恋のヤンキー闇日記

あらき奏多

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遅かれ早かれ(side美夜飛)

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 約一ヶ月前の、妙に記憶に残った戯れが、今さらよみがえる。

 照明の明かりを遮る兼嗣の身体。
 俺を見つめる真摯な眼差し。
 足首を掴まれたときの、手のひらの温度。


──そして、日記の内容。

 俺のことを、舐めたいとかエッチだとか書いていた。
 詳しい文言は脳みそが理解するのを拒んで、文字が滑って頭に入らなかったのに。
 今、このタイミングで思い出す。

「じょ、冗談に決まってるだろ。こんな狭いところでふたりも寝れるかよ」

「みーちゃんのこと、抱き枕にしたら大丈夫だと思うよ」

『腕の中に抑えこんで』
『爪先から全身まで舐めたい』

 あの日記の文章が、呪いみたいに脳裏をよぎる。

 心臓が、喉の奥のすぐそこにあるみたいに、どくんと跳ねた。

「ばっ、馬鹿か! 誰がそんな気持ち悪いことさせるか! つーか花岡は? キモすぎてあいつだって引くだろ」

「今日は帰ってこないよ。別室の友達とパーティーって言ってた」

「ベッド余ってんじゃねえか! だったら尚更、俺とお前が同じ布団で寝る意味が分かんねえっつーの!」

「無断で人のベッド使うのよくないでしょ」

「うっせえ! 許可とってこい!」

 まくし立てて、焦りのせいで過敏に尖った神経が、怒りのように表面に出た。

 満更でもなさそうな兼嗣と、雲行きの怪しい話の方向に耐えられなくなって、勢いよく布団から起き上がる。

 出口を塞ぐように、梯子の近くに居座る兼嗣を手加減して足で小突いた。
 退け、俺はもう自分の部屋に帰る、という意味で。

 なのに、

「うぉあ……っ?!」

 足首あたりを掴まれ、バランスが崩れた。
 下半身が浮いたせいで達磨のようにひっくり返る。

 視界には真っ白な天井。それから、まっすぐにこちらを見下ろす兼嗣。
 背中には柔らかなマットレスの感触。

 一ヶ月前の既視感と危機感が、じわじわと、だけど鮮明に、現実味を帯びる。

「あ、でも、みーちゃんはそんなこと気にしないんだもんね」

「は……?」

 俺はこんなにも焦って、いやな予感に支配されて、早くここから逃げたいのに。

 兼嗣はむしろ柔らかな笑みさえ浮かべている。
 なんでこの状況で笑えんの?


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