上 下
440 / 509
第九章

第四百三十九話 従属神の戦い 後編

しおりを挟む
> 従者マグナが従属神マグナに進化しました
> クラスアップ【鍛冶神】

 五番目の従者マグナの戦場は考えるまでもない。

 『浮遊大陸』フォルテピアノ国にある鉄火場だ。

 元々従者マグナが作成された理由は、フォルティシモの装備を用意するためであり、最高の装備を作ることが至上命題である。

 今のマグナは従属神ながら神としての権能を扱える。

 またマグナは神に到達する前からドワーフたちを中心に鍛冶神と呼ばれていた。ドワーフを初めとした鍛冶師たちは今も鍛冶神マグナへの信仰を捧げていて、マグナ自身が使える信仰心エネルギーが流れ込んでくるのだ。

 神としてのマグナが、その腕を振るえば―――。

「お、お師匠おおおぉぉぉ、どこいっていたのけぇぇぇ!」

 鉄火場へ戻って来た途端、一番弟子エイルギャヴァが泣きながら抱きついて来た。この鉄火場で働く大勢の鍛冶師たちも、一斉に手を止めてマグナを注視する。彼らは大氾濫で消費されるアイテムの製造と修復を引き受けていて、大氾濫が始まってからずっと鉄火場へ詰めてくれていた。

 だからエイルギャヴァは突然姿を消したマグナを心配していた、のではない。彼女たちは神戯の詳しいことなど分からないし、理解しようともしない。彼女たちが目指すのは最高の武具を作ることだけ。

「もう、三日! 三日、寝ずに世界中から届けられる武具を修復しているのけ! 限界、限界なのけ! そんななのに、どうしてお師匠がいなくなるのけ!?」
「あー、まあ悪かった。ちょっとフォルさんの用事が」
「そんなの断れば良いのけ!」
「逞しくなったな」

 弟子は師に似るというべきか。エイルギャヴァはすっかりマグナに似てきた気がする。

 マグナはお気に入りのバンダナを頭に巻き、愛用の槌を手に持った。

「あ、そうだ、エイルギャヴァ」
「なんなのけ?」
「私と初めて会った時、エイルギャヴァが言った言葉、覚えてる?」
「お師匠との出会いを忘れるはずがないのけ」

 マグナは表情に笑みを作る。

 マグナがエイルギャヴァと初めて出会ったのは、キュウと一緒に鍵盤商会を訪れてダアトと喧嘩をしていた時だった。

 あの時、エイルギャヴァはたしかに言った。

「夢見た先、私にもあった」

 本物の神へ到達した鍛冶神マグナは、その日、伝説になった。

 一番弟子エイルギャヴァを始めとして、幾人もの鍛冶師の心を再びへし折ってしまい、復帰するのに時間が掛かったのはまた別の話だ。



 ◇



> 従者ダアトが従属神ダアトに進化しました
> クラスアップ【財福神】

 四番目の従者ダアトは、この最高最低の状況を何とかしなければと燃え上がった。

 大氾濫で様々な装備や薬を用意し、完全バックアップ体制をしていた鍵盤商会だが、予想外の事態の連発に加え、フォルティシモと会長ダアトの行方不明が重なり混乱を極めている。後輩キュウとラナリアがフォローをしてくれたのが、ギリギリで持ちこたえている理由だろう。

 しかし、そのせいで戦場に必要な物資が届いていない。

 商売において最も価値のある商品は、信頼だ。

 鍵盤商会は信頼という商品を、発足当初から大安売りで売り続けていた。一部の王侯貴族や同業他社から蛇蝎の如く嫌われようとも、フォルティシモとラナリアを盾にして売り続けた。

 だから冒険者の中には鍵盤商会製以外購入しない者もいるし、各国の軍隊へ卸しているし、最近は戦後を見据えて日常生活に役立つアイテムまで手を伸ばしている。買収なんて当たり前、応じない相手がいればフォルティシモがガチャしたアイテムやマグナが作ったアイテムを安価で売り捌き、時には相場操作を行い、独占禁止法がない世界で好き勝手やった。

 しかしこの信頼という商品が厄介なところは、開封後の消費期限が生鮮食品並みの点である。こんな危機的状況で物が届かないなど、あってはならない。

 そして何よりも優先するべき問題がある。

 今、売らなければ大量の不良在庫を抱えることになってしまう。

「従業員共! ここが分水嶺だ! 世界の人間すべてがプレイヤーになった今、すべての取引をログに残せる! 口約束でも良い! 在庫をすべて吐き出すつもりで動け!」
『『『承知しました会長!』』』

 フォルティシモはこれから<時>の神々や近衛天翔王光と戦うのだろう。他の従者たちはそのために各地を補佐し、フォルティシモが守ると約束したものを守るはずだ。

 だがダアトは違う。フォルティシモを踏み台にして鍵盤商会のために動く。

 この世界において最高の富豪最強はダアトだ。

 そんなダアトは誰よりもフォルティシモの従者らしいと言えるかも知れない。

「このフォルさんが頭のおかしい行動の果てに得た神の力、私が、有効活用しますよ!」

 ダアトは世界中に無数の【転移】ポータルを出現させた。情報ウィンドウで調べればどこがどこへ繋がっているのか、今のNPCたちなら理解できるだろう。

「まずは移動と流通を抑える」

 そしてダアトは自らの従者、孫従者、曾孫従者、子孫従者たちとネットワークを構築していく。鍵盤商会の全情報を集める基幹システムの役割を、神となったダアトが行うのだ。

「あ、あああ! あったま痛い!? くっそ、神に成ったら何でもできるんじゃないの!? フォルさん! 聞こえますか! 緊急じゃないけど緊急事態です! 私のスペックをもっと上げてください!」



 ◇



> 従者セフェールが従属神セフェールに進化しました
> クラスアップ【救世神】

 三番目の従者セフェールは、またえらく掛け離れた名称を付けられたものだと思った。

 そもそもセフェールという名前も、ラテン語における書物、特に聖書の意味で名付けられている。何とも不相応この上ない名前である。

 救世、聖書なんて意味を自作のハッキングAIに付けるフォルティシモの感性は、どうかしているに違いない。AIこそが世界を救い、新たな教えになるとでも思っているのだろうか。

 今のセフェールは一つの魂で二つの身体を操作している。一つはこの救世神セフェールという少女、もう一つは地下にある量子コンピューターセフェールだ。

「はてさて何をしましょうかねぇ」

 セフェールはキュウの護衛が役割のほとんどで、人付き合いは最低限だった。今のキュウはセフェールの護衛が必要な状態ではないだろう。ならここで助けに行くような人物はいないし、守りたい場所も特にない。

 それに今のNPC、デーモン、エンジェルたちは死んでもセーブポイントへ戻るだけなので、無理にヒーラー役をやる必要もなかった。

「相変わらず、最強な人の便利ヒーラーは、とっても暇な役割ですねぇ」

 そう言えばキュウと出会った頃、自分こそ従者の中で一番の暇人だと自己紹介した気がする。最近は異世界ファーアースの状況のせいで忙しかったけれど、元へ戻ったのだ。

 ならせめてこの戦いを見届けて、最強神の聖書セフェールに記録するとしようか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...