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「今日の夕飯は何がいいかなぁ?」
私の手を握って、そう問いかけてくるあの人。最近のあの人はすこぶる機嫌がいい。家にいる間は基本的に私の体の一部に触れている。
あの人は、私の足から鎖を外した。どういう心境の変化かわからないけれど、私も足が軽くなってありがたい。また迷うといけないから外へは出ないようにしていた。もし猪や熊と出くわしたら危険だし、何より帰り道なんてわからない。危ない目に遭うかもしれないなら、大人しく天使様のそばにいるのが一番だ。
「外を見て?日差しがすごく綺麗。……少し一緒に歩かない?」
「……うん」
ここに連れてこられた時に履いていた通勤用のパンプスと、あの人が用意した服はアンバランスだったけれど、誰も見ていないからどうでもよかった。
「行こう」
あの人が差し出してくる手を取って、玄関から外へ踏み出す。外の空気と日差しが新鮮だった。鳥の声が直に聞こえて、窓越しに聞こえるのとはまるで異なる音に聞こえた。振り返ると、見えづらいけれど二階のあの部屋の窓に天使様がいるのが分かる。ほんの少しの散歩だろうけど、それでも天使様と離れるのは不安だった。
「あっ、見て!リスがいるよ!」
あの人が指差す方を見ると、確かにリスが木を登っているところが見えた。小さくてふわふわの体に大きな尻尾。一生懸命木を駆け上がる様子は可愛いと思った。自然と口元が緩んでいたのだろう。あの人は私の顔を見て嬉しそうに笑った。
「こうして二人きりでデートするのって、初めてだね」
草花や動物、昆虫を見ると癒された。今まであの家に一人きりだと思っていたけれど、家の周りにはいろんないきものがいる。きっと天使様は、私だけでなく全ての命を見守ってくださっている───そのことに気がつくと、天使様に最も近い場所にいられる自分はなんて恵まれているんだろうと思った。
「その靴じゃ、疲れるよね……そろそろ帰ろっか」
久々にこんなに歩いたから足が痛い。来た道を引き返しながら、あの人は嬉しそうに話し続ける。
「君を連れて行きたいところがあるんだ」
「……どこ?」
「ふふっ、内緒!行ってみてのお楽しみだよ」
家が見えてきた。天使様は、家を出た時と変わりなくあの部屋にいる。よく見れば家の周りにもチラホラと花が咲いていて、気持ちよさそうに日差しを浴びながら風に揺らされていた。
家の中に入ると、燦々と降り注いでいた太陽の光は届かなくなり、そのせいか部屋の中はやけに暗く感じる。自然の香りのする新鮮な空気も感じない。扉がパタンと閉じた後、間髪入れずに鍵をかける音がして、外界と切断されたことを悟った。
私の手を握っていたあの人の腕が、腰から背中へ移動する。
「汗かいたね、シャワー浴びよっか。……一緒に」
きっと、今も獲物を見るような目で私を見ているのだろう。でも、平気だ。天使様の守る家に戻って来られたのだから、痛みも気持ち悪さも耐えられる。
「うん」
頷いた私を見て、あの人は口の端を歪めて笑った。痛いくらいに腕を引っ張って、私を浴室へ連行する。
素早く服を脱いで一糸纏わぬ姿になったあの人は、色白でほっそりとしているのに少し恐ろしく感じた。
「早くおいで?僕が背中を流してあげる」
怖くない。私は平気。天使様が守ってくれるから。
「うん、今行く」
終わったら部屋に戻れる。終わったらまた天使様の顔を見ることができる。終わったら私は自由になれる。
服を脱いで浴室へ足を踏み入れると、すぐにあの人の腕が伸びてきて私を捕らえた。
私の手を握って、そう問いかけてくるあの人。最近のあの人はすこぶる機嫌がいい。家にいる間は基本的に私の体の一部に触れている。
あの人は、私の足から鎖を外した。どういう心境の変化かわからないけれど、私も足が軽くなってありがたい。また迷うといけないから外へは出ないようにしていた。もし猪や熊と出くわしたら危険だし、何より帰り道なんてわからない。危ない目に遭うかもしれないなら、大人しく天使様のそばにいるのが一番だ。
「外を見て?日差しがすごく綺麗。……少し一緒に歩かない?」
「……うん」
ここに連れてこられた時に履いていた通勤用のパンプスと、あの人が用意した服はアンバランスだったけれど、誰も見ていないからどうでもよかった。
「行こう」
あの人が差し出してくる手を取って、玄関から外へ踏み出す。外の空気と日差しが新鮮だった。鳥の声が直に聞こえて、窓越しに聞こえるのとはまるで異なる音に聞こえた。振り返ると、見えづらいけれど二階のあの部屋の窓に天使様がいるのが分かる。ほんの少しの散歩だろうけど、それでも天使様と離れるのは不安だった。
「あっ、見て!リスがいるよ!」
あの人が指差す方を見ると、確かにリスが木を登っているところが見えた。小さくてふわふわの体に大きな尻尾。一生懸命木を駆け上がる様子は可愛いと思った。自然と口元が緩んでいたのだろう。あの人は私の顔を見て嬉しそうに笑った。
「こうして二人きりでデートするのって、初めてだね」
草花や動物、昆虫を見ると癒された。今まであの家に一人きりだと思っていたけれど、家の周りにはいろんないきものがいる。きっと天使様は、私だけでなく全ての命を見守ってくださっている───そのことに気がつくと、天使様に最も近い場所にいられる自分はなんて恵まれているんだろうと思った。
「その靴じゃ、疲れるよね……そろそろ帰ろっか」
久々にこんなに歩いたから足が痛い。来た道を引き返しながら、あの人は嬉しそうに話し続ける。
「君を連れて行きたいところがあるんだ」
「……どこ?」
「ふふっ、内緒!行ってみてのお楽しみだよ」
家が見えてきた。天使様は、家を出た時と変わりなくあの部屋にいる。よく見れば家の周りにもチラホラと花が咲いていて、気持ちよさそうに日差しを浴びながら風に揺らされていた。
家の中に入ると、燦々と降り注いでいた太陽の光は届かなくなり、そのせいか部屋の中はやけに暗く感じる。自然の香りのする新鮮な空気も感じない。扉がパタンと閉じた後、間髪入れずに鍵をかける音がして、外界と切断されたことを悟った。
私の手を握っていたあの人の腕が、腰から背中へ移動する。
「汗かいたね、シャワー浴びよっか。……一緒に」
きっと、今も獲物を見るような目で私を見ているのだろう。でも、平気だ。天使様の守る家に戻って来られたのだから、痛みも気持ち悪さも耐えられる。
「うん」
頷いた私を見て、あの人は口の端を歪めて笑った。痛いくらいに腕を引っ張って、私を浴室へ連行する。
素早く服を脱いで一糸纏わぬ姿になったあの人は、色白でほっそりとしているのに少し恐ろしく感じた。
「早くおいで?僕が背中を流してあげる」
怖くない。私は平気。天使様が守ってくれるから。
「うん、今行く」
終わったら部屋に戻れる。終わったらまた天使様の顔を見ることができる。終わったら私は自由になれる。
服を脱いで浴室へ足を踏み入れると、すぐにあの人の腕が伸びてきて私を捕らえた。
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