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本編
奴隷も愛人も
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朝目覚めて一番最初に見たのは獅貴の寝顔だった。
気持ち良さそうに寝ている。
体を起こそうとしたけれど無理だった。
腰が痛い……。
今何時なんだ?
時間を確認しようともぞもぞと動いていれば、獅貴を起こしてしまったようだ。
腕が伸びてきて、背後から抱き込まれた。
「兎和……? どこかに行こうとしてる……?」
「違う。時間を確認したい」
この部屋の時計はどこだ?
動けないのでキョロキョロと見回す。
「時間? どうして?」
「今日も夕方からバイトがあるんだ」
「そんなの休めよ」
「嫌だ」
「ふふっ。じゃあ、立てなくしよっと……」
背中にキスされて、ゾクリとする。
「あ……獅貴……やめてくれ……昨日いっぱいしただろ?」
「僕が時給の倍の金を出すから、僕と一緒にいてよ」
「もっと嫌だ」
「なんで?」
「それこそ愛人みたいだ……」
獅貴は、キョトンとしてから吹き出した。
「ははっ。奴隷は良くても愛人は嫌なんだ?」
「奴隷だって嫌に決まってるだろ……」
「そうだったっけ? じゃあ、あと一回だけやろう」
「嫌だって……あ……んん……」
「ほら、背中……めちゃくちゃ感じるくせに」
一晩中の愛撫で、もうすっかり獅貴に開発されたようで、色んな所が感じる体になってしまった。
背中を舐められながら、乳首をイジられたら、声が止まらない。
朝からやられた……。
おかげで夕方まで爆睡するはめになった。
◆◇◆
「弟が心配だ。一度家に帰る」
「じゃあ、兎和の家でいいんだね?」
帰りの車内での会話だ。
まだ腰は辛いけれど、そんな事は言っていられない。
今日のバイトが夕方からでよかった。
獅貴は、帰りの車内では、ずっと手を握ってくれていた。
「車が苦手なのも、事故の影響だったんだ……」
「手を繋いでもらわないとダメだなんて恥ずかしいよな」
「それって、手を繋いでいれば大丈夫なわけ?」
「車にはほとんど乗らないから、わからない」
「なるほどね」
家に着いて、車から降りたら獅貴も降りてきた。
「どうしたんだ?」
「見送りだよ」
「ははっ。奴隷の見送り?」
「いいだろ」
少し恥ずかしそうにする獅貴に笑ってしまう。
しばらく話していたら、後ろから誰かにグイッと腕を引かれた。
「兄さん! 心配したんだ! どこに行ってたんだ⁉︎ 車に乗ったのか⁉︎」
心配そうにする豹だった。
「心配掛けてごめん。連絡した通り、同級生の家にいた。大丈夫だから」
ポンポンと頭を叩いてやれば、ホッと息を吐き出した。
豹は、そこにいた獅貴を睨む。
「兄さんを勝手に連れ出さないで下さい」
「ああ……ごめんね?」
悪いと思っていない謝り方に苦笑いだ。
「豹、今回だけだよ」
「本当?」
「え? そんなわけないじゃん」
獅貴の反論に顔を引きつらせる。
「獅貴……話がややこしくなるから口を出すなよ」
「獅貴って──神宮寺獅貴?」
「お? 僕を知っている?」
「ええ。中等部でも有名ですよ。ヤリチンだって」
その通りで笑ってしまう。
「兎和、今は違うからな」
「どうして俺に言い訳するんだ? その通りだろ?」
「違う!」
「どうでもいいよ! あんたみたいな人が兄さんに近付くなよ!」
豹にグイッと引っ張られて家へ足を進める。
「豹、そんな言い方したらダメだ。獅貴、また月曜に」
「明日は?」
「バイト!」
ガックリと項垂れる獅貴に手を振って家に入った。
バイトに行く準備をする。
昨日の服のままだ。服を着替えないと。
豹は、着替えていた背後にやってきた。
「兄さん……なんであんなやつと一緒にいたの?」
「色々あってさ」
奴隷になったとは言えない。
「車で大丈夫だったの?」
「ああ……獅貴がいたから……」
手の温もりが蘇るようで微笑む。
服を脱いだら、胸元にキスマークを発見して慌てて別の服を着た。
「もしかして、傷の事も話したの?」
「話したよ」
豹が服の上から背中の傷痕にそっと触れてきた。
「ごめんね……兄さん……」
「豹のせいじゃないだろ?」
「でもっ──! 押しつぶされたシートから、僕を庇って出来た傷だ」
「豹が気にするなら消してやりたいんだけれど、お金も掛かるし、完璧に消す事は出来ないらしくて……」
「このままでいいよ! 僕は嫌じゃない……」
「だったら、謝らなくていい」
豹の方を向いて、慰めるようにポンポンと頭を叩いてやる。
「僕は何も覚えていないから……気付いた時には兄さんが庇ってくれてた……」
「寝ていて良かったんだ。お前が無事で良かったよ」
「兄さん……」
ギュッと抱きついてくる。
慰めるように背中を上下に撫でてやる。
まだまだ甘えん坊だ。
「ははっ。ほら、バイトに間に合わなくなる」
「うん……今日は帰ってきてよ? ご飯作ってある。食べてって」
「いつもありがとう」
豹の美味しいご飯を食べて、すぐにバイトに行った。
俺は、豹を守って背中に傷を負った事を後悔した事はない。
でも、豹は傷の事を気にしているみたいだった。
たった二人きりの兄弟だ。
そんな豹の為なら、奴隷だって我慢できる。
奴隷……と言っても、獅貴は優しかった。
獅貴の事を考えると微笑んでしまう自分に少し戸惑っていた。
気持ち良さそうに寝ている。
体を起こそうとしたけれど無理だった。
腰が痛い……。
今何時なんだ?
