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遅かれ早かれ(side美夜飛)
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しおりを挟む心臓が飛び跳ねて、硬直する。
何もできないまま兼嗣を見上げると、やつも目を丸くしていて似たような顔だった。
「あれっ? なんでこんなとこに俺の枕落ちてんの? なんか服めっちゃ脱ぎ散らかしてるし」
やばい、やばいこれ。本当にやばい。
花岡のペタペタした足音と、枕を拾った気配が聞こえる。
心臓の位置がどこかはっきりと分かるほど、脈打ってドクドクしてる。
神経が研ぎ澄まされ、空気の流れさえ肌を撫でた。
寝転んでいる俺に花岡は見えないから、向こうからしても同じだろうが、すぐ近くに声がある。
いくらハイタイプのロフトベッドでも、兼嗣にいたっては起き上がっていて丸見えだ。
どうすることもできず、俺は息を潜めて両手で顔を覆った。
ドコドコ跳ねる鼓動が速すぎて、心臓が痛い。
恐ろしくて、何も視界に入れたくない。
「って、兼嗣いるじゃん。なに、寝相悪かったの……か……って、……ん?」
まずい、兼嗣の存在に気付いた。
そりゃあそうだよな、という気持ちと、バレたくない一心で、俺は信じてもいない神に祈るように、ぎゅっと目を閉じる。
頼む頼むたのむ……っ、もうそれしか、なす術がなかった。
ばふ、ととっさに兼嗣が俺に布団をかぶせる。
瞼の裏が真っ暗になった。
「……て、いうか、えっ、えっえっ、ちょっと待って。待って待って。幻覚かな? こわいこわいこわいこわいっえ?」
「……何が、」
「みっ、見間違いじゃないなら、そそっ、その足……誰の? 男子寮だぞ、ここ……」
「……いいから、今すぐ出ていけ」
「はいぃっごめんなさい! 俺は何も見てないから……っ!!!」
バァンッ!と扉の閉まる爆音が部屋に反響し、今度こそ口から心臓が出ると思った。
バタバタと廊下を走る足音が遠くなり、室内はまた無音の重い沈黙に満たされる。
……バレた、よな。今のは。
布団をめくって覗きこむようなことをしなければ俺の顔は見られていないだろうが、兼嗣は完全にバレた。あと、
「……お前のあんな低い声、初めて聞いた……」
「俺も……初めて人に凄んだかもしんない……」
「は……、死ぬかとおもった」
暑苦しい布団を身体から剥ぎ取って、深呼吸する。
まだドキドキしてる。全然収まらない。
だって何も解決したわけじゃねえし、脚、見られてるし。安心には程遠い。
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