恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

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遅かれ早かれ(side美夜飛)

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 でも花岡から嫌悪や軽蔑の空気は感じられず、ただ思ったままを素直に口にしているだけなのが分かって、裏表のなさそうな態度がむしろ有り難かった。

 背中を向けているから尚さら、話しやすくて口が滑ってしまうのかもしれない。

「色々悪かったな、今日、巻き込んで」

「そんな、気にしないで」

「あのさ、俺……」

「うん……?」

……本当は誰かに、聞いてほしかった。
 ひとりで考えるには埒があかない迷いと選択を、相談したかった。

 でも確かに、こいつにとっては重荷かもな……。
 楽しい話でも、有益な話でもないし。

「……いや、やっぱいいわ」

「ふは、途中でやめられると気になるよ」 

 花岡が笑う。柔和な声が、見なくても分かる穏和な空気が、口ごもる俺の背中を押す。

 だってこんな話、廣瀬には言えない。

 あいつは俺の味方だから、俺が間違った選択肢も視野に入れていることなんて知れたら、嫌われて失望されるかもしれない。

 それが俺だけならいいが、自分のことみたいに怒ってくれたあいつに、これ以上、不快な思いをさせたくなかった。

 あまりよく知らない花岡のほうが、客観的で俯瞰した意見が聞けると思い、恐るおそる、訥々と話す。

「……ほんとは、あれって、もしかしたら、無理やりじゃなかったのかも……って、思って」

「……意外。どうしてそう思うの?」

「抵抗、できたから……。実際何度も殴ったし、蹴ったし。腕力は敵わなかったけど」

「拒まなかったってこと……? でも朝日は殴ったんでしょ。ふつーはそこでやめるよ、友達なら。それを押しきったんでしょ、兼嗣は」

「……ごめん、すげえ生々しい話だな、これ」

「いいよ、話して」

「……だからって、何が正解だったのか、今でも分かんねえんだ」

 そして、しばしの間。
 花岡は身体の前で腕を組んで悩むように首をひねる。

「うーん、そうだなあ……。断れば良かったんじゃない? ガチめに。奇声発したり、相手がドン引きするくらい暴れたり……?」

「はあ……、そっか。そりゃそうだよな」

「でも、何が正しいかなんて、そんなこと本当に起こってみないと分かんないよね。テンパるだろうし、もしその対応を誤ってさ、大事な友達失うかもって考えちゃったら、そっちのがキツいかもね。だって唯一無二じゃん、幼なじみって」

「……っ、」

 思いもしない台詞に、言葉に詰まった。

 そうだ、そうなんだよ。
 唯一無二だと、思った。だから。
 拒めなかった、心底。


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