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第九章

第四百三十四話 FEO・VFF カイル編

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 <青翼の弓とオモダカ>を中心とした冒険者たちは、突如現れた神々プレイヤーと戦った。彼らは戦場に現れて、説得や交渉の余地もなく襲い掛かってきたのだから、戦う以外の選択肢がなかった。

 さらにプレイヤーの力は、大氾濫の魔物など比べられないほどの強大さで、彼らの知るフォルティシモと同等かそれ以上。戦って勝てるような相手ではなかった。

 彼らの前に現れたプレイヤーは、警告や手加減などを考えず、容赦なく冒険者たちを虐殺していった。

 それは<青翼の弓とオモダカ>も同じだ。

 冒険者たちの先頭を切った剣士サリスは、一刀の内に胴を切断された。

 時間を稼ぐと言ってくれた斧使いデニスはその斧ごと真っ二つになった。

 ノーラは蘇生魔術を体得しているフィーナだけでも逃がそうと、全力の魔術を使い、それ以上の魔術で消し炭になった。

 カイルの幼馴染みエイダは、有りっ丈の強化魔術をカイルとフィーナに掛けた後に心臓を一突きにされた。

 カイルも全力で抵抗しようとしたけれど、回復役を担うフィーナを先に襲われ、そのすぐ後にカイル自身も絶命した。

「みんな、ごめん、フォルティシモ、どうか、お願いだっ、俺はいい。けど、みんなを、助けてくれっ」

 カイルは死の間際、届かないことが分かっていて心の中で絶叫をあげる。

 それでも最強への祈りは届いた。



> ようこそ! ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモへ!



「ん?」

 カイルは身体の痛みがまったくないことに気が付いて、意識も断絶していないことを不思議に思った。

 こう見えて、カイルは地獄を見た経験がある。

 それは自ら進んでフォルティシモの実験台になった経験だ。何だかんだ言いつつ、最低限の倫理観を持つフォルティシモができなかった人体実験に自ら志願した。

 【隷従】や【蘇生】などの法則システムを理解するため、精神的な苦痛や肉体的な死に、ちょっと類を見ない経験を積んでいるのだ。

 そのカイルの感覚では、殺された時の痛みや恐怖もなく死んでもいない、ような気がする。

 今際の際の夢でも見ているのかと考え周囲を見回すと、そこはアクロシア王国王都にある宿屋だった。

 窓は出発前に閉めたままで、部屋は大氾濫へ向かう前に身辺整理をしたお陰で綺麗なものだ。殺風景にも思える一室のテーブルの上には、遺書と書かれたカイル直筆の手紙が載っている。

 この宿屋は<青翼の弓>が拠点として使っている宿であり、一般的な冒険者では自分たちのホームを持つのと変わらない金額を毎月払っている。<青翼の弓とオモダカ>は半数がアクロシア王都に自宅があるため、ホームを持つべきかどうか迷っていた。

「夢?」

 大氾濫も、泥の巨人も、プレイヤーも夢だったのかと一瞬思ったが、ベッドから身体を起こして、前を見ただけで違うのだと悟った。

 カイルの目の前には、窓があった。

 もちろん宿の窓ではない。

 虚空に浮かぶ、光の窓だ。

「まさか、そんな」

 カイルは見たことがないけれど、聞いたことがあるし、フォルティシモが目の前で使っているところを何度も見て来た。厳密にはカイルに視認することができなかったので、使っているらしいところだ。

「情報、ウィンドウ、だったっけ?」

 カイルが光の窓へ触れる。

> 初めましてプレイヤーカイル、私はあなたの冒険のお供をさせて頂くサポート妖精です。まずは私の名前を登録してください

 光の窓の周囲に小さな妖精が現れた。童話から飛び出して来たような姿の妖精で、情報ウィンドウの手前をキラキラと羽を動かして浮いている。

「君の名前? それよりも、今の状況を教えて欲しい」
> それよりも、で登録しました。私はそれよりもです
「ま、待った待った! 取消!」
> 冗談です。私のAIは通常会話が理解できないほど低レベルではありません。冗談を挟めるほどに高レベルです。なお私の性格および名称等の各種設定は、情報ウィンドウの【コンフィグ】から自由に設定できます。また開始から二十四時間は無料でサポートしますが、それ以上は従量課金制となりますのでご注意ください

 カイルは変な名前を付けてしまったのかと焦ったけれど、そこまでコミュニケーション不全な妖精ではないらしく安堵した。

「従量課金制? いや、今日一日はサポートしてくれるってことだね? よろしく頼む。まずは状況を教えてくれ」
> プレイヤーカイルが生きる世界へ、新たな法則が上書きされました。旧バージョンではNPCであった存在を、本物の人間、プレイヤー化するものです。また移行期間の特別措置として、二十四時間以内は旧バージョンにあったクラス、アイテム、スキル、ステータスなどを自由に使用可能となっています

 サポート妖精がカイルの情報ウィンドウを操作すると、そこには魔術や魔技の名称がずらりと並んだ。カイルが使っているものもあれば、名前さえ知らないものもある。

「プレイヤー化? 情報ウィンドウが使えるようになるってことで良い? あとはインベントリって言うのが使えるとか?」
> もちろんインベントリを使うことも可能です。インベントリは強化できますが、一定以上の大きさのインベントリは課金となります。他にはガチャや特殊アイテムの購入が可能となっています。こちらも課金によって専用クレジットを購入してください

 カイルは【課金】が重要であることだけは理解した。

 しかしカイルが知りたいのは、神々プレイヤーに殺された状況がどうなっているかだ。

 尋ねるまでに少しの勇気が必要だったけれど、この御技がフォルティシモの力ならば悪いことではないはず。そう考えて意を決して口にした。

「俺は、死んでこの世界に生まれ変わった、じゃないんだよな? だったら他の、人は?」
> ファーアースオンライン・バージョン・フォルティシモで死亡した場合、プレイヤーは一定の経験値と所持アイテムの一部をロストしてセーブポイントへ戻されます
「………えっと? 俺たちは、死なないってこと?」
> 不慮の事故や病死、PKによる死亡はセーブポイントへ戻りますが、寿命による死亡はセーブポイントへ戻ることはありません

 命は一つしかない。失ったら終わりなのが常識だ。それを覆せる【蘇生】スキルの担い手が聖女と言われる。

 またこのアクロシア大陸で最大の死因は魔物であり、だから冒険者たちは、その危険を一つでも減らすために率先して危険を冒す。

 しかし世界に生きる人間が、魔物に殺されても少し経ったら元の場所に戻るだけだったら。

 フォルティシモは世界から魔物の脅威を完全に消し去ったと言える。

「フォルティシモ、お前は本当に。いや、お願いは、したけど、これは、あれだ。す、すご過ぎる、だろ!!」

 カイルは思わず部屋を飛び出した。デニス、エイダも同じように部屋から出て来た。

 アクロシア王都へ出ると、大勢の人々が情報ウィンドウを浮かべていて、ある者は呆然と妖精と会話しているが、ある者はその意味を理解して走り出していた。

『みんな、見た!? すぐにギルドへ集まろ! 北門のが良い!?』
『待って、今、あれに対抗する魔術を作ってるから』
『私は聖マリア教の大聖堂へ向かいます! まずは情報ウィンドウを、これが祝福だと、できるだけ多くの人へ!』

 情報ウィンドウからサリス、ノーラ、フィーナの音声チャットが飛んで来て、カイルは笑みを零す。

 やはりフォルティシモは、全員を救ってくれたのだ。

「分かった。俺たちは冒険者ギルドに寄ってく! フィーナは、今はそっちに集中してくれ!」
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