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忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)
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しおりを挟む気づいたときには花岡は部屋から追い出され、俺は兼嗣の腕のなかに取り残されていて。
背後でガチャリと鍵をかける音が、まるで外の世界と遮断されたみたいで、そこでやっと自分の状況を把握した。
「ってめ、はな、せ……っ」
身をよじると、ぐっと引き寄せられる力が、強い。腕が太い。立ちはだかる身体が分厚い。
しっかりと肩を抱かれ、圧迫感で息が詰まる。
少し身動いだくらいではビクともしない。
「……ごめん。やだ」
ぎゅう、と兼嗣の腕に力が入り、肩をすくめるように伸ばした背中と腕が潰され、軋む肉体に顔をしかめた。
そんなに、あの台詞が逆鱗に触れたのか。
あんな売り言葉に買い言葉で、こんな馬鹿げたことをするほど、俺が好きだってことじゃねえのか。
……なのにどうして、こうなるんだ。
「いてぇよ、馬鹿力……っ!」
虚しさが苛立ちに転化する。
頭に血がのぼり、自分の両腕が引きつって痛むのも構わず、無理やりねじるように引き抜いた。
それでも胴体は腕の中から抜け出せず、好きにさせてたまるかとドンドンと腕や胸を叩き、もがいて、暴れる。
力比べは勝てないにしろ、無駄にでかい手のゴツゴツした指を一本ずつ掴んで引き剥がし、次いで振り払おうと離した上体を、また。
「っ、うぜぇ!」
手首を、肩を掴まれ、少しでも身体が離れると、また長い腕で絡みつくように捕らわれる。
兼嗣はダメージなんて全然感じていないみたいに、抑えこんだ俺の髪に鼻先を埋め、ふと胡乱げに呟いた。
「……なんか、いつもと違う匂いがする……。みーちゃんっぽくない」
は?なんっだそれ、急に……。
──あ、え……、それって、まさか。
「……廣瀬の、ヘアオイル……?」
思わず口に出ていた。
それしか思い当たる節はない。
自分では鼻が慣れたのか何も匂いなんてしないのに、なんだこいつ。
なんでそんなことが分かるんだ。
検疫……っつか、麻薬の匂いを嗅ぎ分ける探知犬かよ。
そもそも俺の匂いってなんだ。まじで気持ち悪い。
紛れもなく、本心からそう思う。
なのに、匂いを覚えるほど同じ時を重ねた年月が長く、距離感だって近すぎたことを、今になって思い知らされたような気分になって。
何故だかじわじわと羞恥心まで溢れてきて、顔が、体温が熱くなった。
「また、廣瀬……?」
降ってきた低い声に、落ち着きのない揺れる目のまま見上げてしまい、視線がぶつかる。
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