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第二章
第二十八話 ハイエルフのエルミア 後編
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アクロシアのギルドで出会ったエルディンの長老の一人スーリオンは、周囲の反応を観察すると堂々と大きな声を出した。それは今のエルフたちの立場を鑑みたものだと思われる。今の情勢でエルフ同士が怪しげな会話をしたら、即通報され、同胞たちの立場は危ういものになってしまうだろう。
「久しぶりじゃないか! エルミア! ………冒険者としての仕事は順調かい?」
スーリオンとは幼いエルミアがエルディンを出た時から連絡を取っていない。だから後半の言葉はスーリオンの推測、否、観察と推理によるものだ。
エルミアも当時の自分とは違うことを見せるために、少しばかり貴族の所作を思い出して答える。
「はい、スーリオン様。この度は、大変な事態だったと聞いています」
エルミアの心臓は今にも張り裂けそうなほどに高鳴っていた。何十年振りに、故郷のハイエルフの長老の一人に出会えたのだ。今すぐにでも、エルミアが去った後のすべてを尋ねたい衝動に駆られてしまう。
「私に何かできることがあれば、何なりとお申し付けください」
「ははは! エルディンを出て自由な冒険者の道を選んだお前だ。我々のことは気にせず、好きに生きると良い」
スーリオンはエルミアの冒険者としての立場ために、笑いながら大声でそんなことを言う。
しかし言葉とは裏腹に、スーリオンの瞳はまったく笑っていなかった。それどころか、エルミアに訴えかけるように強いものになっている。
エルミアにはその内容まで察する術がない。彼らの立場を考えると、それをここで尋ねるべきでないことも分かる。
「はい。お心遣いに感謝します」
口に出るのは当たり障りのない社交辞令だ。そんなことしか言えない自分に苛立つ。故郷の、仲間のために命を懸けるのではなかったのか。高位の冒険者という立場など、仲間たちのためにかなぐり捨てる覚悟くらいあったはずだ。
エルミアは拳を握り締めて奥歯を噛み締めた。
「スーリオン様、私は冒険者である前に、エルディンを故郷とするエルフです。何か、お力になれませんか?」
公共の場での発言。それもつい先日エルディンのエルフたちに侵略されかけたアクロシア王都でのものだ。多くの冒険者、ギルド職員からも冷たい視線が注がれたのが分かる。でもそれは覚悟の上だったので我慢できた。
我慢できなくなったのは、スーリオンの続いた言葉だ。
「そうか。ならばエルミア、お前に頼みがある。我々はエルディンの森に、女子供、戦えない者を捨ててきた。空渡りの秘宝を託す。お前にならば使えるはずだ。そしてどうか森に戻り、皆に伝えて欲しい。我らを苦しめた悪鬼ヴォーダンは、討滅された。あとは我らが戻るまで待って欲しい、と」
あの化け物が討伐された、エルミアはその話が信じられなくてアクロシアまでやって来た。けれどたった今、ハイエルフの長老から断言された。それを聞かされたエルミアは、身体が震えるのを抑えられない。
「お、お待ち下さい、スーリオン様! 本当に、あれ、あの化け物が、倒されたのですか!?」
「ああ、間違いない。ヴォーダンは死亡した。詳しいことはここでは話せん。私も奴からは解放されたが、アクロシア、いやヴォーダンを屠った“彼の者”は、まだ我々を疑っていると王女殿下から聞かされている。“彼の者”はアクロシアの王女殿下と懇意にしているらしい。今は、アクロシアに従うべきだ。いやその後ろにいる“彼の者”にだ」
ハイエルフであり長い年月を生きた高レベルのエルフであるスーリオンが、震えている。それはあの化け物を超える何かを見てしまったからだと分かる。考えるまでもなかった。あの化け物が倒されたということは、それ以上の脅威が、スーリオンの言う“彼の者”が現れたということだ。
