恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

文字の大きさ
上 下
61 / 107
遅かれ早かれ(side美夜飛)

47

しおりを挟む



 その横顔を眺めていたらいつの間にか眠っていたようで、つぎに起きたときにはテーブルは綺麗に片付けられ、いい匂いの湯気を燻らせる月見うどんが用意されていた。

 学食とはまた違う家庭の味って感じで、疲弊した身体は養分を欲し、出汁の香りも相まってするすると食が進み、今度は戻すこともなく完食した。

 腹は膨れて、解熱剤も飲んだせいかまた眠くなる俺に、廣瀬は『寝てていいよ』とこれまた人を甘やかしてどろどろに陥落させてくる。

 熱があるときって、他人の優しさが身に染みる。
 ていうか廣瀬の対応がいちいち丁寧で、労ってくれているのが分かるから。それが嬉しくて、そして心底感謝した。

 ひとりだったら、もう寝ることしかできなかっただろうから。

「それにしても裕太おっせえな……。道草食い荒らしてんのかな」

「迷子にでもなってんじゃね」

「ふは、あいつならあり得る」

 布団にくるまって微睡みながら、いつになく和やかに談笑していたら、何やら廊下のほうから、複数の足音と騒がしい声が近づいてくる。





「──いやいやまじで今はやめとこうって! 寝かせといてあげようよおっ!」

「?」

……この声、花岡?
 そう怪訝に思ったのは俺だけではなかったようで、廣瀬と目が合う。と、ほぼ同時に部屋の扉が勢いよく開き、ふたりそろって目を向けた。

「みーちゃん……!」

「へっ、兼嗣?」

「倒れたって、聞いて……っ、」

 花岡だと思ったそれは兼嗣で、瞠目する。
 ずるりと落ちてきた額のタオルを手に、思わず上体を起こした。

 急いで来たのか胸で呼吸する兼嗣の後ろで、薬局の袋を提げた花岡が居心地悪そうにオロオロしているのが見える。

 ふたりの様子に大体見当がついた。
 おおかた花岡がうっかり口を滑らせて、兼嗣の勢いを止めきれなかった、ってところか。

「おれっ、そこまで体調崩してたなんて知らなくてっ」

「……そりゃあ、言ってねえもん」

「なんで言ってくれないの?!」

「……その話、ここですんのか?」

 できれば場所を考えてほしい。
 さすがに昨夜のことを廣瀬と花岡の前でされるのは避けたい。
 少し良くなった体調がまた悪化しそうだ。

「……それなら、場所変えよう」

「あぁ」

 分かった、と膝に手をついて立ち上がろうとした俺の腕を、ふいに横から廣瀬が掴む。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

処理中です...