の足も限界で、ホッと胸を撫で下ろして立ち上がる。
手のひらがびっしょびしょになってるんですけど……。
ラトがこちらにやってきた。
「では、ミリアンナ様、お暮らしになる屋敷へ案内致します。すぐ近くですが、馬車でどうぞ」
ラトなりの気遣いだったみたいだが、歩いても良かった……。
俺の尻は、限界を迎えて天に召されるかもしれない……。
◆◇◆
「ここがミリアンナ様が過ごすお部屋になります。他国の王女方も隣や上のお部屋にいらっしゃいます」
案内されたのは、城のすぐ近くにある大きなお屋敷だった。
このお屋敷……まさかこの為に作ったとか言わないよな……。だとしたら、かなり裕福な国だというのも納得できる。
比較的新しい建物にそんな事を思ってしまった。
「王女様方は一人部屋になります。一階は全て使用人の部屋になります」
一人部屋はありがたい。男だとバレるリスクが少なくていい。
案内された部屋は、ごく普通の部屋だった。
豪華さも何もないけれど、質素という感じでもない。
よく見れば、調度品は良いものだとわかる。
フロルが軽い片付けをしていてくれたみたいだ。
「レイジェル様にお会いするのは、数日後になるかと思います」
王子に会わなくていいだって?
「わかりました!」
ニコニコとしてしまった俺は、溢れんばかりの感情を誤魔化す事すら忘れてしまう。
「早く会いたいと……思わないんですか?」
「…………」
首を傾げる。
「なぜ?」
質問に質問で返してしまった。
俺からしたら男だとバレる可能性が低くなるし、このまま会わないで婚約者候補から外れる事ができれば万々歳だ。
「いえ。出過ぎた事を言ってしまいました。俺はこれで失礼します。何かあれば、一階にいる使用人に言ってください」
「はい」
そのまま部屋から出たラトと一緒に外に出た。フロルも付いてきてくれる。
「ミリアンナ様? なぜご一緒に?」
折角だからお礼と挨拶がしたいだけだけど……不思議がられても……。
三日間一緒に来てくれていた御者と護衛達は、俺が乗ってきた馬車の前でくつろいでいた。みんなを集めてもらい、ドレスの裾を軽く持ち上げて膝を折る。
「ここまで送ってもらい感謝致します。ありがとうございました」
「「「「!?」」」」
ポカンと口を開けて驚かれてしまった。
お礼を言いたかっただけなのに、なぜそんな風になるのか……。
お世話になったらお礼を言うのは当たり前なのに……。
「そ、それでは、失礼致します……」
居た堪れなくなって、すごすごと部屋に戻って行く。
後をついてきてくれていたフロルに小声で話す。
「フロル……俺、何かやらかした……?」
「いいえ。何も問題有りません」
フロルがフッと笑ってくれた!
間違っていないらしい。良かった。
「──……あのさ、お尻が痛いから、もう休んでいいかな?」
どさくさに紛れてそんな提案をしてみる。
フロルの表情がスッとなくなった。
「また朝までお休みになる気ですか?」
「……ですよね……」
ちょっと言ってみただけだよ……。
正直色々驚いている。
まず、王都は俺の国の三倍はあるんじゃないかと思うほど大きいし賑わっていた。
散策したくてうずうずする。
そして、この城。
城壁は敵を寄せ付けないであろうと思えるほど強固で立派だった。
軍事大国だと言うのが言葉だけではないのだと見てとれる。
なんか……場違いの世界……。
馬車が止まった。
ラトの手を取って馬車から降りれば、城の大きさに見上げんばかりだった。
長い階段を登りながら、段々と見えてくる城の出入り口。
そのまま通り過ぎた。
お出迎え的なものはないらしい。
うちみたいな弱小国家が各国から来る王女に比べたら歓迎されるわけないか。
「このまま国王陛下に拝謁します。一緒に来るのはミリアンナ様のみで、侍女の方は別の者が先にお部屋へ案内します」
ラトに言われた言葉に驚く。
このまま!? しかも一人で!?
フロルに『助けて』と目で訴えたけれど、『観念しろ』と目で言われた。
急に緊張してきた!