「………スーリオン様。アクロシアに拘束されているというスーリオン様方は、今は大丈夫なのですか?」
「ああ、自由に外を出歩けないことを除けば、すこぶる快適だ。もっとも、出歩けばアクロシアの住人からどのような仕打ちを受けるか火を見るよりも明らかであるから、同胞たちも出歩かせるつもりはないが」
「スーリオン様、はぐらかす必要はありません。死者は?」
「はぐらかすつもりはなかった。我らが“同胞”に死者はいない。“彼の者”が討ち取ったのはヴォーダン只一人だ」
「そうですか。………森に“残してきた”者たちに、私は吉報を届けられるということですね」
「請け負ってくれるか。ありがとう」
エルミアがあえて事実をねじ曲げた問い掛けをすると、スーリオンが柔らかく微笑んで返答した。スーリオンは懐から丸められた手紙を取り出してエルミアに手渡す。手紙を手放したスーリオンはどこか肩の荷が下りたような表情を浮かべていた。
エルミアが受け取った封書を握り締めて呆然としていると、スーリオンがギルドの階段へ向かおうと踵を返したので、それを留めるように気になった問いを投げ掛ける。
「スーリオン様、その、あれを屠った“彼の者”とは、一体?」
「それがな。顔などは思い出せんのだ。だが、確かにいた。あの光、忘れるはずもない。王女殿下ならば存じているだろうが、今の我々の立場は弱い。そんな王国の切り札を易々と教えてはくれんだろう」
この大陸において最強最大の国家であるアクロシア王国。エルミアの想像を遙かに超える強大な国だったのか。もしくは。
エルミアは自分の知り合いの無事を問い掛けたい衝動に駆られるが、それを我慢しながらスーリオンを見送った。
空渡りの秘宝とは、使用すれば一瞬にして己の故郷へ瞬間移動することのできるエルフに伝わる伝説の魔法道具である。何かの植物を象った意匠をしていて、手の平に収まる程度の大きさだ。エルディンの森にはこの魔法道具が十数本保管されていた。
一瞬にして離れた場所を移動可能というこの魔法道具の力は凄まじいものがあるが、使用した瞬間に崩れてしまうという特性も持ち合わせている。そんな貴重な空渡りの秘宝を託されたということは、エルフ族にとって極めて重要な役割を与えられたという意味だ。
これからエルミアは久方ぶりに故郷の土を踏む。二度と戻れないと思っていた故郷、そこに戻れる。それも皆に吉報を知らせることができるのだ。みんなは元気だろうか。エルミアを逃がしてくれたフェアロスに成長した姿を見せてお礼を言いたい。そして―――御神木だ。
空渡りの秘宝を掲げて魔力を通す。
エルミアの身体が光に包まれて目の前の景色が消えた。
「―――――――――え?」
次の瞬間、目に入って来た光景は一面の焼野原と呼べる光景だった。美しかったエルディンの街並みは無残にも焼け落ち、そこにあるのは森ではなく焦土だ。僅かに残った残骸だけが、ここにエルディンの、エルフたちの街があったことを教えてくれる。
「なに、これ」
街を守ってくれた大樹たち、大樹の木陰から覗き込む日の光、食物をもたらしてくれた恵みの木々、近所の子供たちとかくれんぼに使った果樹園、水浴みをした湖、成人の儀式をするはずだった祭壇、エルミアが住んでいた家。
それら全てが焼き払われていた。そしてそこに人影、エルフの姿はない。
「なによ。なんなのよ! だ、誰か!? 誰かいるんでしょ!? あの化け物は倒されたの! だからもう大丈夫! 大丈夫だから!」
焼野原を前にして、隠れる場所がないことは百も承知だ。けれども信じたくない。エルディンの森が、焼け落ちてしまったなんて。
こんな酷いこと、いくらあの化け物でもしないはずだ。ならば他の何かが。
その答えはすぐに分かった。遠く遙か上空から風を切る音がする。
空に浮かぶ黄金のドラゴン。
エルミアはそれを見て固まっていた。
