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第一章

第一話 最強厨のリアル

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> 勝っちゃったよ!!

> 魔王様パネェwww

> 運・営・敗・北!!

> 奇跡の祭典の………閉幕だ

> まだ会社なんだが

> 産業

> 全員参加レイド実装 メンテ開け十五分 ボス消滅

> 全裸待機でもしてたの?

> なんで全裸なんだよw

> どうやって一人であんなことできんの? チート?

> 石油王なんだよ

> HP一兆だろ。この間のレイド、バフデバフもりもりにして、百万でなかったぞ

> 弱すぎだろ

> いつもの魔王様

> 見てる分には運営vs魔王様の戦いは面白い

> 馴れ合いだろ。課金額の七割が魔王様。こんな金づる手放すはずない

> 七割とかねーよ

> そもそも強化できる箇所が多すぎるのが問題なんだよな。強化どころかまず手に入らないし、手に入っても経験値も素材も集めるの厳しいし、無課金じゃレベルすら満足に上げられない。ベース、クラス、覚醒、スキル、装備、拠点、従者、従魔、一つでもカンストまで上げてる奴って廃人か廃課金だろ

> すべて最大とか誰も予想してねーだろ

> 効果とスキルをガチャにした運営は絶対に許さない

> なら辞めれば?

> 覚醒してベース一〇〇〇のパーティならグラクエクリアできるけどな

> さすがにスキルと装備ないと無理だろ

> 一〇〇〇までにスキルも装備も作るだろ。なんでベースだけで考えてるの?

> お前がベース一〇〇〇っつたんだろ

> 初心者なので分からないのですが、今のカンストっていくつなんですか?

> 魔王様によると―――



 純国産VRMMOファーアースオンラインは、様々な最新技術に加え、やり込み要素満載の廃人推奨ゲームとして大々的に発売された。しかしながら発売前から懸念されていた通り、やり込み要素を越える課金要素と、「課金してからが地獄」と呼ばれるレベル上げの困難さによって、多くのユーザーが離れていった。

 その状況に運営も焦ったのか、メインシナリオに有名ライターを起用し、モデラーやデザイナーを幅広く募集、多くのアップデートを経て、今はユーザーをある程度取り戻した。もちろん、開始当初ほどの人数には達しなかったが。その中で、クローズドベータテストから廃人プレイを続けているのが、フォルティシモというアバターを操るプレイヤー近衛翔だ。

 今のフォルティシモのクラスは【魔王】。ある意味でバランスブレイカーと言われるほど強いクラスだが、【魔王】を使っているプレイヤーはほとんどいない。取得条件の厳しさもさることながら、パーティを組むと能力が大幅に弱体化するというトンデモ仕様が理由である。
 いくら強いと言ってもソロでは厳しい場面などいくらでもあるし、VRMMOでソロプレイなどすぐに飽きてしまうため、強いが不人気のクラスだった。それでも【魔王】を使い超絶課金廃人ソロプレイをする彼は、掲示板で「魔王様」と揶揄されている。



 史上最強のレイドボスを討伐したフォルティシモは、ログとインベントリと付き合わせながら今の戦闘の結果を確認する。ファーアースオンラインの仕様では、レイドボスイベントは累積ダメージによって報酬が獲得できるタイプで、何が獲得できるかはアップデートのお知らせ内で周知されていた。このボス固有の装備と、レア素材や金、ガチャチケットなんかが、規定数入っているか確認する。ファーアースオンラインの開発は、報酬を加算するつもりが減算していました! を平気でやる連中なので、きっちり確認しておかなければ安心できない。

「フォルさーん、うちで有給とったやつが、アプデしている間にボスが死んでたって嘆いてるよ」

 フォルティシモに軽い調子で話しかけて来るのは、古参プレイヤーのトッキーという。何度かパーティを組んだこともあるし、チームに誘われたこともあるほどの知己だ。

「クソ回線乙」
「ひでぇ」
「どうせまた、なんだかんだ言って復活するだろ? 俺はもうやらないから【拠点】に帰る」
「ボスの情報教えてちょ」
「攻撃で危険なのは風属性の広範囲攻撃、威力デカかったみたいで見学してた<お散歩連合>のタンクが一瞬で溶けてた。弱点属性はなし。俺からしたら防御紙だったから気になんねーと思うけどな。五十パーと二十パーでAIの思考パターン変わってた、たぶん」
「帰るってことはレイドポイントは、いつも通り最大値あり? まあフォルさんがいる限り無制限に繰り返しボーナスってのはないだろーけど」
「累積で最大百万。読み上げんの面倒だから、コピペしてメールでいいか?」
「せんきゅー。累積百万だと、全員が最大までゲトすんのは、結構面倒そうね」

 トッキーはいくつものチームの連合で、このボスに挑むらしい。トッキーのレイドパーティには百人以上が集まっていた。空気を読まずに一人で突出して、羨望以上に嫉妬を買っているフォルティシモとは正反対のプレイスタイルだ。
 もしもトッキーの誘いを受けて、彼のチームに所属していたら、このゲームをもっと楽しめたかと言われると、そうは成らなかっただろう。
 何せフォルティシモはいわゆる最強厨で、他人に負けることが大嫌い。他人と足並みを揃えてプレイなんてできるはずもない。これはロールプレイではなく、近衛翔本人の性格だ。

「トッキー、と」

 ログボ勢はおろか数時間ログインしていないフレンドはすぐ切るため、アクティブばかりのフレンドリストからトッキーを探してメールを送る。送った後に、自分の通知ウィンドウにメールアイコンが点滅していることに気付く。
 トッキーの返信だろうと思って開いてみると、思わぬ内容に目を潜めた。

「運営から?」

 フォルティシモ様。
 あなたには新クラス【魔王神】と、新しい世界への挑戦権が与えられます。
 新しい世界では、すべての制限が取り払われますが、クリアするまで元の世界へ戻ることはできません。
 また、新しい世界で死亡した場合、すべてをロストします。
 新しい世界へ挑戦しますか?

 唐突に現れた隠しクエストに全身が震える。
 これまでも天界や魔界などの異世界が実装されていたが、また新しい世界を実装しているとは思わなかった。すべての制限が取り払われます、上限解放を示唆する言葉に一気にテンションが上がる。すべてをロストというのは、装備や所持金、アイテムが無くなるのだろう。海外製VRMMOではよくあるシステム、過大なデスペナというやつだ。装備のロストは痛いが、死ななければ良いのだ。フォルティシモが死ぬ状況など、どんなプレイヤーでもクリアできないのでまさかフォルティシモが死ぬはずがない。

 メンテの間に寝たし、食事も済ませてある。
 フォルティシモは急いで【拠点】に戻って、倉庫からアイテムを補充する。装備の耐久値を回復させ、従魔をボス戦用から探索用に切り替える。従者の設定も忘れない。すべてが完了し、フォルティシモは叩き付けるように「はい」をタップした。

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