恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

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忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)

07

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「なあ……俺、お前にそんなこと言わせるくらい、頼りねえか……?」

「……そういうわけじゃないよ。むしろ身持ちが固すぎてちょっと驚くレベル」

「身持ちって言うな。つかそっちだって同情で男抱こうとか、正気の沙汰じゃねえぞ、ほんとに」

「……同情かなあ。付き合ったら好きになるかもよ。もしそうならなくても、虫よけ程度にはなるだろうし」

「それを同情って言うんだよ。もっと自分を大事にしてくれ」

「はは、美夜飛だったら大丈夫だと思ったんだけどな。可愛いし」

「はあ? きっしょいわ」

……うわ、それ、昔からごく稀に、兼嗣には言われたことあるわ。

 まああれは恋愛感情がすでにあったってことだろうから、まだ理解はできる。
 あとは遠い親戚のジジババか、何年か付き合いのある限られた友人だけ。

 やっぱり身長か……。身長なのか。
 子猫に言うみたいでナメられてる気がして、俺は全く嬉しくない。

 ていうか男で可愛いなんて言われて嬉しいやつなんて、存在するのか。

「いや、お前結構可愛いよ、まじで。全然懐かない野生動物みたいな感じ」

「……全然懐かない野生動物は、絶対可愛くないだろ……」

 こいつ、目ぇ腐ってんじゃね。
 いや、それより可愛さの基準が全然わからん。
 意外とゲテモノとか好きなんかな。

「なのに可愛いから不安なんだって。きっとさあ、嫁ぐ娘を見送る父親の気持ちって、こんな感じなんだろうな……」

「ばっか、お前、意味不明すぎるわ……っ、やめろ、触んなっ、」

「可愛くないところが可愛いよ、俺のみーくんが……」 

 両手で顔を挟まれて、髪をわしゃわしゃ乱される。実家の犬か、俺は。

 左右の親指が頬肉をもみくちゃにして、手のひらは耳を塞ぐ。

 ゴソゴソと籠もった音が頭のなかで反響した。

『かわいい。俺の、みーちゃん……』

 唐突に、あのときの兼嗣の声と重なる。

 空気が密閉された鼓膜の閉塞感や、髪をかき乱して頭皮を撫でる指や、顎まで覆われた手のひらの感触も。

……一週間じゃ、まだ無理だ。
 体内の、奥の奥まで押しいられた感触を思い出し、恐怖と嫌悪の尾ひれがざわりと背中を撫ぜた。


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