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第八章
第三百九十九話 vs太陽神
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フォルティシモと太陽神ケペルラーアトゥムは、アクロシア大陸の上空で戦いを続けていた。
お互いにカンストステータスで、装備からアイテムまで万全な状態だ。ゲームバランスにもよるが、一般的にゲームでカンスト同士の勝負は一瞬か長引くかしかない。
廃課金廃人推奨ゲームであるVRMMOファーアースオンラインでは、後者となる。防御だけに課金と時間を費やしたプレイヤーと、攻撃だけに課金と時間を費やしたプレイヤーが戦えるバランスになっていたためだ。ちなみに両方カンストなんて想定されていない。
その長期戦の中、フォルティシモは太陽神を倒せると判断した。
近衛天翔王光さえも倒せなかった、究極の神を。
本当に? 戦いは互角に見えるが、フォルティシモがわずかに優勢だ。このまま行けば勝てる。
こんな簡単に? 簡単ではなかった。偶然と綱渡り、大勢の協力、幸運の結果だ。一つでも無かったら、この瞬間はなかった。
「審判の天使が、定期イベントだと?」
「さっき言っただろ。俺の知ってるファーアースオンラインじゃ、定期イベントだ」
天使の軍団は毎回毎回フォルティシモとアルティマの無双イベントである。今回はフォルティシモが太陽神ケペルラーアトゥムと戦っているので、ピアノやデーモンたちが穴埋めをしてくれている。
その認識の差異は気になるものの、今は気に掛けている場合ではない。
「存在しないアップデート。未来にいる? いや、まさか。近衛天翔王光、貴様はっ」
太陽神ケペルラーアトゥムがフォルティシモと距離を取ったかと思うと、大空へ向けて急上昇する。
「高速・飛翔」
それを追い掛けるフォルティシモ。
「プレイヤーフォルティシモ、再度、評そう。お前は、イカロスにも及ばぬ愚者だ」
「あの神話、俺は嫌いだ。イカロスは新しいテクノロジーで空へ挑もうとした。それが傲慢? 新しい世界を切り開こうとした冒険者だろう」
かのライト兄弟だって現代リアルワールドで世界最初の飛行機事故を起こした。トライアンドエラーは最強の戦術であり、決して愚かではない。
フォルティシモは空中を追い掛け続ける。
空が光る。
神の杖が振り下ろされた。
「迎撃・究極・打撃!」
フォルティシモはたとえ光速だろうとも、物理法則によって自動的に発動するスキルが迎撃を行う。
「くっ!?」
しかしフォルティシモの迎撃は、威力の面で神の杖を防げない。これが神戯参加者プレイヤーケペルラーアトゥムの権能なのだろうかと考える。攻撃が始まれば相手が死ぬまで終わらない神の杖。
光速で降り注ぎ続けるため回避不可能で、太陽の光のように止めどなく届き続ける攻略不可能な一撃。
それでも最強は倒せない。
「到達者!」
フォルティシモは迷わず神の領域へ足を踏み入れた。
神戯とはプレイヤーを神へと到達させるための儀式。それとは別に、まったく別の方法で神へ到達するのが“到達者”。AIフォルティシモに託した未完成のスキル設定。
今の太陽神ケペルラーアトゥムはキュウたちの異世界召喚によって神戯のルールに縛られている。神の杖も一見すれば無敵に見えるけれど、実際は神戯のルールに則った攻撃だ。
そのルールを突破し到達した者なら、正面から弾き飛ばせる。戦術も何も無い力押しである。
否、技術が常識を打ち破った。
「イカロスがもう一度挑戦できたら、こうなったぞ」
フォルティシモは神の杖をものともせず、空中を加速する。
「真・究極・乃剣・突破!」
巨大な黒剣が太陽神ケペルラーアトゥムを貫いた。
「ぐ、ぐぅっ!」
太陽神ケペルラーアトゥムの表情が苦悶に歪む。それでも彼女はフォルティシモを睨み付けた。
「愚かな。子狐から聞いていただろう? それは膨大な信仰を消費する」
「ここで倒されるお前は、何も心配しなくて良い」
