恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

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忠犬が狂犬になった理由(side美夜飛)

忠犬が狂犬になった理由

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 兼嗣から避けられて一週間、イライラが限界にきていた。

 風呂を出てサッパリしたにもかかわらず、今日も一言も会話できなかったことを思い出すと、沸々と怒りが湧いてくる。

 あいつのやり方は、実に浅はかで、あからさまだった。

 実地の授業で同じ現場になったとき、ちょろちょろ視線を向けてくるくせに、こちらが見ると挙動不審に目を逸らす。
 寮の廊下で見かけたときも、俺の存在に気づいた途端、話していた相手の会話を遮ってまでその場をそそくさと離れたりして。

 そういうことが日に何回もあって、それが一週間続いている。

 さすがに胸糞悪くて、追いかけて背中に飛び蹴りを食らわせてやろうかと何度思ったことか。

……自分も、似たようなことをした罰なのかな。
 いや、でも、俺はそこまでやってないし、どのみち悪くなくねえか……。

 そうは思うが、色々考える期間が長ければ長いほど、自分の過ちに自己嫌悪にさいなまれるのが苦痛だった。


 濡れた髪から、足許にぱたぱたと雫が落ちる。
 風呂上がりでまだ身体はほかほかしていて、汗の浮いた額を腕で拭う。

 過ぎた時間は、もうかえってこない。
 だから少しでも現状を打開したいのに、それさえもさせてくれないなんて。





「──……行くの?」

 自室で、携帯とイヤホンを尻ポケットに突っ込んでいたら、テーブルに肘をついてもたれかかった廣瀬が、スマホから目を離して穏やかに言う。

「うん」

「髪、まだ濡れたまんまじゃん。何をそんなに急いでんの」

「は? 別に急いでなんかねえけど」

「……まあ、ちょっとおいで」

 そう言って、廣瀬はスマホを机に置いて座りなおし、ぽんぽんと胡座をかいた自分の足許を叩いた。

「ぁあ? なんで……」

「いいから、こっち」

 そういう、無駄に世話を焼かれるの、子ども扱いされてるみたいでちょっと嫌なんですけど。

 そう感じながらも、思い返せば廣瀬には世話になっている覚えしかなくて、今さら感が半端ない。

 にっこりと無言の笑みに半ば強制され、一度はポケットにいれた小物を出入り口付近の棚の上へ戻し、渋々やつの前に背中を向けて座った。


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