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エピローグ
第四百六十二話 悪魔の帰る場所
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「今、何とおっしゃいましたか?」
フォルティシモは地下都市ホーンディアンにある神社で、大勢のデーモンたちを前にしていた。デーモンたちは最強の神に至ったフォルティシモに傅いており、フォルティシモが話し始めるまでは緊張に包まれていたのだけれど、話を始めたら戸惑いが強くなっていた。
デーモンたちは大氾濫でフォルティシモの作戦に従ってくれただけでなく、フォルティシモがオウコーの奸計によって異世界ファーアースから追放された後も、キュウやピアノ、アルティマのために戦ってくれた。
約束以上のことをしてくれたのだから、約束以上のものを返すのがフォルティシモの流儀である。
「だから、お前たちの認識で、時間を遡って千年前に返してやれる。そして『神戯に選ばれなかった世界』で暮らしていくこともできるぞ」
デーモンたちが再び首を捻った。
フォルティシモが話しているのは時間遡行に分岐世界という概念で、理解し難いのも仕方がない。ここは科学がそれほど発達していない世界なので、SFの書籍などほとんどないだろう。決して、そう決して、フォルティシモの説明が下手な訳ではないのだ。
「簡単に言うと、神戯が始まる前に帰れるってことさ」
フォルティシモの代わりにトッキーが口を挟んできた。
「年齢は若返る。知識や記憶は各々の願いを聞き入れよう。大サービスで力はそのままだ」
「この千年で、死んだ者たちは?」
「もちろん過去で生き返る」
「そんな都合の良すぎることが、可能、なのでしょうか?」
「ああ、フォルさん負担だから、何でもオッケーさ」
デーモンたちは現状を信じられないようで、何度もフォルティシモとトッキーに確認をする。
「おめでとう。君たち角付きの千年の戦いは無駄ではなかった。時間も場所も、本当の意味で、母なる大地を取り戻したんだ」
実際は、そんな単純な話ではない。創作物の中ではいとも簡単に行われる過去改変は、現実では不可能なのだ。少なくとも“始まり”なる存在が産み出した世界では、過去は絶対不変である。
だからフォルティシモとトッキーが提案しているものも、事実とは少しばかり異なる。しかし詳細をデーモンたちへ伝えるつもりはなかった。
それでも、デーモンたちの“主観”では真実になるものだ。
トッキーがフォルティシモの横で拍手をすると、デーモンたちから歓喜と安堵の声が聞こえてきた。老人デーモングラーヴェたちなど、地面に座り込んで泣いている。
「で、ではっ、今すぐにでも!」
フォルティシモたちの気が変わらない内にと考えているのか、逸る気持ちを抑えられないのか、デーモンたちが前のめりに集まって来た。
「待て、まだ問題がある」
「問題とおっしゃいますと?」
「神戯が始まってから、この千年の間に生まれた奴とか、この生活しか知らない奴ら、戻りたくない奴らをどうするかだ」
グラーヴェを中心とした、年齢が高いデーモンたちは比較的若そうなデーモンたちを振り返った。彼らの間には微妙な空気が渦巻いている。
千年の時間があったのだ。デーモンたちはエルフのように長命の種族だと言っても、子供もできるし、生活に慣れれば戻りたいと考えない者もいる。
それに千年前のファーアースの元となった世界は滅びる寸前で、生活そのものも良いとは言えなかったらしい。その辺りにもデーモンたちが地下生活を耐えられた理由があるのだろう。
対して、この新しい世界『ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモ』は確実に栄える。
