上 下
211 / 509
第五章

第二百十話 エルミア&テディベアvsカリオンドル皇帝 前編

しおりを挟む
 カリオンドル皇国の首都の宿場で、<リョースアールヴァル>の面々は情報交換をしていた。亜人族が多い国と言えど、今の時世だとエルフの集団は目立ってしまうため、個室に集まっての情報交換だ。

 <リョースアールヴァル>はエルミア以外の冒険者ランクは低いが、天空の国のネームバリューによって割の良い指名依頼が入るためお金は充分にある。そのため首都の良い宿の一室を借りていた。

「デーモンと思われる女がカリオンドル皇国の首都に入ったのは間違いない。フォルティシモ様がお探しになっている者に違いないだろう」
「あと、依頼とは関係ないかも知れないけれど、ローブで顔を隠した人物と一緒だったそうよ」

 エルミアは仲間たちと情報をすり合わせて頷いた。

「何の目的かは分からないけれど、目標がこの街に入ったのは確かなようね」
「そうでしょうね。明日から街中を探し回って、見つけたらすぐにエルミアに連絡でいいかしら?」
「ええ、いいわよ。そしたら、私からあいつに連絡するから」

 エルミアはパーティメンバーからの問い掛けに頷いた。

 フォルティシモが名前を覚えているエルフは、ハイエルフの長老スーリオンとエルミアだけなので、二人以外は直接の連絡を取れないと言って良い。ほんの少し、本当にほんの少しだけれど優越感を覚える。

「エルミア、陛下との子供はいつできるの?」
「何言ってるの!?」
「私たちエルフにとって、かなり重要な話だと思うんだけど」
『正直に言うと、僕は彼にエルミアをあげたくない。だけど、エルフの未来、そしてエルミアの気持ちを考えるとそれも有りかも知れないね』
「テディさんも、冗談言わないで!」

 冗談で場を軽くしたあと、エルミアは真剣な表情を作ってパーティメンバーを見回した。

「それから、カリオンドル皇国に買われたエルフは、見つかった?」

 天空の国フォルテピアノと大陸東部同盟の戦争は、見方を変えるとエルフ族対亜人族の戦いともなる。<リョースアールヴァル>がカリオンドル皇国へやって来たのは、フォルティシモの指名依頼に加えて、奴隷として売られた同胞を救うという目的もあった。

 冒険者は依頼に支障の無い範囲であれば、現地では自由な行動をするのが普通である。依頼で遠くまで来たから、ついでに薬草や鉱石を採取したり、珍しい魔物を退治するのは当然で、魔物討伐依頼と物資運搬依頼を同時に請けるのも多々ある。そのためフォルティシモの指名依頼をこなしつつ、エルフたちの情報を集めるのは契約違反ではない。

「皇城に連れて行かれたみたい。たぶん戦争のために」
「そう。だったら、みんながここの制圧を始める前に救い出さないといけないわね」
「でも、皇城に侵入するなんてできるの?」
「入るのは私とテディさんだけよ」
「たった二人でって、そんなの無謀だ」
「テディさんの透明マントがあるし、見つけたら望郷の鍵を使って逃げ出すだけだから、二人のが都合が良いわ」

 テディベアが彼のインベントリから透明マントと呼ばれる魔法道具を取り出してくれた。これは文字通り被っていると姿が透明になるマントで、隠密行動に非常に有用である。

 ただし使っている間に消費される魔力が大きく、長く使っているとまともに戦えなくなってしまう。その点、エルミアは頭に乗せるテディベアが魔力消費を肩代わりしてくれるので、安全に長時間の行動が可能だった。

 エルミアはパーティメンバーを説得し、皆には引き続きデーモンの女武者の捜索を頼み、自分はテディベアと二人でカリオンドル皇城へ侵入する。



 侵入すると言えば夜を選ぶのが定石だが、今回に限っては昼間の時間帯を選択した。身体が透明になっているとは言え、足音もするし、扉の開閉も行わなければならない。静かな夜だとそれらの音が目立ってしまい、発見される可能性が高まると踏んだからだった。逃走時は望郷の鍵があるのも大きい。

 カリオンドル皇城への侵入は意外なほどに上手くいった。戦争中だからなのか、引っ切りなしに亜人族が出入りをしているし、城内は駆けずり回る者がいるほど慌ただしい。エルフの特徴である耳を隠して堂々としていれば、透明マントを使わずに入れそうだった。

『エルミア』

 テディベアの声と違ってエルミアの声は周囲に聞こえてしまうので、ジェスチャーだけで答えてテディベアの次の言葉を待つ。

『嫌な予感がする。助けるだけなら大丈夫かと考えたけど、何か、空気が違う』

 心配するテディベアに対して、エルミアは笑ってみせた。エルミアの人生は、ずっと不可能な敵を倒すためだった。しかし今は違う。倒すのではなく、同胞の手を取って救い出すだけで良い。

 それにこれは、フォルティシモや戦争に参加したエルフのためにもなる。人間の盾にされる前に救い出すのだ。

 エルミアはこれまで以上に慎重に進んでいく。

 目指す場所は地下牢。地下への階段を守る衛兵の横を通り過ぎ、足音を立てないように降って行く。

 地下は石作りで日の光が一切入ってこない環境だった。松明の僅かな光だけが頼りになる。ぱっと見ただけでも牢屋の数は十以上あり、一つ一つは何人も入れておけるほど大きい。

 一つの牢屋の中からはすすり泣く声が聞こえてきて、中を見ると竜人族や獅子人族の子供が幽閉されていた。咄嗟に助けてあげたい衝動を堪え、この子たちの解放は天空の国フォルテピアノがカリオンドル皇国を制圧した後で大丈夫だと言い聞かせる。

 それからエルフの同胞たちの姿を探していると、鎖に繋がれた囚人が独りだけ入っている牢が目に入った。血塗れの服を身に着け、息も絶え掛けているような赤毛の男性。

『アーサー、だ。何故、彼が? カリオンドル皇国に捕まったのか。フォルティシモは、これを知っているのか』

 エルミアも大氾濫の英雄アーサーの名前は知っているし、少し前にフォルティシモと戦って手も足も出ずにやられた話は聞いた。

 フォルティシモの知り合いなのであれば、エルフと一緒に助けるべきかどうか迷う。

 迷って足を止めた時、王冠を被り豪奢なマントを身に着け、強大な魔力を放つ杖を持った男がエルミアの前に立った。

「竜を待っていたが、掛かったのは虫けらか」

 エルミアの目に見える。

 Lv9999

 かつてエルミアを絶望させた男と比べ、倍以上のレベルを持つ存在が立ち塞がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...