数々の冒険者を屠ってきた魔物の中において最強種である竜種を目の前にしただけであれば、Aランク冒険者としての矜恃でまだ動けただろう。空の太陽よりも美しく輝く黄金の体躯と吹き出す絶大な魔力だけであれば、エルフの使命感で逃げ出すことができただろう。
しかしエルミアの目には、見えてしまっていた。
Lv:40000
エルディンの森を焼き尽くした黄金のドラゴン。
遙か上空を飛ぶ黄金のドラゴンは、エルミアが生涯を掛けて打倒しようと誓った化け物の十倍のレベルを示している。
およそレベルの三倍あれば、あらゆる攻撃を無力化できると言われている戦闘。だからこそ戦いを生業とする冒険者の平均レベルの三倍以上を持つアクロシアの軍隊は最強と呼ばれているのだ。
だがその黄金のドラゴンのレベルは、もはやそんな次元にはいない。
エルミアはエルディンを支配したヴォーダンを化け物と呼び続けていた。しかしそれが間違っていたことを知る。ヴォーダンなんて、この黄金のドラゴンの前には塵にも等しい。
「あは、あはははははは!」
あの化け物が死んで、やっと故郷に帰れると思った。嬉しかった。ずっとあの日の悪夢にうなされていた。でも故郷に帰ってみたらこの有様だ。エルディンが化け物に支配されるとか、エルディンとアクロシアの戦争が始まるとか、辺境の国へ逃げ出した自分とか、もうどうでも良い。
この大陸は終わりだ。こんな魔物が出現した時点で、生きとし生けるものにとってどうしようもない。この大陸はずっと魔物の脅威に対して怯えて来たし、怯えるのと同じくらい対策を取ってきた。魔物の大量発生に対して、各国が連携する体制も整いつつある。
しかしそれらは、黄金のドラゴンほど有り得ないレベルを想定していない。否、想定していたとしても、圧倒的なレベルの前にはどうしようもない。
終わりだ。エルミアはそう思った。
けれど。
脳裏に浮かんだものがある。
エルミアにレベル四〇〇〇〇は見えた。
しかしここで不思議な点がある。
あのギルドで見掛けた冒険者フォルティシモ、彼のレベルは分からなかった。今まで誰を見てもレベルを理解できたはずのエルミアが、彼だけは理解できなかった。黄金のドラゴンのレベル四〇〇〇〇は見えたのに、彼のレベルは見えない。
それを思い出した時、エルミアの中に小さな炎が灯る。
「久しぶりじゃないか! エルミア! ………冒険者としての仕事は順調かい?」
スーリオンとは幼いエルミアがエルディンを出た時から連絡を取っていない。だから後半の言葉はスーリオンの推測、否、観察と推理によるものだ。
エルミアも当時の自分とは違うことを見せるために、少しばかり貴族の所作を思い出して答える。
「はい、スーリオン様。この度は、大変な事態だったと聞いています」
エルミアの心臓は今にも張り裂けそうなほどに高鳴っていた。何十年振りに、故郷のハイエルフの長老の一人に出会えたのだ。今すぐにでも、エルミアが去った後のすべてを尋ねたい衝動に駆られてしまう。
「私に何かできることがあれば、何なりとお申し付けください」
「ははは! エルディンを出て自由な冒険者の道を選んだお前だ。我々のことは気にせず、好きに生きると良い」
スーリオンはエルミアの冒険者としての立場ために、笑いながら大声でそんなことを言う。
しかし言葉とは裏腹に、スーリオンの瞳はまったく笑っていなかった。それどころか、エルミアに訴えかけるように強いものになっている。
エルミアにはその内容まで察する術がない。彼らの立場を考えると、それをここで尋ねるべきでないことも分かる。
「はい。お心遣いに感謝します」
口に出るのは当たり障りのない社交辞令だ。そんなことしか言えない自分に苛立つ。故郷の、仲間のために命を懸けるのではなかったのか。高位の冒険者という立場など、仲間たちのためにかなぐり捨てる覚悟くらいあったはずだ。
エルミアは拳を握り締めて奥歯を噛み締めた。
「スーリオン様、私は冒険者である前に、エルディンを故郷とするエルフです。何か、お力になれませんか?」