最強の神となったフォルティシモに、大勢の御使いや信者。同盟を結ぶ神々。ここに残れば、千年前に帰るよりもよっぽど裕福な生活ができるに違いない。
「俺が提示したのは、あくまで道の一つだ。強制するつもりも、全員同じ道を選べとも言わない。帰りたいと言う奴だけ、返してやる。友人や家族とよく話し合って、どうしたいか決めてくれ」
フォルティシモはデーモンたちの結論を急がせるつもりもなかったので、代表としてグラーヴェへ話が終わったら連絡をするように言ってホーンディアンの神社を後にした。
それから『浮遊大陸』へ戻る前に、古い友人へ声を掛けていく。
「で、お前はどうするんだ、プレスティッシモ」
VRMMOファーアースオンラインでトッキーのチームのエースにして、課金とプレイ時間でフォルティシモに最も迫ったプレイヤー、プレスティッシモ。
その中の人であるプレストは、千年前から神戯に抵抗をし続け、近衛天翔王光やディアナ、時の男神などと出会い、その戦いを変遷させて来た角付きの女性だ。
今は武者鎧を脱ぎ捨てて、キャラクターもののTシャツにシックな上着、ジーパンという現代リアルワールドっぽい装いをしていた。
そんな格好でファンタジー全開の地下都市ホーンディアンにある空洞の前に立っているものだから、違和感というよりも観光客というほうがしっくりくる。
「仲間になれとは言ったが、お前も『千年前の世界』に帰りたいなら、それで良いぞ。ただし、帰る前にアルと決着を付けさせるけどな」
VRMMOファーアースオンラインの頃は、プレスティッシモに何度も大ダメージを受けたアルティマだったけれど、異世界ファーアースのそれはまったく意味が違う。
アルティマもフォルティシモも、再戦の機会がなければ納得できない。
「最強神の従属神となったアルティマ・ワンとの一騎打ちか。もはや某に勝ち目などあるまい」
「何を言ってる? 相手の勝ち目をゼロにしてから戦うのが、正しい戦術だぞ。千年前に帰るなら、アルに負けろ」
「フォルティシモ殿らしいな」
フォルティシモはプレストが立っていた空洞へ視線を移した。
「なんだ、この空洞? ファーアースオンラインなら取り敢えず入ってみたくなる見た目だな」
「何もない。強いて言うのであれば、千年前、某が同族から疎まれ、裏切り者と蔑まれた頃、休む場所として使っていた」
「お前な、よくそれで何もないとか言えたな」
「某は最初からはみ出し者だ」
角付きたちは太陽神ケペルラーアトゥムから故郷の大地を奪われて、一致団結して戦っていた訳ではない。人間三人集まれば派閥ができると言われるように、どんな状況でも社会に適用できない者が現れる。
それは現代リアルワールドの近衛翔で、VRMMOファーアースオンラインのフォルティシモで、デーモンのプレストだった。
「千年前へ戻れば、お前の家族や婚約者も、生きてるんだぞ?」
「皆はそうだろう。しかし、某は違う。某は、家族や友人が思ってくれた某ではない。フォルティシモ殿は、すべての悲劇を覆せる過去へ戻るか?」
もし近衛翔が今の記憶を持ったまま、誘拐人質事件の起きる前へ戻れたと仮定する。
両親へ誘拐人質事件の発生を知らせ、逃れるように伝えるべきだろうか。
タイムパラドックスは置いておいて、少なくとも最強神フォルティシモに成ることも、キュウやラナリアたちと出会うこともない人生を歩む。
どちらを選ぶか。
キュウやラナリアたち、従者や世界の人々全員を捨てて、両親が生きている普通の人間の生活を選ぶのか。
そんな問いかけなのかも知れない。
フォルティシモはあえて答えなかった。
「某は残る。もはや過去を惜しむ時間は終わった。これよりは未来を見る」
「そうか。俺に協力してくれるってことで良いんだよな?」
「当然だ」
フォルティシモはその答えを聞ければ十分だったので、その場を立ち去ろうとした。しかし、やはり念を押しておくことにする。
「アルとの戦いはやって貰うぞ」
「相変わらずだ。承知した。せいぜい手加減してくれるように伝えてくれ」
