85 / 107
忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)
07
しおりを挟む「なあ……俺、お前にそんなこと言わせるくらい、頼りねえか……?」
「……そういうわけじゃないよ。むしろ身持ちが固すぎてちょっと驚くレベル」
「身持ちって言うな。つかそっちだって同情で男抱こうとか、正気の沙汰じゃねえぞ、ほんとに」
「……同情かなあ。付き合ったら好きになるかもよ。もしそうならなくても、虫よけ程度にはなるだろうし」
「それを同情って言うんだよ。もっと自分を大事にしてくれ」
「はは、美夜飛だったら大丈夫だと思ったんだけどな。可愛いし」
「はあ? きっしょいわ」
……うわ、それ、昔からごく稀に、兼嗣には言われたことあるわ。
まああれは恋愛感情がすでにあったってことだろうから、まだ理解はできる。
あとは遠い親戚のジジババか、何年か付き合いのある限られた友人だけ。
やっぱり身長か……。身長なのか。
子猫に言うみたいでナメられてる気がして、俺は全く嬉しくない。
ていうか男で可愛いなんて言われて嬉しいやつなんて、存在するのか。
「いや、お前結構可愛いよ、まじで。全然懐かない野生動物みたいな感じ」
「……全然懐かない野生動物は、絶対可愛くないだろ……」
こいつ、目ぇ腐ってんじゃね。
いや、それより可愛さの基準が全然わからん。
意外とゲテモノとか好きなんかな。
「なのに可愛いから不安なんだって。きっとさあ、嫁ぐ娘を見送る父親の気持ちって、こんな感じなんだろうな……」
「ばっか、お前、意味不明すぎるわ……っ、やめろ、触んなっ、」
「可愛くないところが可愛いよ、俺のみーくんが……」
両手で顔を挟まれて、髪をわしゃわしゃ乱される。実家の犬か、俺は。
左右の親指が頬肉をもみくちゃにして、手のひらは耳を塞ぐ。
ゴソゴソと籠もった音が頭のなかで反響した。
『かわいい。俺の、みーちゃん……』
唐突に、あのときの兼嗣の声と重なる。
空気が密閉された鼓膜の閉塞感や、髪をかき乱して頭皮を撫でる指や、顎まで覆われた手のひらの感触も。
……一週間じゃ、まだ無理だ。
体内の、奥の奥まで押しいられた感触を思い出し、恐怖と嫌悪の尾ひれがざわりと背中を撫ぜた。
5
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる