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第六章

第二百七十三話 即断

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 キュウは急いで主人に話があると板状の魔法道具からメッセージを送り、買い物に付き合ってくれたエルフや従魔たちへのお礼もそこそこに主人の【拠点】へ戻った。

 主人の【拠点】のリビングルームのドアを開けると、主人は準備万端に待っていてくれる。キュウは落ち着いて先ほどの話を主人に説明した。

 フィーナの従魔シルバースワローを見つけ、冒険者ギルドへ寄ったこと。そこでサンタ・エズレル神殿が占拠され、その奪還作戦に<青翼の弓とオモダカ>が加わった話を聞いたこと。

 フィーナの母親であるテレーズ大司教を救い出すため<青翼の弓とオモダカ>が奪還作戦に参加したこと。しかし奪還部隊とは連絡が途絶えてしまったこと。<青翼の弓とオモダカ>にはギルドマスターガルバロスの娘ノーラも一緒なので、ギルドマスターガルバロスからもどうか頼むと言われたこと。

 キュウは最後に主人へ対して、フィーナを助けて欲しいと、口に―――しようとした。

「よしフィーナを助けに行くか」

 しかし主人はキュウと視線を合わせたまま、口に出していないキュウの願いを答えてくれる。

「ご主人様っ! い、いえ、ですが、その、聖マリア教は、女神マリアステラ様の。だから、そこを攻めた者たちは………。それはご主人様のご迷惑にっ」
「あれだ。そう。キュウの友達を助けたかったんだ。カイルもいるからついでに助けられるしな。それに命を救ってやるんだ。キュウとフィーナが一緒に何でも言うこと聞いてくれるかも知れない」
「お前、最低か」
「この明らかな罠に飛び込めと言うのを分かっていて、キュウはそれでも俺に話した。それでも俺を頼りにした。それに応えられなくて、何が最強だ」
「そっちだけ言えよ! 最初の言葉いらなかっただろ!?」
「人として疑いますねぇ」

 主人と主人の親友ピアノが喧嘩を始め、笑顔のセフェールが突っ込みを入れていた。キュウは主人を頼りにするというか、主人なら―――最強の主人なら何でも解決してくれると頼り信じている。

「ともかくカイルやフィーナたちがやられたなら、相手はプレイヤーだろうな」

 <青翼の弓とオモダカ>は、主人と同じプレイヤーを擁さない冒険者パーティの中では最強であり、装備も鍵盤商会で買うだけでなく、マグナが手ずから作った物もある。キャロルとリースロッテが付いていって全員分を捕まえた従魔は、どれもレベル数千に達していて強力だ。

 <青翼の弓とオモダカ>が簡単に敗北するはずがない。小国であれば六人で攻め滅ぼせてしまうほどに強い。いや、強く、なったのだ。キュウはフィーナたちが必死に努力していたことを知っていた。フィーナの幼馴染み、サリスやノーラもそれぞれ命を賭けている。

「カイルたちが出発してからは、もう何日も経っているんだったな?」

 主人やセフェールの使う奇跡の大魔術【蘇生】スキルは二十四時間の時間制限がある。もしも長い時間が経ってしまっていたら、もう二度と生き返ることはできない。

「そうですねぇ。ただぁ、他の人たちと一緒に馬車で移動したみたいなんでぇ、どの程度の時間差があるかは不明ですよぉ」
「なら今すぐ【転移】でサンタ・エズレル神殿へ行く。セフェ、アル、リース、五分で準備しろ。ピアノも来てくれ。俺一人で<青翼の弓とオモダカ>の六人を守りながら戦えるかは不明だ。つう、エン、これが陽動の可能性もある。こっちが攻められたら、何をしてでも撃退しろ」

 今のサンタ・エズレル神殿は敵対組織に占拠された危険な場所である。そこにアルティマやリースロッテ、ピアノという戦闘能力の非常に高い面々を連れて行く主人の判断は妥当なものだ。<青翼の弓とオモダカ>の救出が目的なので、【蘇生】を使うセフェールを連れていくのは大前提。

 そんな中、キュウは迷ってから己の考えを口にする。

「ご主人様、私も連れて行って頂けないでしょうか? 私ならフィーナさんたちを見つけられます」

 キュウは主人の視線を受け止めて力強く頷いて見せた。

「当然だ。キュウは俺と一緒だ」
「ありがとうございます!」

 キュウは勢いよく頭を下げつつ、主人は真面目な表情で続ける。

「ラナリアからの情報によると、キュウとフィーナの関係は有名らしいからな。これがキュウを誘き出す策略なら、最も危険なのはキュウだ。俺の傍を離れるな」

 キュウはムズムズする尻尾を振りながら出発の準備に入った。



 炎を象った着物に赤い刀を掲げるアルティマ、宗教画を思わせる白いワンピースを着たリースロッテ、最近新調したらしい真っ白な軽鎧に身を包んだピアノ。そして漆黒のローブを羽織っている主人。

 これまで主人がキュウへ見せて来た偉業の数々を考えて、主人が本心から警戒しているのは女神マリアステラくらいで、他のプレイヤーなる者たちなど有象無象で相手にもならないと考えてしまっていた。

 主人たちの装備を見たキュウは、そんな思考を反省して捨て去る。これより先は主人や主人の従者、主人の親友である超々強者たちが完全武装で臨む戦場。

 キュウは己の耳に全神経を集中させる準備をする。この五人で行ってキュウが戦闘に参加するのは、主人が合体技を使うと判断した場合のみ。だからキュウがやるべきなのは、サンタ・エズレル神殿の床を踏んだ瞬間から、誰よりも早く<青翼の弓とオモダカ>のメンバーを探し出すことだ。

 ちなみに、セフェールだけは本当に戦場へ行くのか分からない可愛いブレザーを着ていた。もちろん神話級の魔法道具だろうが、パーティで最も重要な回復役の格好とは思えないと、いつも思っているのは内緒だ。

「ポータルを抜ける順番は、アル、ピアノ、セフェ、俺、キュウ、リースだ。先制された場合でも俺までは入るから、キュウは合図を待て。撤退の場合、リースはキュウを連れてつうとエンの所まで退避、こっちのことは考えるな」

 主人の指示にキュウとアルティマは頷き、リースロッテが不満そうに口を尖らせていた。キュウはこの年齢一桁に見える幼女リースロッテが戦っているところを見たことがない。主人から対人最強の従者だと言われているのだけれど、年齢相応の行動ばかりが目に映るので心配になってしまう。

「問題がなければ、そのままサンタ・エズレル神殿を制圧する。カイルたちの状況にもよるが、基本はピアノ、セフェ、アルが陽動、俺とキュウが救出、リースは片っ端から敵をやれ。知り合い以外はみんな殺して良い。従魔が多かったら、リースとアルの役割を入れ替える」

 主人の言葉にピアノが手を挙げた。

「プレイヤーからサンタ・エズレル神殿を占拠した理由を聞き出さなくて良いのか?」
「ピアノ、お前は大原則を知らないらしいな」
「大原則?」
「テロリストとは交渉しない」
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