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17:四ノ宮葵と九重柚葉の場合【完】
しおりを挟むなんだか矢継ぎ早に、色々とんでもないことを聞いてしまった。
……でもまあ、だからあんなに親しげだったんだな、と、やっと合点がいった。
最近、仕事で元気だったのも、あの店長のおかげ、ということだろう。
「いやいや、それを言うならココだって『ちんこ爆発する』とか『イく』つってたろ? ちんこ爆発してんじゃん? イってんじゃんっ? そっちのがやってることやべぇから!」
「う、ぁ……っ、それは、それは違う……違うんだよ……。俺だってちんこは挿れられてねぇし……」
「ふぅ~ん? ちんこ“は”な……?」
たっちゃんのニヤついた引っかかる言い回しに、目がくらむような出来事を鮮明に思い出す。
あっけなく口が滑って情けないやらで、やっちまった……と両手で顔を覆った。
全く同じ手で戦勢逆転されてしまった。
今度は俺が詰め寄られる番らしい。
……爆発はしてない。爆発するくらいパンパンだったってだけで……。
いやそれもだめだろ……。言い訳にすらならねえ。
「……で、どうなんだよ」
「……? なにが」
「あの四ノ宮ってやつ。いいやつなのか?」
“いいやつ”の定義がいまいち分からないが、あんなことはもう今回限りとばかり思っていた俺は、帰りの店長と四ノ宮とのやり取りを反芻する。
「連絡先は聞かれた、けど……。あいつ若ぇし、もてあそばれそうな気もする……」
そもそも今日のことがおかしかっただけで、元は一般的なマッサージの施術者と、ただの客だ。
しかも俺は中性的でも可愛くもない普通に普通の、むしろちょっとガタイのいい男だ。
期待するほうが大人げない。
あんな関係を続けるなら割り切るか、それが嫌なら、お互いのためにも金輪際会わないほうがいい、くらいに、思っていた。
ああいうことを、他の客にもしたことあるんだろうか……。とか、考えだすと胃がモヤモヤするから。
もう……、忘れてしまおうと。
「……祐介は、なんて? そん時いたんだろ?」
「終始謝られたけど、四ノ宮とのことは何も。なんか母親みてぇに見守られてた」
「あー……、じゃあ大丈夫だと思うぞ、そいつ」
吸い寄せられるようにしたキスや、無言だった最後の優しい表情に、どんな意図があったのかはまだ分からない。
意味のない、ただの気まぐれの可能性のが大きい。
連絡先は交換したが、相手が若いのもあって、自分から行動するのは少しこわい。
だから、たっちゃんの台詞はちょっと意外だった。
「……たっちゃん」
「ん?」
「……メシ、どこ行く? 和、洋、中」
「長くなりそうだから“和”で。飲みながら、詳しく話、聞かせてもらおうか」
ニカッと男前に笑った顔が、なんだか今はとても心強い。
こっちだって今まで何も知らなかったんだし、聞きたいことは山ほどある。
尻の違和感はまだ拭えないが、足取りは軽かった。
fin.
220609
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