「AIと同じか」
そこからはどちらかの信仰心エネルギーFPが尽きるまで、太陽レーザーと究極剣の撃ち合いだ。
「この私に消耗戦を挑むと言うのか」
「勝てないだろうな。お前の元の身体、天体なら」
太陽が信仰されるのは、太陽だからだ。
天照大神も、ヘリオスも、アポロンも、スーリヤも、ウィツィロポチトリも、シャマシュも、インティも、フワル・フシャエータも、トカプチュプカムも、バールも、ルーも、大日如来も。
本物の太陽に比べれば、その信仰は圧倒的に少ない。
太陽神ケペルラーアトゥムが無敵なのは、そこにもある。
太陽を思わぬ人類はいない。毎朝起きた時、日が上がっていると思うだろう。寝る時は日が沈んでいると思うだろう。出掛ける時は天気を気にして、洗濯物は太陽に伺いを立てる。もはやすべての生物の生活に根付いた絶対なる信仰。
天才近衛天翔王光も、最高の人工知能クレシェンドも、大勢の神々も、太陽の四十七億年の信仰には届かない。
だが今の太陽神ケペルラーアトゥムは、天の太陽ではない。
「気付いたか? 俺は神戯の仕様を調べて、不思議に思った。それは神戯に参加する前に思われていた信仰心エネルギーは、どうなるのか、だ」
太陽神ケペルラーアトゥムの放つ太陽レーザーは、少しずつ威力と速度が低下していく。
「お前みたいな天体とは比べられないだろうが、最強のフォルティシモは、大勢から強すぎて嫉妬されていた。思われていた。信仰されていた。その時の信仰心エネルギーは、どうなっているのかどうか」
「尋ねるまでもないな」
太陽神ケペルラーアトゥムの額から汗が流れた。
「異世界召喚された時点で、信仰心エネルギーは持ち越せない。いや正確には、思われ信仰されていた対象は、VRMMOファーアースオンラインのフォルティシモだから、神戯参加者フォルティシモには引き継がれなかった、ってところか」
キュウの太陽神異世界召喚作戦が、それしかなかった理由は、天体を破壊する方法がないこともある。
そしてもう一つ、四十七億年間輝き続けた太陽神が持つ信仰心エネルギーを上回る手段が、これしかなかったのだ。
異世界召喚された時点で、信仰がリセットされる。
「ゲームの始まりは平等。マリアステラに助けられたようで、少し気に食わないが」
「遊戯は始まりが平等であることに価値がある。我が偉大なる神の遊戯を、ここまでやり尽くすか」
太陽レーザーが、止まる。
「真・究極・乃剣!」
フォルティシモは太陽神ケペルラーアトゥムとの因縁のすべてを考えなかった。
太陽神ケペルラーアトゥムは近衛翔の両親を殺した黒幕だ。その理由が祖父近衛天翔王光の裏切りだとしても、その事実は変わらない。フォルティシモは彼女を恨んでいる。
近衛天翔王光、クレシェンド、デーモンたち、狐の神タマ、全員が太陽神ケペルラーアトゥムと因縁を持ち、彼女を堕とそうとしている。
だがフォルティシモがここで太陽神ケペルラーアトゥムを倒すのは、未来のためだ。
アクロシア大陸に生きる人々、生き返ったという親友、新しく生を得た従者たち、何よりキュウ。
フォルティシモはこの神戯を管理運営する太陽神ケペルラーアトゥムを倒し、この世界の人々を救って、キュウと思う存分楽しむのだ。何なら、約束通りラナリアと一緒だったり、最近良い感じの友人フィーナと一緒だったりと夢が広がる。
「お前は最強を識れと言ったか。ではお前も、我が偉大なる神の神威を―――」
「―――待て」
「おまっ、待てとか無しだろ!」
太陽神ケペルラーアトゥムは、フォルティシモを言葉で押し止めた。彼女との戦いはVRMMOファーアースオンラインを想起させたせいで、ついついあの頃のノリで停まってしまった。
フォルティシモは万感の思いを込めた攻撃に水を差されて不満だったけれど、すぐに周囲の状況に気が付く。
その理由の一端は、すぐに分かった。
異世界ファーアースには、フォルティシモを恨み、憎み、絶対に許さない者が存在する。
◇
空中で戦うケペルラーアトゥムとフォルティシモを見上げる角付きの女が居る。デーモンの女は箱を持っていて、その箱を開け放った。
