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あらき奏多

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06:びっくりすると固まるタイプ

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「……九重さん? 大丈夫ですか?」

「……っ、も、もういい……ッもう終わりだろ? あいつには、俺は先に帰ったって伝えてくれ……っ」

「え、あの、九重さん……っ」


 肩に手を置かれそうだったのを、さり気なく避ける。
 四ノ宮の顔を見れない。目を合わせられない。

 
「連れが悪かったな……っ、あいつには、あとで俺からもちゃんと言っておくから、」


 恥ずかしさで、いっぱいいっぱいだった。
 
 隣からはたっちゃんの声しか聞こえない。
 でも、やつの反応で、店長と何をしているか、声が抑えられないほどのことをしているのは明白で。
 
 なのに自分は……、こんなにも、虚しい。
 俺はただ、日ごろの疲れを癒やしたかっただけなのに。
 情けない。恥ずかしい。なぜかとても、みじめな気持ちになった。
 
 こんなつもりじゃ、なかったのに。
 いつも無言で、黙々と作業的な四ノ宮を、心から信頼していたのに。
 勝手に傷ついて、勝手に悲しくなるなんて。
 ほんとに俺、馬鹿馬鹿しいやつ。
 慣れない会話なんて、するんじゃなかった。


「汗くさくて、悪かったな……っ」


 ベッドから身を乗り出して、荷物を置いてある下のバスケットへ手を伸ばす。
 
 そうして伸ばした手は、四ノ宮によって遮られて。
 腕をぐいっと引かれ、身体ごと、やつと対面するよう振り向かされる。


「あぁ……、そういう意味で捉えちゃったんですね。言葉足らずですみません」

「……っうぁ? ……ッ!!」


 ドサッ、とベッドに背中を打ちつけた。
 
 何がなんだか分からないまま身体の上に跨がれ、ジジジ……と作業着のファスナーを一番下まで一気におろされる。
 
 中の黒いぴったりしたインナーが顕になり、自分の腹筋が、せわしなく上下しているのが見えた。


「……いつもの九重さんも、いい匂いですよ。お仕事をがんばった、外の空気と体臭がまざった匂い。むしろ結構好きなんです」

「……っあ、ぁ……ッ、な……っ?」

「でも、シャワー浴びてきたってことは、俺を気づかってくれたんですよね? だから少し、その気持ちが嬉しくなってしまって」

『すみません……』って、純粋に穏やかな優しい声と表情で、困ったように、はにかむ。

 左右に開かれた作業着の中に、熱い手のひらが侵入する。
 
 言っていることと、やっていることにギャップがありすぎて、俺は何をされているのか意味が分からず、思考がすべて停止した。


「ぁ……っ、ゃ、な、に……っ?」


 驚いて顔を見ると、目を細め、形のいい薄い唇がいたずらに弧を描く。

 人差し指を俺の唇の前に立てて、シィー……と笑った、ちょっといじわるな笑み。
 初めて見る表情。


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