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遅かれ早かれ(side美夜飛)
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しおりを挟むでもここで恥じらいなんて見せたらそれこそ兼嗣の思うツボな気がして、本当は手繰り寄せたいシーツを、握りしめることで耐える。
「珍しく口ばっかりだね。もっと本気でさ、抵抗しようよ。じゃないとイイのかなって思うよ、俺。単純だから」
「お前……っ、そういう考えが許されるのは二次元だけだからな……!」
「じゃあ何? リアルの場合は他に理由あるの? どのみち許してくれないくせに」
兼嗣は冷ややかな視線のまま、抜きとったジャージと下着をロフトベッドの下へ投げ捨てる。のを、茫然と見届ける。
ばさりと布の塊が落ちる乾いた音がして、湧いてきたのは怒りでも悲しみでもなく。
風船を針で突いたみたいに、気が抜ける。
途方もなく空っぽな、寂寥感。
「……お前さ、なんなの、ほんとに。なんで?」
虚しさに脱力する。
泣きそうなのをこらえて、やつを睨む。
「……」
「なんで俺がお前を殴って逃げねぇか、わかんねえの……?」
「俺のこと、好きだから……?」
「っっ死ね!」
ポジティブか!この期に及んで!前向きか!
似てるようで全然違う。
なんだったら口の中に舌ねじ込まれた時点で、お前に対しての好感度なんて絶対零度だ。
それでも、こうしてお前との会話を諦めないくらいには、俺は、お前を──、
「信用してた……っ! 今だって、まだ、信用してるっ、拒めない、お前をっ、失いたくないからだよ……っんの、馬鹿たれェ!」
赤面ものの台詞を吐き、聞こえるようにわざと大きく舌打ちして、至近距離からありったけの右ストレートをお見舞いした。
「っ!!」
ゴッと鈍い音と同じく、振り抜いた拳に太くて硬い骨の感触がじんじん響く。
殴られたほうはもっと痛いだろうに、兼嗣は後ろに手をついたまま、頬を抑えるわけでもなく動かない。
分厚い前髪のせいで、表情が、何を考えているか分からない。
こいつの気持ちが分からないなんて、そんなの、初めてのことだった。
「……ごめん、みーちゃん」
「謝るなら最初からすんな……!」
「……違うよ。最初に、謝っておくねって、意味」
「……っは?!」
諦観か、それとも覚悟か。
感情の見えない落ち着いた声色に、ぎくりと身体が強張る。
前髪の隙間から見えた目は、情欲に濡れてギラついていた。
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