公共の場での発言。それもつい先日エルディンのエルフたちに侵略されかけたアクロシア王都でのものだ。多くの冒険者、ギルド職員からも冷たい視線が注がれたのが分かる。でもそれは覚悟の上だったので我慢できた。
我慢できなくなったのは、スーリオンの続いた言葉だ。
「そうか。ならばエルミア、お前に頼みがある。我々はエルディンの森に、女子供、戦えない者を捨ててきた。空渡りの秘宝を託す。お前にならば使えるはずだ。そしてどうか森に戻り、皆に伝えて欲しい。我らを苦しめた悪鬼ヴォーダンは、討滅された。あとは我らが戻るまで待って欲しい、と」
あの化け物が討伐された、エルミアはその話が信じられなくてアクロシアまでやって来た。けれどたった今、ハイエルフの長老から断言された。それを聞かされたエルミアは、身体が震えるのを抑えられない。
「お、お待ち下さい、スーリオン様! 本当に、あれ、あの化け物が、倒されたのですか!?」
「ああ、間違いない。ヴォーダンは死亡した。詳しいことはここでは話せん。私も奴からは解放されたが、アクロシア、いやヴォーダンを屠った“彼の者”は、まだ我々を疑っていると王女殿下から聞かされている。“彼の者”はアクロシアの王女殿下と懇意にしているらしい。今は、アクロシアに従うべきだ。いやその後ろにいる“彼の者”にだ」
ハイエルフであり長い年月を生きた高レベルのエルフであるスーリオンが、震えている。それはあの化け物を超える何かを見てしまったからだと分かる。考えるまでもなかった。あの化け物が倒されたということは、それ以上の脅威が、スーリオンの言う“彼の者”が現れたということだ。
「………スーリオン様。アクロシアに拘束されているというスーリオン様方は、今は大丈夫なのですか?」
「ああ、自由に外を出歩けないことを除けば、すこぶる快適だ。もっとも、出歩けばアクロシアの住人からどのような仕打ちを受けるか火を見るよりも明らかであるから、同胞たちも出歩かせるつもりはないが」
「スーリオン様、はぐらかす必要はありません。死者は?」
「はぐらかすつもりはなかった。我らが“同胞”に死者はいない。“彼の者”が討ち取ったのはヴォーダン只一人だ」
「そうですか。………森に“残してきた”者たちに、私は吉報を届けられるということですね」
「請け負ってくれるか。ありがとう」
エルミアがあえて事実をねじ曲げた問い掛けをすると、スーリオンが柔らかく微笑んで返答した。スーリオンは懐から丸められた手紙を取り出してエルミアに手渡す。手紙を手放したスーリオンはどこか肩の荷が下りたような表情を浮かべていた。
エルミアが受け取った封書を握り締めて呆然としていると、スーリオンがギルドの階段へ向かおうと踵を返したので、それを留めるように気になった問いを投げ掛ける。
「スーリオン様、その、あれを屠った“彼の者”とは、一体?」
「それがな。顔などは思い出せんのだ。だが、確かにいた。あの光、忘れるはずもない。王女殿下ならば存じているだろうが、今の我々の立場は弱い。そんな王国の切り札を易々と教えてはくれんだろう」
この大陸において最強最大の国家であるアクロシア王国。エルミアの想像を遙かに超える強大な国だったのか。もしくは。
エルミアは自分の知り合いの無事を問い掛けたい衝動に駆られるが、それを我慢しながらスーリオンを見送った。
空渡りの秘宝とは、使用すれば一瞬にして己の故郷へ瞬間移動することのできるエルフに伝わる伝説の魔法道具である。何かの植物を象った意匠をしていて、手の平に収まる程度の大きさだ。エルディンの森にはこの魔法道具が十数本保管されていた。
一瞬にして離れた場所を移動可能というこの魔法道具の力は凄まじいものがあるが、使用した瞬間に崩れてしまうという特性も持ち合わせている。そんな貴重な空渡りの秘宝を託されたということは、エルフ族にとって極めて重要な役割を与えられたという意味だ。
