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犬も食わない少し前のお話(side花岡)
08
しおりを挟む部屋のドア前で立ちすくむ兼嗣に、目を見開く。
……うそ、なんというタイミング。
ギギギ、と油の切れたロボットみたいな動きで美夜飛を見ると、俺はこいつの身体を跨いで覆いかぶさっていて、さらに美夜飛は座椅子に阻まれて身動きできない状態だったことに気づき、慌てて上から退いた。
「ちが、兼嗣、これまじで違う……!」
なんで本当のことなのに、言えば言うほど、言い訳じみたニュアンスになるのだろう。
怒ってるというよりは意味が分からなくて困惑しているといった様子だが、俺を見る兼嗣の視線が本当に痛い。
助けを求めるつもりで美夜飛に目を配らせると、代わりにだるそうにやつが言った。
「俺を巻き込んで転けただけだ」
美夜飛は座椅子から起き上がり、俺を背にして兼嗣と対峙する。
「じゃあなんで君は涙目なの?!」
「だぁからっ、顔面ぶつかったからっつってんだろ。どうでもいいことでいちいち喚くな、うぜえ」
美夜飛がイライラと金色の頭を掻く。
青筋を立たせ、ぎろりと睨みつける様なんて完全にチンピラ丸出しで、あれに興奮して組み敷いた兼嗣もすごいけど、美夜飛の凄みがホンモノって感じで、身長差を感じさせないくらいの迫力も肝が冷える。
「どうでもよくないだろっ? みーちゃんがそうやっていつも無防備だからっ、俺はいつも……っ」
「は? お前また気持ち悪いこと抜かすつもりか。まじでやめろ、無防備ってなんだ。お前より危険なもんここにいねぇわボケ!」
「……口悪いよ、みーちゃん……」
ほんと、口悪い……。
知ってたけどね……そういうところが苦手だったんだし。
でも今はだんだん美夜飛の沸点が分かってきたから、怒っている理由も理解できる。
……自分は信用してるのに、相手が信じてくれないの、つらいよな。
だからって、むやみにさらけ出して、他人から可哀想な人間だとみなされるのも嫌で、可哀想な自分を受け入れる強さもなくて。
その不器用さが怒りのように表面に出る。
ここ最近美夜飛の心境を聞くことが多かったせいか、こんな場面なのに同情してしまう。
「うるっせえカス! 今さらお前がそれを言うんか!」
「だってっ、そんな言い方じゃ分かんないよ!」
「てめえが急に気色悪ィこと言うからだろ! それも人前で、平然と無害みたいな面して意味の分からんことを! お前のそういう周り見えなくなるところにっ、こっちがどんだけ迷惑被ったと思ってんだクソ野郎!」
「クソ野郎とか今は関係ないよね?! 俺はただっ、みーちゃんの口から本当は何があったか聞きたかっただけで!」
「ほんとのこと言ったって、どうせ言い訳くさくなるだけだろうが! つーか実際そうだろ! 何でもかんでも疑って、それは俺の責任じゃねーだろ!」
「だったら普通にそう言ってよ! なんですぐ怒るのっ?!」
「怒ってねーから! てめえがイライラさせるようなこと言うからだろっ!」
「それ怒ってるよね?! 大体なんでみーちゃんがここにいるの? 裕太とそんなに仲良かった?!」
「……はっ、今のお前よりは仲良いかもな」
「……あ゙?」
兼嗣の低い声に、俺だけびくっと肩が跳ねる。
……これ、やばくないすか。やばいよね。
一瞬、部屋が静寂に包まれて、やつの纏う空気が急転した。
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