恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

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遅かれ早かれ(side美夜飛)

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 枕元に置かれていた自分のスマホを見るともう夕方で、ずっと看病させていたのかと申し訳なく感じる。

「……そんな、いいよ。寝てれば治る」

「医務室か迷ったんだけど……」

「絶っ対いやだ。病人じゃねえから、ほんとに」

「だよな、言うと思った。寝れば治るとかいつの時代だって。気合いにも限度あるからな」

 起き上がろうとした俺の肩をそっと押さえ、布団に逆戻りさせられる。

 優男め……。こいつの彼女は幸せだろうな。
 今だってすげえ優しい声で、仕方ないやつだなあって顔で俺に笑いかけてるの、自分で気づいてんのかな。

……気づいてないんだろうな。
 顔の造形もだけど、そういう内面からの余裕や思いやりがイケメンなんだよな。
 羨ましさを飛びこえて、いっそ崇めたくなる。


 大人しく布団に収まると、廣瀬は満足げに微笑んで、額にしっかりと絞った冷たいタオルを置いてきた。もはや兄ちゃんより母ちゃんって感じ。

 いやな頭痛がすうっと引いていく気がして、目を瞑る。
 眠くはないけど、ひんやりしたその感触も、落ち着いた声や室内の静かな空気も、心地いい。

「だって……、俺病気なんて普段しねえから、そういう場所まじ苦手……って、裕太? 花岡か?」

 そっか、あとであいつにも詫び入れとかねえとな……と、考えて、ふと思い出した。

「え、そうだけど? もうそろそろ帰ってくんじゃねえかな」

「……」

 気まずい。合わせる顔がなさすぎる。
 花岡はどういう気持ちでお使い行ったんだ……。
 いや、でもあいつは兼嗣の相手が俺だって知らないんだよな。

 知らなくても、そのうち分かるのは時間の問題だと思うけれど。

 考えるとまた頭がザクザク刺されるように痛くなってきて、こめかみを押さえる。

「あ、解熱薬だけでも飲むか? それなら俺も持っててさ」

「えっおれ、熱あんの……?」

「……今さらすぎない……?」

 俺の突然の体調不良は、もっぱら兼嗣からの行為による全身の筋肉痛と、精神的ストレスかつ内臓への負荷がかかった故の発熱、らしかった。

 原因が分かると少しホッとして、安静にしていれば治まると確証が持てたせいか気が楽になった。

 休日だったのも幸いした。とにかく今日は寝まくってはやく治そう。

「先になんか食うか。今日なんも食ってねえだろ」

「おなかすいてない」

「うどんは冷凍、雑炊はパウチならあるけど」

「豚骨ラーメン、激辛」

「食欲あるじゃねえか。うどんな」

 激辛の豚骨ラーメンは却下された。やっぱり母ちゃんっぽい。

 廣瀬はおもむろに立ち上がると冷蔵庫を物色しはじめて、部屋の一角にある簡素なキッチンに立ち、慣れた手つきで鍋でうどんを茹ではじめる。


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