「アルは俺の従者だ」
フォルティシモはちょっとだけ得意げに、かつての最大のライバルへ笑いかけた。
フォルティシモは地下都市ホーンディアンにある神社で、大勢のデーモンたちを前にしていた。デーモンたちは最強の神に至ったフォルティシモに傅いており、フォルティシモが話し始めるまでは緊張に包まれていたのだけれど、話を始めたら戸惑いが強くなっていた。
デーモンたちは大氾濫でフォルティシモの作戦に従ってくれただけでなく、フォルティシモがオウコーの奸計によって異世界ファーアースから追放された後も、キュウやピアノ、アルティマのために戦ってくれた。
約束以上のことをしてくれたのだから、約束以上のものを返すのがフォルティシモの流儀である。
「だから、お前たちの認識で、時間を遡って千年前に返してやれる。そして『神戯に選ばれなかった世界』で暮らしていくこともできるぞ」
デーモンたちが再び首を捻った。
フォルティシモが話しているのは時間遡行に分岐世界という概念で、理解し難いのも仕方がない。ここは科学がそれほど発達していない世界なので、SFの書籍などほとんどないだろう。決して、そう決して、フォルティシモの説明が下手な訳ではないのだ。
「簡単に言うと、神戯が始まる前に帰れるってことさ」
フォルティシモの代わりにトッキーが口を挟んできた。
「年齢は若返る。知識や記憶は各々の願いを聞き入れよう。大サービスで力はそのままだ」
「この千年で、死んだ者たちは?」
「もちろん過去で生き返る」
「そんな都合の良すぎることが、可能、なのでしょうか?」
「ああ、フォルさん負担だから、何でもオッケーさ」
デーモンたちは現状を信じられないようで、何度もフォルティシモとトッキーに確認をする。
「おめでとう。君たち角付きの千年の戦いは無駄ではなかった。時間も場所も、本当の意味で、母なる大地を取り戻したんだ」
実際は、そんな単純な話ではない。創作物の中ではいとも簡単に行われる過去改変は、現実では不可能なのだ。少なくとも“始まり”なる存在が産み出した世界では、過去は絶対不変である。
だからフォルティシモとトッキーが提案しているものも、事実とは少しばかり異なる。しかし詳細をデーモンたちへ伝えるつもりはなかった。
それでも、デーモンたちの“主観”では真実になるものだ。
トッキーがフォルティシモの横で拍手をすると、デーモンたちから歓喜と安堵の声が聞こえてきた。老人デーモングラーヴェたちなど、地面に座り込んで泣いている。
「で、ではっ、今すぐにでも!」
フォルティシモたちの気が変わらない内にと考えているのか、逸る気持ちを抑えられないのか、デーモンたちが前のめりに集まって来た。
「待て、まだ問題がある」
「問題とおっしゃいますと?」
「神戯が始まってから、この千年の間に生まれた奴とか、この生活しか知らない奴ら、戻りたくない奴らをどうするかだ」
グラーヴェを中心とした、年齢が高いデーモンたちは比較的若そうなデーモンたちを振り返った。彼らの間には微妙な空気が渦巻いている。
千年の時間があったのだ。デーモンたちはエルフのように長命の種族だと言っても、子供もできるし、生活に慣れれば戻りたいと考えない者もいる。
それに千年前のファーアースの元となった世界は滅びる寸前で、生活そのものも良いとは言えなかったらしい。その辺りにもデーモンたちが地下生活を耐えられた理由があるのだろう。
対して、この新しい世界『ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモ』は確実に栄える。
最強の神となったフォルティシモに、大勢の御使いや信者。同盟を結ぶ神々。ここに残れば、千年前に帰るよりもよっぽど裕福な生活ができるに違いない。