時間を確認しようともぞもぞと動いていれば、獅貴を起こしてしまったようだ。
腕が伸びてきて、背後から抱き込まれた。
「兎和……? どこかに行こうとしてる……?」
「違う。時間を確認したい」
この部屋の時計はどこだ?
動けないのでキョロキョロと見回す。
「時間? どうして?」
「今日も夕方からバイトがあるんだ」
「そんなの休めよ」
「嫌だ」
「ふふっ。じゃあ、立てなくしよっと……」
背中にキスされて、ゾクリとする。
「あ……獅貴……やめてくれ……昨日いっぱいしただろ?」
「僕が時給の倍の金を出すから、僕と一緒にいてよ」
「もっと嫌だ」
「なんで?」
「それこそ愛人みたいだ……」
獅貴は、キョトンとしてから吹き出した。
「ははっ。奴隷は良くても愛人は嫌なんだ?」
「奴隷だって嫌に決まってるだろ……」
「そうだったっけ? じゃあ、あと一回だけやろう」
「嫌だって……あ……んん……」
「ほら、背中……めちゃくちゃ感じるくせに」
一晩中の愛撫で、もうすっかり獅貴に開発されたようで、色んな所が感じる体になってしまった。
背中を舐められながら、乳首をイジられたら、声が止まらない。
朝からやられた……。
おかげで夕方まで爆睡するはめになった。
◆◇◆
「弟が心配だ。一度家に帰る」
「じゃあ、兎和の家でいいんだね?」
帰りの車内での会話だ。
まだ腰は辛いけれど、そんな事は言っていられない。
今日のバイトが夕方からでよかった。
獅貴は、帰りの車内では、ずっと手を握ってくれていた。
「車が苦手なのも、事故の影響だったんだ……」
「手を繋いでもらわないとダメだなんて恥ずかしいよな」
「それって、手を繋いでいれば大丈夫なわけ?」
「車にはほとんど乗らないから、わからない」
「なるほどね」
家に着いて、車から降りたら獅貴も降りてきた。
「どうしたんだ?」
「見送りだよ」
「ははっ。奴隷の見送り?」
「いいだろ」
少し恥ずかしそうにする獅貴に笑ってしまう。
しばらく話していたら、後ろから誰かにグイッと腕を引かれた。
「兄さん! 心配したんだ! どこに行ってたんだ⁉︎ 車に乗ったのか⁉︎」
心配そうにする豹だった。
「心配掛けてごめん。連絡した通り、同級生の家にいた。大丈夫だから」
ポンポンと頭を叩いてやれば、ホッと息を吐き出した。
豹は、そこにいた獅貴を睨む。
「兄さんを勝手に連れ出さないで下さい」
「ああ……ごめんね?」
悪いと思っていない謝り方に苦笑いだ。
「豹、今回だけだよ」
「本当?」
「え? そんなわけないじゃん」
獅貴の反論に顔を引きつらせる。
「獅貴……話がややこしくなるから口を出すなよ」
「獅貴って──神宮寺獅貴?」
「お? 僕を知っている?」
「ええ。中等部でも有名ですよ。ヤリチンだって」
その通りで笑ってしまう。
「兎和、今は違うからな」
「どうして俺に言い訳するんだ? その通りだろ?」
「違う!」
「どうでもいいよ! あんたみたいな人が兄さんに近付くなよ!」
豹にグイッと引っ張られて家へ足を進める。
「豹、そんな言い方したらダメだ。獅貴、また月曜に」
「明日は?」
「バイト!」
ガックリと項垂れる獅貴に手を振って家に入った。
バイトに行く準備をする。
昨日の服のままだ。服を着替えないと。
豹は、着替えていた背後にやってきた。
「兄さん……なんであんなやつと一緒にいたの?」
「色々あってさ」
奴隷になったとは言えない。
「車で大丈夫だったの?」
「ああ……獅貴がいたから……」
手の温もりが蘇るようで微笑む。
服を脱いだら、胸元にキスマークを発見して慌てて別の服を着た。
「もしかして、傷の事も話したの?」
「話したよ」
豹が服の上から背中の傷痕にそっと触れてきた。
「ごめんね……兄さん……」
「豹のせいじゃないだろ?」
「でもっ──! 押しつぶされたシートから、僕を庇って出来た傷だ」
「豹が気にするなら消してやりたいんだけれど、お金も掛かるし、完璧に消す事は出来ないらしくて……」
「このままでいいよ! 僕は嫌じゃない……」
「だったら、謝らなくていい」
豹の方を向いて、慰めるようにポンポンと頭を叩いてやる。
「僕は何も覚えていないから……気付いた時には兄さんが庇ってくれてた……」
「寝ていて良かったんだ。お前が無事で良かったよ」
「兄さん……」
ギュッと抱きついてくる。
慰めるように背中を上下に撫でてやる。
まだまだ甘えん坊だ。
「ははっ。ほら、バイトに間に合わなくなる」
「うん……今日は帰ってきてよ? ご飯作ってある。食べてって」
「いつもありがとう」
豹の美味しいご飯を食べて、すぐにバイトに行った。
俺は、豹を守って背中に傷を負った事を後悔した事はない。
でも、豹は傷の事を気にしているみたいだった。
たった二人きりの兄弟だ。
そんな豹の為なら、奴隷だって我慢できる。
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