連れてかれた城の大広間の奥の真ん中には、国王陛下が座るであろう立派な椅子があった。
周りには所々に兵士がいるだけで、人なんていなかった。
たった一人で拝謁とは恐れ入る。とりあえずその椅子の前に跪いておく。
男は、片膝をついた姿勢でいいのだけれど、女は両足で跪かないといけない。それがこの国の正式な挨拶だ。
両足で跪いたら、足の踵がお尻に当たって痛ーい! 中腰でもいいかな?でも、中腰は辛い……。
なんて下を向いて座り方に苦労していたら、しばらくしてやってきた誰かの足音が大広間に響く。
国王陛下らしき人物が、椅子に座った気配がした。
「お前がアスラーゼ王国のミリアンナ・ヴァーリンだな。私はアデニス・デラール。このテレフベニアの国王だ。お前の発言を許そう。顔を上げろ」
そっと頭を上げて見れば、肘掛けに肘をついて足を組み、頬を押さえたテレフベニアの国王陛下は、思ったより全然若く見えた。
癖のある金髪に通った鼻筋と金色の瞳。眉間の皺が深くて貫禄のある態度が俺の父とは大違いだ。
これが本物の国王陛下というんじゃないだろうか。威厳のオーラが見えるみたいだ。
後光が差している……。
おっと、挨拶挨拶。
「わ、わたくしは、アスラーゼ王国第一王女ミリアンナ・ヴァーリンと申します。この度は──……よ、よろしくお願い申し上げます……」
やばい……挨拶が頭からすっぽり抜け落ちてた!
お辞儀してとりあえず微笑んでおく。笑うしかない。
緊張もあるけれど、いきなりすぎたし、余計な事言ってもダメだから……これで良しとしよう!
というか、酷使したお尻が痛すぎてそれどころじゃないし!
「ほう……悪くないな。今までで一番話が短い。話の長い女は好かん」
それって好感触って事でいいんだよね?
国王陛下に目をつけられたら、アスラーゼなんてプチッと潰されてもおかしくない。
「まぁ、精々励め」
国王陛下は立ち上がるとさっさと大広間を出て行った。
挨拶が早すぎる! でも、そっちの方がすごく良かった!
中腰の足も限界で、ホッと胸を撫で下ろして立ち上がる。
手のひらがびっしょびしょになってるんですけど……。
ラトがこちらにやってきた。
「では、ミリアンナ様、お暮らしになる屋敷へ案内致します。すぐ近くですが、馬車でどうぞ」
ラトなりの気遣いだったみたいだが、歩いても良かった……。
俺の尻は、限界を迎えて天に召されるかもしれない……。
◆◇◆
「ここがミリアンナ様が過ごすお部屋になります。他国の王女方も隣や上のお部屋にいらっしゃいます」
案内されたのは、城のすぐ近くにある大きなお屋敷だった。
このお屋敷……まさかこの為に作ったとか言わないよな……。だとしたら、かなり裕福な国だというのも納得できる。
比較的新しい建物にそんな事を思ってしまった。
「王女様方は一人部屋になります。一階は全て使用人の部屋になります」
一人部屋はありがたい。男だとバレるリスクが少なくていい。
案内された部屋は、ごく普通の部屋だった。
豪華さも何もないけれど、質素という感じでもない。
よく見れば、調度品は良いものだとわかる。
フロルが軽い片付けをしていてくれたみたいだ。
「レイジェル様にお会いするのは、数日後になるかと思います」
王子に会わなくていいだって?
「わかりました!」
ニコニコとしてしまった俺は、溢れんばかりの感情を誤魔化す事すら忘れてしまう。
「早く会いたいと……思わないんですか?」
「…………」
首を傾げる。
「なぜ?」
質問に質問で返してしまった。
俺からしたら男だとバレる可能性が低くなるし、このまま会わないで婚約者候補から外れる事ができれば万々歳だ。
「いえ。出過ぎた事を言ってしまいました。俺はこれで失礼します。何かあれば、一階にいる使用人に言ってください」
「はい」
そのまま部屋から出たラトと一緒に外に出た。フロルも付いてきてくれる。
「ミリアンナ様? なぜご一緒に?」
折角だからお礼と挨拶がしたいだけだけど……不思議がられても……。
三日間一緒に来てくれていた御者と護衛達は、俺が乗ってきた馬車の前でくつろいでいた。みんなを集めてもらい、ドレスの裾を軽く持ち上げて膝を折る。
「ここまで送ってもらい感謝致します。ありがとうございました」
「「「「!?」」」」
ポカンと口を開けて驚かれてしまった。
お礼を言いたかっただけなのに、なぜそんな風になるのか……。
お世話になったらお礼を言うのは当たり前なのに……。
「そ、それでは、失礼致します……」
居た堪れなくなって、すごすごと部屋に戻って行く。
後をついてきてくれていたフロルに小声で話す。
「フロル……俺、何かやらかした……?」
「いいえ。何も問題有りません」
フロルがフッと笑ってくれた!
間違っていないらしい。良かった。
「──……あのさ、お尻が痛いから、もう休んでいいかな?」
どさくさに紛れてそんな提案をしてみる。
フロルの表情がスッとなくなった。
「また朝までお休みになる気ですか?」
「……ですよね……」
ちょっと言ってみただけだよ……。
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