「憎き太陽の女神と、天空の王! 共に滅びてしまえ!」
パンドラの箱は開かれた。
お互いにカンストステータスで、装備からアイテムまで万全な状態だ。ゲームバランスにもよるが、一般的にゲームでカンスト同士の勝負は一瞬か長引くかしかない。
廃課金廃人推奨ゲームであるVRMMOファーアースオンラインでは、後者となる。防御だけに課金と時間を費やしたプレイヤーと、攻撃だけに課金と時間を費やしたプレイヤーが戦えるバランスになっていたためだ。ちなみに両方カンストなんて想定されていない。
その長期戦の中、フォルティシモは太陽神を倒せると判断した。
近衛天翔王光さえも倒せなかった、究極の神を。
本当に? 戦いは互角に見えるが、フォルティシモがわずかに優勢だ。このまま行けば勝てる。
こんな簡単に? 簡単ではなかった。偶然と綱渡り、大勢の協力、幸運の結果だ。一つでも無かったら、この瞬間はなかった。
「審判の天使が、定期イベントだと?」
「さっき言っただろ。俺の知ってるファーアースオンラインじゃ、定期イベントだ」
天使の軍団は毎回毎回フォルティシモとアルティマの無双イベントである。今回はフォルティシモが太陽神ケペルラーアトゥムと戦っているので、ピアノやデーモンたちが穴埋めをしてくれている。
その認識の差異は気になるものの、今は気に掛けている場合ではない。
「存在しないアップデート。未来にいる? いや、まさか。近衛天翔王光、貴様はっ」
太陽神ケペルラーアトゥムがフォルティシモと距離を取ったかと思うと、大空へ向けて急上昇する。
「高速・飛翔」
それを追い掛けるフォルティシモ。
「プレイヤーフォルティシモ、再度、評そう。お前は、イカロスにも及ばぬ愚者だ」
「あの神話、俺は嫌いだ。イカロスは新しいテクノロジーで空へ挑もうとした。それが傲慢? 新しい世界を切り開こうとした冒険者だろう」
かのライト兄弟だって現代リアルワールドで世界最初の飛行機事故を起こした。トライアンドエラーは最強の戦術であり、決して愚かではない。
フォルティシモは空中を追い掛け続ける。
空が光る。
神の杖が振り下ろされた。
「迎撃・究極・打撃!」
フォルティシモはたとえ光速だろうとも、物理法則によって自動的に発動するスキルが迎撃を行う。
「くっ!?」
しかしフォルティシモの迎撃は、威力の面で神の杖を防げない。これが神戯参加者プレイヤーケペルラーアトゥムの権能なのだろうかと考える。攻撃が始まれば相手が死ぬまで終わらない神の杖。
光速で降り注ぎ続けるため回避不可能で、太陽の光のように止めどなく届き続ける攻略不可能な一撃。
それでも最強は倒せない。
「到達者!」
フォルティシモは迷わず神の領域へ足を踏み入れた。
神戯とはプレイヤーを神へと到達させるための儀式。それとは別に、まったく別の方法で神へ到達するのが“到達者”。AIフォルティシモに託した未完成のスキル設定。
今の太陽神ケペルラーアトゥムはキュウたちの異世界召喚によって神戯のルールに縛られている。神の杖も一見すれば無敵に見えるけれど、実際は神戯のルールに則った攻撃だ。
そのルールを突破し到達した者なら、正面から弾き飛ばせる。戦術も何も無い力押しである。
否、技術が常識を打ち破った。
「イカロスがもう一度挑戦できたら、こうなったぞ」
フォルティシモは神の杖をものともせず、空中を加速する。
「真・究極・乃剣・突破!」
巨大な黒剣が太陽神ケペルラーアトゥムを貫いた。
「ぐ、ぐぅっ!」
太陽神ケペルラーアトゥムの表情が苦悶に歪む。それでも彼女はフォルティシモを睨み付けた。
「愚かな。子狐から聞いていただろう? それは膨大な信仰を消費する」
「ここで倒されるお前は、何も心配しなくて良い」
「AIと同じか」
そこからはどちらかの信仰心エネルギーFPが尽きるまで、太陽レーザーと究極剣の撃ち合いだ。
「この私に消耗戦を挑むと言うのか」
「勝てないだろうな。お前の元の身体、天体なら」
太陽が信仰されるのは、太陽だからだ。