「俺が提示したのは、あくまで道の一つだ。強制するつもりも、全員同じ道を選べとも言わない。帰りたいと言う奴だけ、返してやる。友人や家族とよく話し合って、どうしたいか決めてくれ」
フォルティシモはデーモンたちの結論を急がせるつもりもなかったので、代表としてグラーヴェへ話が終わったら連絡をするように言ってホーンディアンの神社を後にした。
それから『浮遊大陸』へ戻る前に、古い友人へ声を掛けていく。
「で、お前はどうするんだ、プレスティッシモ」
VRMMOファーアースオンラインでトッキーのチームのエースにして、課金とプレイ時間でフォルティシモに最も迫ったプレイヤー、プレスティッシモ。
その中の人であるプレストは、千年前から神戯に抵抗をし続け、近衛天翔王光やディアナ、時の男神などと出会い、その戦いを変遷させて来た角付きの女性だ。
今は武者鎧を脱ぎ捨てて、キャラクターもののTシャツにシックな上着、ジーパンという現代リアルワールドっぽい装いをしていた。
そんな格好でファンタジー全開の地下都市ホーンディアンにある空洞の前に立っているものだから、違和感というよりも観光客というほうがしっくりくる。
「仲間になれとは言ったが、お前も『千年前の世界』に帰りたいなら、それで良いぞ。ただし、帰る前にアルと決着を付けさせるけどな」
VRMMOファーアースオンラインの頃は、プレスティッシモに何度も大ダメージを受けたアルティマだったけれど、異世界ファーアースのそれはまったく意味が違う。
アルティマもフォルティシモも、再戦の機会がなければ納得できない。
「最強神の従属神となったアルティマ・ワンとの一騎打ちか。もはや某に勝ち目などあるまい」
「何を言ってる? 相手の勝ち目をゼロにしてから戦うのが、正しい戦術だぞ。千年前に帰るなら、アルに負けろ」
「フォルティシモ殿らしいな」
フォルティシモはプレストが立っていた空洞へ視線を移した。
「なんだ、この空洞? ファーアースオンラインなら取り敢えず入ってみたくなる見た目だな」
「何もない。強いて言うのであれば、千年前、某が同族から疎まれ、裏切り者と蔑まれた頃、休む場所として使っていた」
「お前な、よくそれで何もないとか言えたな」
「某は最初からはみ出し者だ」
角付きたちは太陽神ケペルラーアトゥムから故郷の大地を奪われて、一致団結して戦っていた訳ではない。人間三人集まれば派閥ができると言われるように、どんな状況でも社会に適用できない者が現れる。
それは現代リアルワールドの近衛翔で、VRMMOファーアースオンラインのフォルティシモで、デーモンのプレストだった。
「千年前へ戻れば、お前の家族や婚約者も、生きてるんだぞ?」
「皆はそうだろう。しかし、某は違う。某は、家族や友人が思ってくれた某ではない。フォルティシモ殿は、すべての悲劇を覆せる過去へ戻るか?」
もし近衛翔が今の記憶を持ったまま、誘拐人質事件の起きる前へ戻れたと仮定する。
両親へ誘拐人質事件の発生を知らせ、逃れるように伝えるべきだろうか。
タイムパラドックスは置いておいて、少なくとも最強神フォルティシモに成ることも、キュウやラナリアたちと出会うこともない人生を歩む。
どちらを選ぶか。
キュウやラナリアたち、従者や世界の人々全員を捨てて、両親が生きている普通の人間の生活を選ぶのか。
そんな問いかけなのかも知れない。
フォルティシモはあえて答えなかった。
「某は残る。もはや過去を惜しむ時間は終わった。これよりは未来を見る」
「そうか。俺に協力してくれるってことで良いんだよな?」
「当然だ」
フォルティシモはその答えを聞ければ十分だったので、その場を立ち去ろうとした。しかし、やはり念を押しておくことにする。
「アルとの戦いはやって貰うぞ」
「相変わらずだ。承知した。せいぜい手加減してくれるように伝えてくれ」
「アルは俺の従者だ」
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