82 / 107
忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)
04
しおりを挟む小言を言いつつヘアオイルまでつけてくれるなんて、甲斐性の化身か。至れり尽くせりだ。
髪を梳いていく、細く長い指が気持ちいい。
兼嗣のは、もっと節が目立ってゴツゴツしていて、まさしく男って感じだった。
でもまあ、手先が器用そうなところは共通点かも。
なんて、どうでもいいことを考えつつ、ふんわりと香る甘い匂いにリラックスしていると、
「……そういえば、もう消えたのか、身体の」
「あー……、あれな」
痣みたいな大量のキスマークと、歯型。
この一週間、風呂場で何度も揶揄われた、鬱血痕だらけの身体。
「まあまあ消えたよ、ほら」
着ていた白いTシャツの首元を指で引っかけて、なんの変哲もないまっさらな肩を見せる。
あのときは、熱が下がってから風呂に入るまで、ずっと、もし周りに聞かれたらどんな言い訳をすればいいか、とか、気味悪がられたらどうしようとか。
考えるだけで鬱々としたし、正直恐ろしくもあった。
だが、いざ聞かれた相手はみんな無邪気なガキみたいで、拍子抜け。
その都度、罰ゲームや転んだとか、彼女かもな、なんて嘘か本当か区別がつかないような理由を適当に並べて、のらりくらりと愛想笑いでかわした。
下手に身体を隠したりせず、堂々としていればそのうち好奇の視線はなくなったし、日を追うごとに、目に見える痕跡は少しずつ薄くなって、今ではもう、跡形もなく消えた。
独占欲を見せるわりには、やり方が浅慮だ。
こっちの苦労も知らないで、やっぱり一言くらい文句を言わないと、腹の虫が収まらない。
「……綺麗に消えるもんなんだな。ほぼ殴打痕みたいだったのに」
「それは俺も思った。風呂場でさ、心配してくるやつもいたよ。えげつなすぎて、怪我だと思ったみたいで」
廣瀬の表情は背中を向けていて見えないが、事情を知っている分、暗い話にしたくなくて冗談めかして笑う。
後ろで大きなため息が聞こえ、ふいに、こつんと後頭部にやつの頭が当たった。
「……今からあんな、顕示欲と所有欲を見せつけるやつのところに行くのかと思うと……、行かせたくないよ、俺は」
5
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…




【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる