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受難の前兆(side美夜飛)
03
しおりを挟む……これ。と、ベッドの上から腕をおろし、ひらひらとエロ本を見せる。と、すぐさま下からガタッと大きな音がして、寝ていたベッド全体が跳ね揺れた。
「ッい゙だ! ちょっと! なにしてんのっ、それどこで……!」
「ぶあっはは、頭打ってやんの」
思ったとおりの反応に、盛大に吹き出してゲラゲラ笑う。
バタバタと慌てた様子で梯子をのぼる足音がして、現れたやつはやっぱり想像どおりの焦った困り顔で、それが面白くて口元がゆるむ。
「こういうのはさ、ちゃんと隠しておけよ。な、兼嗣(かねつぐ)くん?」
ニヤニヤしながら言えば、兼嗣は顔を真っ赤にしてベッドの上まであがって来ようとする。
さすがに、ロフトベッドは天井が近くてめちゃくちゃ狭い。
ひとりでも窮屈なそんな空間に、無駄に長身で体格でかい男が入ってくるのは、むさ苦しいしキモい。
「馬っ鹿お前、こっち来んなっ、せまい!」
「いいからそれ見ないで! 返してよ!」
「見られるようなとこに置いてたお前が悪いんだろー? あっはっは! それにしてもお前、どんな性癖だよ、これ」
そう簡単には盗られないように、本を遠ざけて、脚で宙を蹴ってやつを牽制する。
もちろん本気じゃない。ただの悪ふざけだ。
「もうっ、怒るよまじで! みーちゃんってば!」
「ぶっは、ちょっ、狭いんだから……っ、わはは!」
本を奪おうと伸ばしてくる腕をかわしながら、腹を抱えて笑い声をあげた。
布団の上まで身を乗り上げてくる兼嗣の肩を脚で押しやって、上機嫌になる。ちょっと楽しくなってきた。
兼嗣も『怒るよ』なんて言いながら、半笑いじゃねーか。
ペットとじゃれあっているような戯れに、気を良くした俺は調子に乗ってしまって。
「うははっ、兼嗣、離せって!」
「ふは、ちょっと待って……ッおぁあっぶな!?」
兼嗣によって掴まれた足首を振り払うようにバタつかせた拍子に、やつがぐらりとバランスを崩す。
ずるっと梯子から足を滑らせた──のを、胸ぐらと肩口あたりのTシャツを握りこんで、全力で自分のほうへ引っ張りあげた。
「……!!」
ばふっと、ふたりして布団になだれ込む。
男ふたり分を支えたベッドはミシミシミシと壊れそうな悲鳴をあげ、大きく軋んだ。
「…………は、焦ったー……」
「ごっ、ごめんみーちゃん、ありがと」
「いや……、俺こそ」
ほとんど力の入らない体勢から無理やり引きあげたせいで、やつは俺の腹のあたりで茫然と突っ伏している。
俺は勢いの反動で背中を打ちつけたものの、枕とシーツがしっかりと受けとめてくれたおかげで、どこも痛くはない。
ふたりとも黙ると室内は静かだ。
ドクドクと、今になって心臓が速くなりだした。
正直ちょっと……いや、かなりヒヤッとした。
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