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忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)
08
しおりを挟む忘れたくても、ふとした時に湧いてくる。
断片的な記憶が、体感を伴うスライドショーみたいに次々とフラッシュバックして、ぞわっと鳥肌が立ち、逃げたくなった。
「んぬぁ!!」
両腕でガードするように廣瀬の腕を振りほどく。
その流れで思わず繰り出した裏拳をさりげなく避けられ、こちらが呆気にとられるほど、やつは屈託なく笑った。
「なに、めっちゃ元気じゃん。美夜飛?」
ていうか渾身の裏拳を避けるな。
そういうところは、あえて殴られた兼嗣とは対照的だと思い、廣瀬の笑顔に、毒気を抜かれて。
忌々しい熱が嘘のように引いていき、安堵した。
肌で感じるってきっとこういうことだ。
本気度が全然違う。
廣瀬のは、今のは、ただの悪ふざけ。分かってる。
分かっていても、いちいち全部、こいつの挙動と兼嗣を比べていることに気づき、そんな自分に、自己嫌悪で反吐が出る。
「やめろ、そもそも嫁ってなんだっ、俺は男なんだよ……っ」
「……そんなの、知ってるよ。見てのとおりじゃん」
「っ、!」
だめだ、まだ、動揺してる、俺。
目が泳ぐ。脳みそが揺れる。
内心で、狼狽えた。
俺の異変を目ざとく察知した廣瀬が、さっきとは違う真剣な眼差しで、無意識に後退りしていた俺の二の腕をぐっと掴む。
「だから余計に、心配なんだろ」
顔をあげると、覗きこんできたやつと視線が絡んだ。
「……っ」
「男に抱かれたいだけなら、遠山じゃなくて俺にすればいいって思った。だけどそうじゃないんだよな?」
「……当たり前だろ」
「今までの挙動も、反応も全部、普通に男だと思うよ、俺も。だからこそお前が、本当は……」
そこで廣瀬は、開きかけた口を噤んだ。
──本当は、抱かれることを、無理してるんじゃないかって。
言わなくても、なにを言おうとしているか、分かってしまった。
……やば、泣きそう。
こんな突然、なんで。
俺だって、ほんとは、ほんとは、いやだ。
男なのに、男に抱かれて快楽を得られることに、腹の底から抵抗がある。
でも、兼嗣が必死こいて俺を求めてくるなら、俺はその気持ちを、ちゃんと認めてやろうって。
こんなのは同情じゃない。
いっそ哀れみでもあればいいのに、そんな気持ちは毛頭ない。
ただの、腐れ縁だ。
でもこのまま放っておいたら、本当に腐り果てて切れてしまう。
俺にはそれが一番、我慢できなかった。
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