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第三章

第八十一話 魔王の行進、そして

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「なんで入れないのじゃあぁぁぁ!」

 アルティマは『コラブス鉱山』の内部で『コラブス鉱山深層』に入れないことを知ると、周囲のモンスターに当たり散らした。
 現れるモンスターを一匹も逃がさずに虐殺し、全階層のダンジョンボスを踏み潰し、壁にパンチをしたら崩落に巻き込まれ、土だらけになりながら『コラブス鉱山』から出た。

 アルティマは野良パーティを組んだ連中に挨拶をしてから、アクロシアへ戻ることにする。何も得られなかったが、『コラブス鉱山深層』に入れないのだから仕方がない。やはり【採掘】のレベルが高い者が必要だ。アクロシアで野良パーティを募集しようと考える。

「出るのじゃ、禄豹ろくひょう

 アルティマの目の前に体長三メートルほどの豹が現れた。体型は流線型のように細長く、黒い斑点が目立つ淡黄色の毛のモンスターだ。アルティマが禄豹に飛び乗ると、禄豹は大地を蹴って走り出す。

 山を越え、谷を渡り、数時間でアクロシアへ戻って来る。途中、随分とスピードを出した魔導駆動車が走っているのが見えたけれど、珍しい光景ではないので気にも留めなかった。

 アルティマの知るアクロシア王都とは違って、ここはぐるりと壁に囲まれているし、いちいち通る時に検問をしている。面倒だと思いながらも、壁の前で禄豹から降りた。

「な、なんだコイツは!?」
「乗ってる奴を見ろ! ギルドで手配中の魔王だ!」
「緊急、緊急!」

 壁の前には関所を通るための行列ができていたはずなのに、アルティマが列に並ぼうとしたら全員が一斉に道を譲る。

「物分かりの良い連中なのじゃ」

 アルティマの前に立ち塞がるどころか道を空けるとは、狩りを邪魔してくる連中とは大違いだと思いながら、関所の中に足を踏み入れた。

 入ると完全武装の兵士たちが横一列で待ち構えていた。

「来たな、魔王め!」
「うむ? 妾はたしかに魔王ではあるが」

 兵士たちから一斉に魔術系のスキルが放たれる。どれもが【デフォルト設定】な上、兵士のレベルが低すぎてアルティマには一ポイントのダメージも入らない。

「こいつらは邪魔するのか。意味が分からぬ」

 アルティマは尻尾を一本出現させ、振り抜いた。この長く大きな尻尾は実体ではない。尻尾の形をしたエフェクトがアルティマの本物の尻尾から吹き出し、自分の身体と同じように自由自在に操れる狐人専用の種族スキルだ。色は主人がアルティマの瞳の色に合わせてくれた真紅である。

 隊列を敷いていた兵士たちが、一人残らず関所の外まで吹き飛んだ。アクロシア王都の内部から悲鳴が上がる。続々と集まっている兵士たちも、地面に倒れた兵士たちの光景に恐れをなしたのか、歩みを止めていた。

 アルティマも関所から顔を出す。

「安心するのじゃ。【峰打】スキルを使ったゆえ、死んでおらん」

 アルティマは低レベルの者に対しては、無意味にキルしないように主人から言われている。余りやり過ぎると引退してしまう。なのでわざわざダメージを抑えるためのスキルを発動して攻撃した。

 そのまま冒険者ギルドへ向かって歩いて行く。その間にも、兵士や冒険者が何度も邪魔してくる。その度に尻尾で叩き落とした。その道すがらに住む市民たちは逃げ惑い、彼女が通った後には屍のように倒れた兵士や冒険者で溢れかえっていく。

「今日は妾をNPKしようとする者が多い日なのじゃ」

 アルティマはその状況を大して気にかけない。狩り場ではよくある光景だからである。特にドロップの良い狩り場では、アルティマや主人たちにとってモンスターよりも他のプレイヤーこそが最大の敵だった。

「しかもレベルの低い者ばかりだの」

 アルティマに襲い掛かってくるのは、レベル数十から数百の雑魚ばかり。一〇〇〇を超えていたり、【覚醒】まで行っている者は遠巻きから見ているだけ。

 レベル差が分かっているのだから止めて欲しいものだと思いながら歩いていると、冒険者ギルド前の広場までやって来た。

 広場では、アルティマをぐるりと囲むように人の壁ができている。百人以上の全員が武器を持ち、アルティマを倒そうとしているのが分かった。

「いったい何チームが連合を組んでいるのじゃ?」

 レベル的には雑魚ばかりだが、人数の多さに驚きを隠せない。この数を殺さずに無力化するのは、難しいだろう。何人かやってしまうかも知れないが、主人からの命令はあくまで努力義務で絶対ではない。

 アルティマは己の九本の尻尾を出現させた。

「死にたくない者は下がるが良い。邪魔するのであれば容赦せぬ」

 アルティマを囲む者たちは決死の覚悟をしているようで、叫び声を上げながら向かって来た。剣や槍を使った特攻、数人で一つのスキルを使う合体スキル、吹き飛ばされた者を救護し治癒、後ろからバフ、デバフ、人数の多さを使った四方八方からの波状攻撃がアルティマに襲い掛かる。

 それらを九本の尻尾が叩き潰す。一振りするだけで十数人が吹き飛び、壁にぶつかり、地面に転がる。それらを見て恐怖から逃げ出す者も居たが、兵士や冒険者たちは更に集まっているようで、アルティマ包囲網の人数は増えていく一方だった。

 これだけの者に邪魔されている事実へ、苛立ちを覚える。

「このアルティマ・ワンをNPKしようなど、千年早いのじゃ!」

 広範囲への攻撃スキルでこいつらを皆殺しにしようと決めた。発動するのは主人と同じ、すべての属性スキルを一斉に使う強力なスキル設定。例えいくつかの属性に対策をしていても、どれか一つの属性が有効であれば大ダメージが入る。

 アルティマのステータスとスキルレベルで放てば、大抵のダンジョンボスは一撃で灰燼となる。

「退かぬならば、後悔するのじゃ。元素エレメント―――」

 アルティマが腕を掲げ、虐殺の引き金を引こうとした瞬間。

 一匹の巨大な鳥が空を駆けた。一瞬、空の鳥に気を取られる。

 そして、冒険者ギルドの入り口付近から。

「やめろ、アル」

 声がした。待ち望んだ人の声が。

 アルティマはその声に驚いてスキルを止めた。

 アルティマが振り向くと、銀髪で金と銀の瞳の男が立っていた。

 アルティマ・ワンを生み出し、最強の従者になるまで育ててくれて、共に様々な戦いを経験し、常に勝利し続けて来た最強の主人。二ヶ月前に主人との絆が消えて、それから連絡も取れずにいた彼が、たしかにそこに立っている。

 主人は二ヶ月前と変わらない。いや、少しだけ表情が柔らかくなっている気がする。それは視界が滲んでしまって主人の顔がよく見えないせいかも知れない。

「あぅじぃどのぉ! (主殿)」

 アルティマは周囲の状況の何もかもを無視して、主人に向かって飛びついた。
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