天照大神も、ヘリオスも、アポロンも、スーリヤも、ウィツィロポチトリも、シャマシュも、インティも、フワル・フシャエータも、トカプチュプカムも、バールも、ルーも、大日如来も。
本物の太陽に比べれば、その信仰は圧倒的に少ない。
太陽神ケペルラーアトゥムが無敵なのは、そこにもある。
太陽を思わぬ人類はいない。毎朝起きた時、日が上がっていると思うだろう。寝る時は日が沈んでいると思うだろう。出掛ける時は天気を気にして、洗濯物は太陽に伺いを立てる。もはやすべての生物の生活に根付いた絶対なる信仰。
天才近衛天翔王光も、最高の人工知能クレシェンドも、大勢の神々も、太陽の四十七億年の信仰には届かない。
だが今の太陽神ケペルラーアトゥムは、天の太陽ではない。
「気付いたか? 俺は神戯の仕様を調べて、不思議に思った。それは神戯に参加する前に思われていた信仰心エネルギーは、どうなるのか、だ」
太陽神ケペルラーアトゥムの放つ太陽レーザーは、少しずつ威力と速度が低下していく。
「お前みたいな天体とは比べられないだろうが、最強のフォルティシモは、大勢から強すぎて嫉妬されていた。思われていた。信仰されていた。その時の信仰心エネルギーは、どうなっているのかどうか」
「尋ねるまでもないな」
太陽神ケペルラーアトゥムの額から汗が流れた。
「異世界召喚された時点で、信仰心エネルギーは持ち越せない。いや正確には、思われ信仰されていた対象は、VRMMOファーアースオンラインのフォルティシモだから、神戯参加者フォルティシモには引き継がれなかった、ってところか」
キュウの太陽神異世界召喚作戦が、それしかなかった理由は、天体を破壊する方法がないこともある。
そしてもう一つ、四十七億年間輝き続けた太陽神が持つ信仰心エネルギーを上回る手段が、これしかなかったのだ。
異世界召喚された時点で、信仰がリセットされる。
「ゲームの始まりは平等。マリアステラに助けられたようで、少し気に食わないが」
「遊戯は始まりが平等であることに価値がある。我が偉大なる神の遊戯を、ここまでやり尽くすか」
太陽レーザーが、止まる。
「真・究極・乃剣!」
フォルティシモは太陽神ケペルラーアトゥムとの因縁のすべてを考えなかった。
太陽神ケペルラーアトゥムは近衛翔の両親を殺した黒幕だ。その理由が祖父近衛天翔王光の裏切りだとしても、その事実は変わらない。フォルティシモは彼女を恨んでいる。
近衛天翔王光、クレシェンド、デーモンたち、狐の神タマ、全員が太陽神ケペルラーアトゥムと因縁を持ち、彼女を堕とそうとしている。
だがフォルティシモがここで太陽神ケペルラーアトゥムを倒すのは、未来のためだ。
アクロシア大陸に生きる人々、生き返ったという親友、新しく生を得た従者たち、何よりキュウ。
フォルティシモはこの神戯を管理運営する太陽神ケペルラーアトゥムを倒し、この世界の人々を救って、キュウと思う存分楽しむのだ。何なら、約束通りラナリアと一緒だったり、最近良い感じの友人フィーナと一緒だったりと夢が広がる。
「お前は最強を識れと言ったか。ではお前も、我が偉大なる神の神威を―――」
「―――待て」
「おまっ、待てとか無しだろ!」
太陽神ケペルラーアトゥムは、フォルティシモを言葉で押し止めた。彼女との戦いはVRMMOファーアースオンラインを想起させたせいで、ついついあの頃のノリで停まってしまった。
フォルティシモは万感の思いを込めた攻撃に水を差されて不満だったけれど、すぐに周囲の状況に気が付く。
その理由の一端は、すぐに分かった。
異世界ファーアースには、フォルティシモを恨み、憎み、絶対に許さない者が存在する。
◇
空中で戦うケペルラーアトゥムとフォルティシモを見上げる角付きの女が居る。デーモンの女は箱を持っていて、その箱を開け放った。
「憎き太陽の女神と、天空の王! 共に滅びてしまえ!」
パンドラの箱は開かれた。
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