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「足、傷だらけだよ……どうして急に裸足で飛び出して行ったりしたの?」

私の足元に座り込んだあの人は、消毒をしながら困ったような声でそう言った。
この家に戻されてからすぐ、あの人に言われてシャワーを浴びた。こんなところで無防備な格好になるのは不安だったけれど、身体中汗や土でドロドロだったから、汚れを落とせるのはありがたかった。それでも手早く全身を洗ってすぐに浴室から出たけれど。

「……なんでこんなことしたんですか?」
「え?」

顔をあげて私の目を見るあの人の表情は子どものように無垢で、キョトンとしていた。夜道で人を襲っただなんて信じられないような、真っ直ぐな瞳。その目を見ているのがつらくて視線を逸らすと、あの人は私の足の手当てを続けながら語り始めた。

「君をここに連れてきたこと?」
「…………」
「僕はただ、君を守りたかったんだ」

優しい手つきで足にガーゼを当て、包帯を巻いている。彼の後頭部に石を叩きつけた手と、今こうして私の足を労る手が同じだなんて、どうしても信じられない。

「守りたかったって……何からですか?」

少し怒気を含んだ私の声に戸惑っているのか、こちらを向いた顔は眉が下がっている。まるでこっちが悪いことをしているような気分になって、益々苛立った。

「あの男だよ。君を困らせてたでしょ?本当は殴る気なんてなかったけど……君をここに連れてくるためには、邪魔になりそうだったから……」

淡々と紡がれた言葉が耳から脳に到達すると、まるで猛毒のように私を蝕んでいくような感覚を覚えた。

彼から私を守りたかった?邪魔になりそうだった?

頭がぐらぐらして、喉のあたりが気持ち悪くなってくる。人と話をしているだけで吐きそうになるなんて初めてだ。

「最低……分かってるんですか?犯罪ですよ、これ……」
「は……犯罪って……どうして……?」

まるで私が訳のわからないことを言っているような反応に、もう我慢の限界だった。
なんで彼氏と帰ってただけなのに誘拐されないといけないの?私や彼が、何をしたっていうの?

「い……いい加減にしてよ!!私を帰して!!」
「お、落ち着いて……ね?」
「なんで……なんで彼を殴ったりしたの!!彼が死んだら許さないから!!」

涙がボロボロ溢れてきて、そんな姿を見られるのは悔しかったけれど、それでも睨み続けた。
もう、この人は同僚でもなんでもない。ただの犯罪者だ。絶対に許せない。

「……あいつが心配なの?」

そう言ったあの人の声は、やけに冷静だった。さっきまでの戸惑っていた様子が消えている。一瞬不思議に思ったけどそれよりも怒りの方がずっと強くて、違和感は無視してしまった。

「当たり前でしょ!好きなんだから!」
「…………」

喉が痛むくらいの声を出したのに、私の怒鳴り声なんて聴こえていないみたいに、あの人はだだじっと私を見つめていた。昨日までは普通の同僚だと思ってたのに、もう宇宙人を見ているようだ。
不意にあの人の腕が伸びてきて、そっと身体を持ち上げられた。

「……あいつのことは、もう気にしなくて大丈夫だから」
「ちょっと……放して!」

あの人は私を抱えたまま、黙って階段を登っていく。またあの派手な部屋に連れてこられて、ソファに座らされた。

「気持ちが落ち着くまで、ここにいてね」
「え……っ」

引き出しから何か持ってきたと思ったら、暴れる私の足を抑えて金属の輪っかを取り付けた。輪っかからは鎖が伸びていて、その先をベッドの柱に固定している。

「喉が渇いた時や、トイレに行きたいときは遠慮せず言ってね?」

あの人はまたいつもの穏やかな表情に戻っていて、もう気が狂いそうだった。
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