これからエルミアは久方ぶりに故郷の土を踏む。二度と戻れないと思っていた故郷、そこに戻れる。それも皆に吉報を知らせることができるのだ。みんなは元気だろうか。エルミアを逃がしてくれたフェアロスに成長した姿を見せてお礼を言いたい。そして―――御神木だ。
空渡りの秘宝を掲げて魔力を通す。
エルミアの身体が光に包まれて目の前の景色が消えた。
「―――――――――え?」
次の瞬間、目に入って来た光景は一面の焼野原と呼べる光景だった。美しかったエルディンの街並みは無残にも焼け落ち、そこにあるのは森ではなく焦土だ。僅かに残った残骸だけが、ここにエルディンの、エルフたちの街があったことを教えてくれる。
「なに、これ」
街を守ってくれた大樹たち、大樹の木陰から覗き込む日の光、食物をもたらしてくれた恵みの木々、近所の子供たちとかくれんぼに使った果樹園、水浴みをした湖、成人の儀式をするはずだった祭壇、エルミアが住んでいた家。
それら全てが焼き払われていた。そしてそこに人影、エルフの姿はない。
「なによ。なんなのよ! だ、誰か!? 誰かいるんでしょ!? あの化け物は倒されたの! だからもう大丈夫! 大丈夫だから!」
焼野原を前にして、隠れる場所がないことは百も承知だ。けれども信じたくない。エルディンの森が、焼け落ちてしまったなんて。
こんな酷いこと、いくらあの化け物でもしないはずだ。ならば他の何かが。
その答えはすぐに分かった。遠く遙か上空から風を切る音がする。
空に浮かぶ黄金のドラゴン。
エルミアはそれを見て固まっていた。
数々の冒険者を屠ってきた魔物の中において最強種である竜種を目の前にしただけであれば、Aランク冒険者としての矜恃でまだ動けただろう。空の太陽よりも美しく輝く黄金の体躯と吹き出す絶大な魔力だけであれば、エルフの使命感で逃げ出すことができただろう。
しかしエルミアの目には、見えてしまっていた。
Lv:40000
エルディンの森を焼き尽くした黄金のドラゴン。
遙か上空を飛ぶ黄金のドラゴンは、エルミアが生涯を掛けて打倒しようと誓った化け物の十倍のレベルを示している。
およそレベルの三倍あれば、あらゆる攻撃を無力化できると言われている戦闘。だからこそ戦いを生業とする冒険者の平均レベルの三倍以上を持つアクロシアの軍隊は最強と呼ばれているのだ。
だがその黄金のドラゴンのレベルは、もはやそんな次元にはいない。
エルミアはエルディンを支配したヴォーダンを化け物と呼び続けていた。しかしそれが間違っていたことを知る。ヴォーダンなんて、この黄金のドラゴンの前には塵にも等しい。
「あは、あはははははは!」
あの化け物が死んで、やっと故郷に帰れると思った。嬉しかった。ずっとあの日の悪夢にうなされていた。でも故郷に帰ってみたらこの有様だ。エルディンが化け物に支配されるとか、エルディンとアクロシアの戦争が始まるとか、辺境の国へ逃げ出した自分とか、もうどうでも良い。
この大陸は終わりだ。こんな魔物が出現した時点で、生きとし生けるものにとってどうしようもない。この大陸はずっと魔物の脅威に対して怯えて来たし、怯えるのと同じくらい対策を取ってきた。魔物の大量発生に対して、各国が連携する体制も整いつつある。
しかしそれらは、黄金のドラゴンほど有り得ないレベルを想定していない。否、想定していたとしても、圧倒的なレベルの前にはどうしようもない。
終わりだ。エルミアはそう思った。
けれど。
脳裏に浮かんだものがある。
エルミアにレベル四〇〇〇〇は見えた。
しかしここで不思議な点がある。
あのギルドで見掛けた冒険者フォルティシモ、彼のレベルは分からなかった。今まで誰を見てもレベルを理解できたはずのエルミアが、彼だけは理解できなかった。黄金のドラゴンのレベル四〇〇〇〇は見えたのに、彼のレベルは見えない。
それを思い出した時、エルミアの中に小さな炎が灯る。
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